敵対意識
静希達を乗せた新幹線は問題なく喜吉学園の生徒達を目的の駅まで送り届けた
十六時過ぎ、夏場といえど日が傾き始め辺りが徐々にオレンジに染まりつつある中、静希達は目的の港へと到着していた
そこには喜吉学園とは違う制服に身を包んだ生徒たちが大勢いた
「あの制服ってどこのだっけ?」
「あれは鳴哀学園のよ、懐かしいわね」
鏡花は元より鳴哀学園の中等部から喜吉学園に転校してきた人間だ、喜吉学園より鳴哀学園の方が思い入れは深いだろう
「知り合いでも探してきたらどうだ?」
「やめとくわ、何かいやな予感するし、さっさと整列しときましょ」
教師の呼びかけの元順々に並びかけている生徒に混じろうとしている中、静希は雪奈がどこかを真直ぐ睨んでいることに気付いた
視線の先にいるのは大きなバックを背負った女子
その女子も真直ぐに雪奈を睨んでいた
二人が歩きだし目と鼻の先まで距離が縮んだあたりで静希は寒気を覚え雪奈の元へと向かうことにした
「よぉ『鈍』、相変わらず間抜けなツラ晒してるじゃないか?」
「お前に比べればましだよ『トリガーハッピー』、今も変わらず考えなしにぶっ放してるのか?」
二人の会話は殺気交じりに行われる
互いに笑っているのに目はまったく笑っていない
狂気を孕んだその笑みに静希は恐怖を覚えた
「考えなしはお前だろう?脳みその分全部胸の脂肪にいっちまってんだから、空っぽにしてはその頭大きすぎないか?」
「お前はすっからかんの頭にしては胸もないな、そんな頭と胸じゃ肩もこらないか?」
「上等だ、体中風通し良くしてやろうか」
「やってみろ、もっと肩こりしないように首から上軽くしてやる」
互いが自分の得物を握ろうとした瞬間静希が後ろから雪奈の首根っこを掴む
「着いていきなり何やってんだ、もうちょっと年上らしくおとなしくしててくれ」
「こら静!離しなさい!こいつとは決着をつけなきゃいけないんだ!」
首根っこを掴まれながらも暴れている雪奈を拘束しながら静希は相手を見る
身長は雪奈と同じくらいだろうか、だが雪奈に比べ非常に細身であることがうかがえる
「すいません、うちのバカ姉がご迷惑をおかけしました、ほら雪姉も謝りなさい」
「いやだね!こんな奴に謝ることなんて一つもない!」
拘束から抜け出そうと暴れるが静希はまったく雪奈を逃がす気はなさそうだった
そんなやり取りを見ていて目の前の女子は笑いだす
「なんだ『鈍』、お前普段こんな情けないのか?あっはっはっは、笑い殺すつもりかよ」
「何だとこら!そこになおれ叩き斬って「やめろっての」うぎゃん!」
静希が拳骨を喰らわせると雪奈は頭を抱えてその場にうずくまってしまう
「いやぁ、君良いなぁ、名前は?一年か?」
「五十嵐静希です、雪姉の後輩で一年生、この人とは昔からの付き合いでして」
「そうかそうか、初めまして五十嵐君、私は浅野青葉だ」
雪奈と同じ狂人の類かと思ったら随分と良心的な対応だ、静希は安心しながら差し出された手を握ろうとする
「やめなさい静!こんな奴に握手なんて必要ない!」
「雪姉、それはさすがに失礼だぞ」
「必要ないったらないの!静は黙ってなさい!」
余程浅野を静希に近づけたくないのか雪奈は浅野に対して威嚇しながら静希との間に割って入る
「にしてもむかつくな、こんないい弟がいたとは、私の弟と交換しろうらやましい」
「静は私の弟分だ、誰にもやる気はないね!」
「あぁん?聞こえないな?無理矢理私の物にしてやろうか?」
「できるもんならやってみろ、静に指一本でも触れたらその指切り落としてやる」
「よしわかった構えな、どっちが上か決着付けて「何やってんだお前は」ひぎゃ!」
突然後ろから現れた大きな身体の男子生徒が浅野めがけて鉄拳を浴びせる
浅野は先ほどの雪奈のように頭を抱えてうずくまってしまう
「すまない、うちのバカが迷惑をかけたようだ」
その声音と身長から恐らく二年生であると思われるその人はあまりに堂々と、そして礼儀正しく静希達に頭を下げる
「いえいえ、こちらもうちのバカ姉がご迷惑をかけました、今度からはもう少し躾をしておきますので」
「こちらもそうしておく、誰かれ構わず噛みつくような奴ではないにせよもう少し分別をわきまえさせる必要がありそうだ」
お互いに初めて会ったのに静希と男子生徒は目の前の人物が自分と同じ匂いを発していることを感づいていた
いうなれば苦労人の匂い
「やーい、怒られてやんの」
「うぐぐ、お前も同じだろうが!人のこと言えた義理か!」
「私のはいつものことですぅ、静が怒ったらあんなもんじゃないんだから」
「くっそ、ほんとに弟交換しろ、なんだあの出来た好青年は」
「私の自慢だからな、うらやましいだろ?」
「むかつく、穴たくさん増やしてやろうか?」
「なら腕落として軽くしてやるよ」
小声ながら足元で再度喧嘩を始めようとしている二人を見て男子二人はため息をつく
「とりあえず躾は最初が肝心ってことで」
「そうだな、そうしよう」
二人同時に拳骨を落としたことは言うまでもない




