新幹線での篭手
会場への移動を開始して数十分、静希達はこの辺りで一番大きな駅から新幹線に乗り込んでいた
なにげに静希、陽太、明利は初めての新幹線である
飛行機などと同じで能力者がこういった特別車両に乗ること自体禁止されてしまう事例も数多い
飛行機ほどではないにせよ静希達はかなりテンションが高かった
「あれだな、案外揺れないんだな」
「もっと揺れるのかと思ったけど、これなら平気そうだね」
乗り物酔いをしやすい明利からすれば揺れの大きさはかなり重要だ
その時の体調にもよるが、揺れが大きければ確実に酔う
だが静希達の乗る新幹線はそれほど揺れず、快適に生徒達を目的地まで運んでいた
「そう言えば雪さん、さっきから気になってたんだけどその腕、なに付けてんの?」
陽太が指さす先、新兵器などといってこれ見よがしに自慢してきた雪奈の新しい武器
聞かれたのがよほど嬉しいのか雪奈は満面の笑みで両腕についている篭手のようなものを全員に見せる
「なんだ?知りたいのか?しょうがない奴だな」
「ちょっといいですか?・・・あぁなるほど、肘の部分から刃物が出るようになってるみたい」
「あ!ちょっと鏡花ちゃん!ネタばらししないでよ!」
篭手に触れて軽く構造把握した鏡花によれば篭手の内部に刃が仕込んであり、肘の部分から飛び出るような仕掛けがしてあるらしい
「またこんなもん作らせて・・・あんま無理させんなよ?」
「いやいやいや、これこの前渡されたんだって!別に依頼したとかじゃなく、あの人の趣味でしょ?」
静希と雪奈の脳裏には同じ人物が浮かんでいる
陽太と明利は理解できているのだが鏡花と熊田は誰のことを言っているのかわからなかった
「静希、あの人って誰?」
「あぁそっか知らなかったっけ、俺のナイフとか雪姉の刀とか作った人、もう結構な歳でさ」
「その人のところにこの前の大剣とか預けてあるんだよ」
なるほどといいながら鏡花は雪奈の篭手をよく調べていく
「すごいわね、構造もそうだけどこの薄さで強度維持してるのが・・・あぁこうすればいいのか」
触るだけで物質の構造をほぼ完全に理解できるあたり反則のような性能を所持している鏡花、しかもその構造を理解したらすぐに再現できるというのだから恐ろしい
「ここをこうすると刃が出るんですね」
鏡花が雪奈の腕をいじると肘のあたりから鋭い刃が飛び出してくる
刃渡り二十センチといったところだろうか、良く切れそうな美しい切先をしている
「ちょちょちょ!いきなり出さないでよ!危ないんだからさ!」
「あ、ごめんなさい、にしてもすごいですね」
何かを作り出す者として圧倒的な技術に鏡花は感心する他なかった
雪奈が刃を戻すと静希は思い出すようにその篭手を見る
「てことは雪姉の刃物の数って・・・最大いくつよ」
雪奈の能力は刃物の装備数に応じて身体能力強化の上限が変わる
多ければ多いほど強くなる
もちろん雪奈が同時に能力を発動できる刃物の数も限りがあるが、その限界も年々上がってきている
「えっと・・・そうだな・・・全部で十八本かな」
「十八って・・・どうやって使うんですか・・・?」
以前の装備数よりも随分と数が上がっている
そう考えると雪奈の戦闘力もそれに比例して上昇していることになる
今まで静希達と一緒に戦ったあの姿でさえ彼女からしたらかなりセーブしている方なのだろう
「基本は二刀流だけど、状況によっては五刀流くらいまで上げるかな、今八刀流にチャレンジ中」
五本でもかなり多いのにそれに加えてさらに三本も増そうとしているこの女子高生
斬り裂き魔と呼ばれるのも仕方ないのではないかとその場にいる全員が思っていた
「でも使わなきゃ効果が得られないってわけじゃないんですよね?」
「そうだよ、身につけてればオーケー、でもどうせなら使いたいじゃない」
どうせなら
そんな理由で殺戮の方法を増やそうとしているあたり凄まじい
「何となくだけど、雪奈さんって静希そっくりだわ」
「は?どこが?」
使えるものは使う、状況に応じてどんな手段でも使おうとするあたり静希は雪奈の影響を多少なりとも受けている
「ふふん、弟は姉に似るものなのさ」
「血のつながりなんてないだろうが、ナイフと剣の扱いに関しては確かに学んだけど」
性格的なものではなく思考法的なものなのだが鏡花はそれ以上の言及はせず姉と弟分の二人を眺めていた
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