生徒の不安と教師の不安
「お前達は一体何をやっているんだ」
雪奈が明利を人質に静希と陽太に投降を呼びかけるところで担任教師城島の声がかかる
「おぉ、お代官様!このうつけ者どもにどうか鉄槌を」
「よしわかった」
お代官呼ばわりの陽太に城島の鉄拳が打ちおろされる
「じゃれあうのは勝手だが、移動中は静かにしていろ、これでもお前達はうちのクラスの代表だということを忘れるな」
頭を抱えながら転げまわる陽太を完全に無視して比較的まともであると思われる静希&鏡花にしっかりと注意をする
その間に雪奈は明利を人質状態から解放する
和洋どっちつかずの戦国物語はここで終了のようだった
ノリノリの演技状態から解放され静希と熊田は安堵のため息をつく
逆に鏡花と雪奈は少し残念そうだった
この寸劇に一体どんな思いで参加していたのだかと問いただしたくなる
「そういやどこに行くんですか?集合場所しか知らされてませんけど」
「まず新幹線で移動、その後は船だな」
「げ・・・」
船と聞いた瞬間に一班の一年生は若干嫌な顔をする
船で一度遭難しているためあまりいい印象はない
「その船遭難とかしないでしょうね?」
「安心しろ、小舟じゃなくて豪華客船だ」
それなら遭難の心配はないなと全員ほっとしていたのだが静希はまだ警戒を止めない
「船が会場なんですか?」
「いや、船で会場に移動する、まぁ本番前に顔合わせというわけだ、気を楽にしておけ」
船で移動するということは確実に目的地は島か何かだ
そこまで行けば少しは不安も紛れるだろう
「その船沈没とかしないですよね?」
「妙に疑うな、あれだけの船だ、沈むことはまずないだろうよ」
城島の言葉を受けて静希も少しは不安をぬぐえたのか大きくため息をついて肩の荷を下ろす
それなりに大きい船であれば多少の問題で沈没するようなことはないだろう
「何だ静、船怖いの?」
「怖いって言うか、最初に乗った船が遭難して無人島にたどり着いたからな、いい印象はない」
そりゃ災難だったねと笑っているが笑いごとではない
海に初めて行ってあれだけ強い自然の力を見せつけられたのだ、多少恐怖として残っているのは当然のことだろう
嵐の中で人がどうすることもできない状態になってしまうあの圧倒的な力、あそこまで雨と嵐が恐ろしいと感じたのはあれが初めてだ
「まったく情けないぞ、そのくらいで怖がるなんて」
「雪奈さんは分からないですよ!本当に怖かったんですから!」
「そうですよ、能力も使えなかったし、奇形種は出るし・・・」
「あー・・・ごめんごめん、悪かったって」
雪奈は明利と鏡花の頭をなでるが二人の恐怖はそれなりに強い
鏡花は普段能力に頼っている節があるし明利は恐怖自体に耐性があまりない
陽太はあっけらかんとしているがそれでも多少印象深い事件になっている
「まぁ、いざとなったら私が船作って逃げればいいし、何とかなるでしょ」
「遠くに逃げないと水流に巻き込まれるって聞いたよ?」
「じゃあエンジンとか搭載してないとまずいな」
「そうなったら陽太エンジンの出番だな、炎を使って動く何かを考えとかないと」
沈没する前に遠くに逃げられれば問題はないが、その隙があるかどうかが問題である
「お前達、船が沈没する前提で話をしていないか?」
「「「「え?沈まないの?」」」」
一年生全員はすでに沈むことを前提に話をしている
その反応に二年生は苦笑し城島は額に手を当てて呆れかえっている
一年生たちが今まで巻き込まれた事件を考えれば沈むことを前提に考えるのは普通のようなことに思えるかもしれないが、ここまでの過剰警戒はさすがにやり過ぎではないかと思う節があった
「安心しろ、たとえ氷山に船底を引っ掛けても沈まない、それに能力者たちが大量に乗り込むんだ、その程度問題ないだろう」
確かにただの無能力者であればなにもできず救命ボートに乗るしかないだろうが能力者であれば多少の対応はできる
一班の場合鏡花の能力に頼りがちになるだろうことは確定的に明らかだ
「じゃあ今のうちに沈没するパターンをいくつかシミュレーションしておくか」
「考えられるのは座礁と転覆と爆破、あとは・・・」
「また奇形種とかが来るかもよ?大きいの」
「なるほど、あり得るな、んじゃまず座礁あたりから」
「お前らどんだけ警戒するつもりだ」
もはや誰が大丈夫といっても疑い続ける始末
高校一年生でここまで疑い深くなってしまってこれからどうするのだろうと城島は教え子の将来が若干心配になってしまう




