女王と姫
「あんたね、勝手に人を持ちあげないでくれる?」
「いいじゃねえか、ほとんど事実なんだから」
「女王様ってのも結構あってるぞ、明利のお墨付きだ」
「えと・・・ごめんね、でも似合ってるよ?」
「嬉しくない」
鏡花はそっぽを向いて拗ねてしまっている
だが何かを思いついたのか、にやりと笑う
「なら私はクイーンね、最強の駒よ、崇め奉りなさい」
「クイーンって、チェスか・・・またなんとも奇妙な例えを」
「どっちかっつーと将棋の方がわかりやすいんだけど・・・鏡花は飛車角だな」
将棋内でほぼ最強の駒の飛車角、確かに鏡花にあっているのだがゲームが変わるだけで印象ががらりと変わるのが不思議なところだ
「ならあんたは歩かポーンね、前にしか進まないし」
「んだと!?せめて香車くらいあってもいいんじゃないのか!?」
「まぁまぁ、歩のない将棋は負け将棋って言うし、ある意味あってるよ」
この班は陽太がいなければ前衛がいなくなってしまう、そういう意味では非常に的確である
静希達後衛は前衛がいなければ成り立たないと言ってもいい配置を心がけている
主に盾となる前衛はかなり貴重なのだ
「じゃあ静希は何だよ、金銀じゃないし」
「静希は桂馬かナイトじゃない?動き独特なイメージあるわ」
「ナイトかぁ・・・騎士?」
「静希君は騎士のイメージはあんまりないよね、オルビアさんはそのものだけど」
オルビアを装備しているとはいえ静希の性格と戦い方から騎士のそれとは大きく違いがある
そもそも騎士であるオルビアを装備している時点で騎士とは言い難いのではないだろうか
「雪姉はポーンか・・・いや香車とルークかな」
「速いイメージはあるよな、熊田先輩は・・・」
「こう、かゆい所に手が届くというか」
「それこそ金銀あたりが妥当か?」
熊田の能力は非常に幅が広い、その上適度に攻撃もできる
金銀が合わさった状態の駒が一番説明しやすい
チェスにその動きをする駒はほとんどないのが難点だ
「じゃあ明利は?」
そう言われて全員が明利に向く
「明利は・・・なんだろう」
駒で何といわれると非常に困る
そもそも攻撃をほとんどしない明利に攻撃兵としての駒の役割があるかも微妙なところである
全員で悩んでいると雪奈がポンと手を叩く
「あれだよ、鏡花ちゃんが女王様だから明ちゃんはお姫様だ」
「あー!城の中で待ってる感じ?」
「どっちかって言うと囚われの姫ってイメージが強いかも」
静希と鏡花の想像内では城の中の高い塔でドレスを着て窓から外を見ている明利の姿が映し出される
予想外に似合っている上に妙な悲壮感を漂わせているせいでリアリティが強すぎる気がした
「なるほど、言い得て妙だな」
「わ、私だって戦えるよ!」
明利が必死に弁解しようとしているが戦闘が本分ではない彼女が何を言っても説得力は皆無だった
「じゃあ女王様の鏡花はあれか、継母的な?」
「姫様をいびる意地悪い継母的な?」
「あんたら喧嘩売ってる?女王様に逆らえば死罪よ?」
「おぉ怖い、では女王様、この者達に罰をお与えください」
雪奈も悪乗りして鏡花に頭を下げながら静希と陽太に矛先を向けさせる
その姿はさながら悪い女王に仕える大臣か軍師のようだ
「ふふん、愚かな!我らは姫の直轄!女王様といえど我らを裁くことはできないのだ」
陽太も完全に悪乗りしている、明利の影に隠れながら高笑いしている
姫の後ろに隠れるその様子は歩兵とは言い難い
「み、皆のものしずまれい、私の前で争い事はやめてくだされ!」
明利も演技を始め何とかしようとしているが微妙に言葉が日本風というか西洋風ではない、戦国時代の姫に近い気がする
「おぉ姫よそこまで争い事が嫌いとは嘆かわしい!我ら戦乱の世に居場所を見出す修羅の家系、そのようなことでは私の後は継げないわ!」
とうとう鏡花まで演技を始めたせいで話の収拾がつかなくなってきている、もはやなにかの演劇のようだ
「なんか話がえらく壮絶な感じになってるな、つかどこの設定なのこれ?」
「突っ込んだら負けだぞ五十嵐、ここは話が終わるまで傍観を決め込んでおこう」
冷静な男性陣が傍観を決めようとしていたのだがそうは問屋がおろさないのか、静希には陽太が、熊田の元には雪奈がそれぞれ駆け寄る
「さあ静希!我らが姫の為に立ちあがろうではないか!」
「熊田よ、我が女王様に逆らう愚か者に裁きを下そうぞ!」
前衛のノリノリの演技にため息をつきながら静希と熊田はお手上げのポーズをとる
いったい何の話なのかもわからずに静希、陽太擁する明利姫軍と雪奈、熊田を擁する鏡花女王軍との戦争が始まっていた
誤字報告をいただいたので複数投稿
将棋はある程度できるのですがチェスはからっきしです
これからもお楽しみいただければ幸いです




