剣の在り方
「あぁもう!じゃあ結局何だってのよ!」
「それを言ったら面白くないだろ?実際見てからのお楽しみだ」
「静希君、意地悪しないで教えてあげたら?」
「ダメだ、こういうのはインパクトが重要なんだ、第一印象って結構重要だぞ、それに口で言ってもなにそれとか言われそうだしな」
静希が能力を使い攻撃する上で気をつけるのは相手に能力の内容の上限を知られないようにすること
それが仲間内だったり昔からそれを知っている人間ならば何の問題も気にすることもなく能力を使うが、自分の能力を知らない人間に対してはとことん注意しながら能力を使う
もっと言えば相手に能力を使っているところを見せないのが理想である
「確かにあんたの能力受けた時は結構衝撃的だったかも・・・」
「だろ?何事もはじめが肝心なんだ」
鏡花が静希の能力で攻撃を受けたのは二対二の演習時
周囲を警戒したにもかかわらずいつの間にか飛んできたナイフが足に突き刺さった
それこそいつ能力を使ったのかもどうやって刺したのかもわからない程に
さらには壁を作って時間稼ぎをしようとしたら爆破
これで印象が弱いなどとは言えない
能力において物質系と現象系は同一能力では使用できないとされている
何の情報もなければ静希はナイフを操り、爆発を起こすことのできる特殊な能力者であると錯覚するかもしれない
「まさかあれか?即死系か?」
「いや牽制だって、今回のは殺傷能力自体は低め、あんまり強くないとも言えるな」
静希の持つ即死系のカードは硫化水素がその一例である
だが今回の内容物は攻撃によるダメージが目的ではない
「もしかしてフラッシュバンとか?静もとうとうまっとうな武器を使うようになったか・・・」
「どこでそんなもの手に入れるのさ、もっと別なものだよ」
閃光手榴弾とも呼ばれる屋内制圧などによく使われるフラッシュバン、強力な光と音で対象の知覚を封じる投擲型の武器である、確かに殺傷能力は低いが、まったく別の物だ
「麻酔銃やペイント弾の類か?あれなら牽制で殺傷能力は低いが」
「残念ながらNOです、意外と正解でないものだな」
「ますます気になるわね、ヒントだけでもよこしなさいよ」
くらいついたまま離さない鏡花に静希は僅かに悩み始める
「そうだな、お前も今までの人生で一度は見たことがあるし使ったことがあると思う、てか無能力者も普通に使うものだな」
「はぁ?ますます分かんないわよ」
ヒントがヒントになっていないような気もしたのだが、静希はこれ以上ヒントを出す気はなさそうだった
「さ、終わったんだから帰ろうぜ、せいぜい頭をひねるがいいさ」
「ああもう!いつか絶対見せなさいよ?」
「わかったわかった」
静希達は別れを告げて帰宅していく
家で翌日の準備をしながら気体作成にいそしんでいるとインターフォンが鳴り響く
オルビアが対応するとそこには先ほど別れたばかりの雪奈がいる
「これは雪奈様、何かご用でしょうか?」
「うん、静どこ?」
「はい、マスターなら奥に、どうぞおあがりください」
「はいはーい」
勝手知ったる静希の家、もはや客人とも思えない気軽さで中へと入っていく
「マスター、雪奈様がお見えになりました」
「あぁ、雪姉、どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、さっき頼んでたナイフ、借りに来たんだよ」
「あぁ、そろそろ自分で用意しなよ・・・オルビア」
「はい、雪奈様こちらがご注文の品になります」
先ほどの会話をトランプの中で聞いていたのだろう、静希の部屋からいくつか雪奈の扱いやすそうなナイフを選別して鞘に入れた状態で提供する
「・・・こうしてるとさ、もうオルビアちゃんメイドさんだよね」
「メイド・・・というと女中のことでしょうか?」
「古風に言うとそうかな、だって完全に仕事やらたち振る舞いがメイドさんじゃん!」
確かにオルビアの行動や佇まいは熟練の従者を連想させる
これでメイド服を着ていたら完全にメイドにしか見えなくなるのだろう
「何を言いますかこの雪姉は、別に俺は強制した覚えはないぞ」
「マスターのおっしゃる通りです、マスターには以前『この家にいるうちは好きに動いてくれて構わない』とのお言葉をいただいております、なので私は掃除洗濯などの日常家事とマスターのお世話をさせていただいているだけです」
すでに現代機械のほとんどをマスターしたオルビアにとってこの程度たいしたことではない
だが人外ニートばかりを抱えてきた静希にとっては非常にありがたい存在だった
「オルビアさんって騎士だったんだよね?それもけっこう位の高い・・・」
「騎士にとってもこの程度は最低限必要技能です、ですが情けないことに私は炊事に関してはとんと疎く、そういった技術を持たないため食事に関してはマスターの手を煩わせてしまっています」
「あぁ・・・そういえばオルビアさんってイギリスの方の人だっけ?」
イギリス出身であることを思い出し雪奈は僅かに哀れみの表情を見せる
食文化に対して昨今はまともになりつつあるが、オルビアの生きた時代はそんなにまともな食文化があったとは思えない
「はい・・・幼き日より最低限食べることのできる程度の調理法は心得ていますが、マスターの作る料理には遠く及びません」
「静ってそんなに料理うまかったっけ?」
「いんや、男料理だけ、本格的なのはレシピ見ながらじゃないと」
明利のような料理が好きな人種ならまだしも静希は基本ある程度おいしくてきちんと栄養が取れればそれでいいというスタンスだ
もちろん一人暮らしが長いのである程度の技術は有しているが、本業には遠く及ばない
「ご謙遜を、以前マスターと味覚を共有させてもらったのですが、私が人として生きていたころでもあれほど美味な料理は味わったことがありませんでした!まさに至高というにふさわしい一品!この国の食文化は素晴らしい!」
「・・・」
「・・・ねえ静、今度オルビアちゃんをレストランにでも連れて行かない?」
「そうだな、ちょっといいもの食べに行くか」
「・・・マスター?雪奈様?なぜ目頭を押さえているのですか?」
何故二人が自分を見てなんとも言えない表情をしているのか分からずにオルビアは困惑し続けていた




