昔と今
「そういえばさ、鏡花ちゃんはどんな子供だったの?」
「え?私?」
今まで静希達の昔の話は何度かする機会があったが、鏡花の幼少時代というのはあまり聞いたことがない
すでに全員の興味は遭難話から鏡花の幼少時代へと移ってしまっている
「そんなこといっても、ただの子供だったわよ?公園で砂遊びしたり、能力の訓練したり、そんなたいした話は・・・」
「じゃあ引っ越してくる前はどんなことしてたんだ?中学の頃とか」
陽太の言葉に鏡花の眉間にしわが寄る
中学時代を思い出しているのだろうか、徐々に不機嫌になっていく
「あー・・・あっちの学校はあんまいいことなかったわね、事あるごとに突っかかってきたバカがいてね、そのせいでいつも迷惑ばっかよ」
「ほう、まるで陽太みたいだな、事あるごとに突っかかる」
「陽太の方が何倍もましよ、こいつは物分かりがいいし基本的には感情論なんだから、あっちは下手に頭がいいせいですごいむかつくのよ、なんかこう神経逆なでって言うか・・・とにかくいい印象はなかったわね」
物分かりがいいと言われ陽太は嬉しそうに胸を張っているがそもそもバカにされていることに気付いているのだろうか
「たしか鳴哀学園だったっけ?どこにあるの?」
「西日本・・・近畿地方って言えばわかるかしら?私は小学校からずっとそっちにいたの」
その言葉に全員が怪訝な顔をする
「時に清水、ならお前は何故関西弁を使わない?」
熊田の言葉に全員がうんうんと頷く
関西出身なら大体が関西弁を使うのに鏡花は完璧な標準語だ、欠片もなまりなどは無い
「そーだそーだ!関西弁少女、いいと思うよ、今からでも使おうよ」
「えと、なんとかやでとか?なんやねんとか?」
「どすえとかなんとかやわとかも有名だな」
「関西出身なのに関西弁使わないとか、没個性にも程があるぞー」
「あんたぶん殴られたいの?両親の出身は関東だから標準語生活だっただけよ」
実際関西に住んでいながら標準語で過ごす人間がいない訳ではない
だが小学校などの幼い時期で周りにそういった言語を使う人間がたくさんいれば多少影響を受けてもいいものだが
若干残念なところでもある静希達だった
なお日本にある四つの専門学校は東北、関東、近畿、九州の地方に一つずつあり、各地方で一番近い専門校に行くことになっている
もちろん遠すぎる学生などには寮などの設備が用意されている
「ていうかそしたら今度の交流会でもしかしたら昔のクラスメートに会うかもしれないんじゃん、やったな鏡花」
「あんまり嬉しくないわ・・・仲良かった子はいたけど、その子あんまり成績良くなかったし・・・」
今回交流会に呼ばれるのはクラスの最優秀班のみ
必然的に能力の高さか連携の上手さが問われる訳でそのどれにも鏡花の記憶の中の人物はあてはまりそうになかった
「じゃあ熊田先輩は?子供のころどんなんだったんすか?」
「ん?たいしたことはない、今とあまり変わらないぞ、仲間を集めてかくれんぼだとかいたずらだとかをよくやったものだ」
「へえ、熊田先輩がいたずらってイメージできないですね」
熊田に対しては性格面では真面目な印象を受ける一年全員が意外そうな反応をする
「ちなみにどんないたずらしてたんですか?」
「そうだな、昔廃屋などに肝試しに来る若い連中がいたんだが、そこに仲間を集めてお化けを演出したり、やたら大声で話すバカどもがいたらそいつらに能力を使って脅かしてやったり、なにもない公園でオーケストラもどきもやったぞ」
熊田の能力は音だ、なにもない誰もいない空間に人の笑い声を再現したり楽器の音を作ることなど容易いことだ
熊田は幼いころから能力をかなり高いレベルでコントロールできていたということになる
「明利は昔もこんなんだったの?」
「あれ?何で私だけどんなだったのって聞いてくれないの?」
明利の疑問に鏡花はその小さな少女の頭に手を乗せ軽く撫で始める
「え?だって明利ちっちゃいし」
「私だって成長してるよ!?」
「明利は小学校のころからほとんど身長は伸びてないよな」
「静希君!?酷いよ!ちゃんと伸びてるよ!」
「何センチ?」
実際にどれほど伸びたのかと聞かれて明利は若干困りながら顔を赤くする
「え・・・う・・・えと・・・ミリ・・・」
「え?」
「・・・二ミリ・・・」
それはもはや誤差の範囲なのではないかと思えるほどに僅かな成長に鏡花は哀れみさえ覚えながら今にも泣きそうな顔の明利の頭をなでる
「実際のところどうなの?明利って昔からこうなの?」
「いや?昔の明利はもっとびくびくおどおどしてたぞ、かなりましになった方だ」
「じゃあ内面はしっかり成長してるんじゃない、外見より中身よ」
「でももっと身長ほしいよ」
身長だけは努力しても限界がある
数ある努力をこなして成果が二ミリではおそらく明利の成長期は既に終わっているのではないかと思われる




