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J/53  作者: 池金啓太
七話「有無にこだわる自尊心」

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子供の頃の思い出

「当時俺らは小学生でさ、まだ外出、特に遠くに行ったり遊びに行くのにも許可が必要な時期で久しぶりに皆で遊べる日だったんだよ」


「あぁ、小学生って結構忙しいもんね」


能力者の小学生にとって放課後などはほとんどが能力の制御訓練に当てられる


定期的に行われる試験に合格できなければ更生指導施設に入れられる可能性が高まるため小学生といえど訓練は非常に精度の高いもので行われる


幼いころから能力の制御法を知っておかなければ成人した際に能力の暴走を起こす可能性がある、そして制御の不安定な小学生以下の子供は外出にも許可が必要な場合がある


静希達が当時行こうとしていたのは近所の山、陽太の能力の性質上、山での虫とりはしっかりと事前申請とその許可がなければいけないような事だったのだ


「例によって面倒事があった後に皆で虫とりに行った時、帰り道で盛大に迷子になってな、そこから小学生の山籠り五日間が始まった訳だけども、獲物を捕まえるのが一番苦労したな」


「あれ?でも確かあんたの能力って昔はすごく少ない容量しか入れられなかったんじゃなかったっけ?どうやって狩りしたのよ」


静希は幼少のころ、最初は五十グラムしか入れられない程に能力が弱かった


それに比べれば今はずいぶんと成長した方だろう


「俺じゃなくて雪姉が狩り、陽太が火、俺が調理だった、何せ昔の俺の攻撃手段は山葵だったからな」


「は?山葵って、あの山葵?寿司とかに付ける?」


山葵、日本に住む人間ならば九十九%は知っているだろうポピュラーな薬味だ


鼻をつく独特な刺激が涙線を刺激する魚類と合わせることの多い日本独特の食材の一つである


「昔俺山葵食べられなくてさ、手についた状態で涙拭こうとして大惨事になってこれは武器にも使えるなと・・・ってそんなことはどうでもいいんだよ」


つまりは幼少時の静希と喧嘩しようものなら眼球めがけ山葵が射出されるという恐ろしい状態にあったということだ


ある意味今よりも恐ろしいかもわからない


「それで雪姉が狩りをするんだけど、その時の囮を俺と陽太がやってたんだけどな、一番すごかったのは熊を倒した時だったっけか」


「そうそう、三日目だったか?ありゃ怖かったなぁ」


「熊?熊ぁ!?え?小学校の頃の話よね?」


「そうだよ、あの時は雪姉も三本までしか能力同時に使えなかったからなぁ」


「子供の頃の話だよ、今となってはか弱い乙女さ」


はははどの口がほざくかと静希が笑いながら当時のことを思い出す


「いやぁ、あんときはほんと二人がいなきゃ死んでたよ確実に」


「能力使ってたけどさ、熊がすごい勢いで襲いかかってくるってすごい怖いんだぞ?車なんかよりずっと怖い、ギラギラした目ととがった牙で即殺しにかかってくるんだもんな」


陽太の能力も当時は今ほど安定していなかった


しかも体もずっと小さく、制御下では身体能力の強化も随分と低かった


だからこそ囮しかできなかったのだ


「でも熊ってそんな好戦的だったっけ?」


「それが運悪いことに子育て中だったみたいでさ、近くに子熊いたし」


「あちゃー・・・ご愁傷さまね」


子育て中の熊は外敵を発見するや否や襲いかかる


自分の子供を守るために必要以上に警戒心を高めて強い殺意を持って襲ってくる


静希と陽太は完全に外敵として認められ襲われた形になる


「俺らがもうだめだって諦めた瞬間熊が地面に倒れ込むんだぜ?あんときゃ腰が抜けたよ」


それはまさに技巧の粋とでも言えばいいのだろうか


木の上に登って隙を窺っていた雪奈が熊が両腕を上げて二人に襲いかかる瞬間に頭にナイフを突き立てながら、後ろから首を骨ごと切裂く


そして皮一枚で繋がった首を二度目の斬撃で斬り落とす


おおよそ子供ではできないことも能力を用いてやすやすと行って見せた雪奈


幼いながらに斬り裂き魔としての片鱗を大きく見せつけた事件でもあった


「あんときの雪姉は怖かったよ、血まみれで笑ってんだもんな」


「でもなんつーかヒーローがやってくるみたいな感じですげー!かっけー!って思ったもんだよ」


「あー、それはあるな、確かにピンチに駆けつけるって感じだった」


当の雪奈はというと褒められていると受け取ったのか恥ずかしそうに目線をそらしている


だがそのことを想像してみると小学生の女の子がナイフを持って熊をやすやすと殺してみせるという恐ろしい構造が出来上がっている


「ちなみに参考までに聞きたいんだけどさ、他にはどんな獲物を狩ってたの?」


「ん?そうだな、ウサギとか蛇とか、川で魚も獲ったっけ」


「そうそう、んで川の下流に向かって町についたんだよな」


自分が考えていたよりずっと壮絶な五日間を過ごしていたんだなと恐ろしくなりながら鏡花は明利の方を見る


「その場に明利がいなくてよかったわね」


もし幼少時の明利がいたらそんな殺戮シーンを見ただけで失神してしまいそうだ


「いや明利がいた方がよかったんだよ!明利がいれば迷うこともなかったんだから」


そういうことを言っているのではないのだが、どちらにしろ過去の話


五日間の静希達の大冒険もとい遭難事件はなんとも恐ろしくも素晴らしく終わったようでなによりだった


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