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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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美味と写真

明利が近くの花同士で受粉させ、再度急激に成長を施し、実をつけさせ、枯らし、種を摘出する


明利の同調による成長は植物を枯らせることもできる


だが明利自身ここまで成長させることは少ない


カリクなどの希少な種を取り出す際や何か理由がない限り故意に植物を枯らせることはない


明利自身植物が好きだというのもその原因の一つである


「お、結構うまいな、元のザリガニとは少し違う味だ」


「なんだこれは・・・エビとカニの中間のような・・・少し貝のような食感もあるな」


「うわ!すごいぷりぷりしてるわね!醤油ほしいわ」


「あーいいね醤油、静!ちょっと醤油、あとあればマヨネーズちょっと頂戴」


「お前ら人がしんみりしてるときに何食ってやがんだコラァ!」


出来上がったザリガニの塩ゆでを頬張りながら静希に調味料を要求している


つい数時間前まで自分達を食べようとしていたザリガニをああも簡単に調理されては立つ瀬がない


「まぁまぁそういわず食べてみ、食わず嫌いは感心しないぞ」


「そうよ、ほら明利も食べてみなさいって」


「そーだそーだ!生き物はそうやって血肉になっていくんだ!」


「これは一口食べる価値ありだ、騙されたと思って食べてみろ」


四人からこうも勧められては食べない訳にはいかず静希達も雪奈の手によって一口サイズにされたザリガニの肉を口に含む


「ん・・・んお!」


所詮エビのようなものと甘く見ていたが予想をはるかに超える弾力


噛み砕こうと歯に力を込めると弾けるように身が裂け中から肉汁が飛び出てくる


僅かな甘みを含んだ肉、確かにこれは醤油がよくあうかもしれない

「美味しい・・・すごい・・・甘みもあるね」


「でしょ?!ほら静希さっさと調味料だしなさいよ」


「ったく・・・でも確かに美味いな・・・全部とはいわねえけど、こりゃ食べないのは少し・・・いやかなりもったいないぞ」


「まったくだよ、研究所まで見つけなきゃよかったな」


確かに研究所を見つけなければこのザリガニはただの奇形種として処理されていた可能性が高い


それこそ近隣住民の皆さんに鍋として振る舞われた可能性も大いにあり得た


結果的にこのような僅かな肉しかつまみ食いできないのが残念な程にこの肉は美味かった


「これだとあら汁とかも美味しそうなんだけどね、残念だわ」


「しょうがないって、委員会の人が来るまでこのわずかな肉で我慢しようじゃないか」


「だがいいのか?これは検体になるだろうに、我々で食してしまって」


「正当報酬っすよ!命がけで狩りして貰えるのが評価だけじゃあんまりっす、俺らが仕留めたなら俺らが食う権利は十分あります!」


「陽太が言うと何かあれだけど、それなら一番の立役者の明利と雪姉がたくさん食べるべきだな」


「え?私は別にたいしたことはしてないよ」


ワイワイと残った肉を食べながら温まり、足を丸々一本分平らげたのは言うまでもない


「お前達、先ほど連絡があって・・・何やってるんだ?」


城島がやってきたのは足を本格的に調理し始めた矢先だった


即席の鍋にろ過した水を入れ静希の調味料を使ってあら汁を作っている最中だった


「あ、先生も食いますか?なかなか美味いっすよこいつ」


呑気に身の一つを差し出すが城島の呆れた雰囲気は止まらない


額に手を当ててザリガニを口に含んでいる生徒達を見渡すと大きくため息をつく


「五十嵐、清水、この班のブレーキ役のお前達まで何をやっているんだ」


「いやすいません、予想外に美味くて」


「さすがに誰の血肉にもならずいじくりまわされるのも哀れだと思って、いたしかたなく」


なんともばつの悪い表情を作っているのだが、城島としてもため息一つ作るだけでそれ以上の追及はなかった


「ま、気持ちはわからんでもない、昔私もよくやったよ」


「先生も奇形種を倒したことあるんですか?」


「そりゃあるに決まっているだろう、お前達の何倍もの数を仕留めてきた、一番大きかった奴がこれより少し大きいイタチだったな」


イタチというと体長三十センチほどの大きさの哺乳動物だ


このザリガニより大きいとなると相当な大きさだ


「イタチって・・・さすがに信じられないですよ」


「写真があるが見るか?といっても昔のだが」


城島が出したのは携帯の中に収められた古い写真のようだった


解像度があまり高くなく、個人の顔も把握できるのだが細部までは写しきれていない


そこには確かに茶色い体毛をした巨大な生き物が映っている


その顔のつくりから確かにイタチのようだと見て取れた


そこには四人の人間が映っている


一人は帽子を深くかぶり目元を隠している少女


一人は活発そうな短髪の少女、帽子の少女と肩を組んでブイサインしている


一人はイタチの頭の上に乗って高笑いし、一人は高笑いしている男子生徒にドロップキックをかます直前のようだった


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