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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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塩ゆで

「それでこいつの監視はいつまで?」


「さぁ、委員会の人が一体いつ頃に来るのかわからないので何とも言い難いですね」


「そうですか・・・では自分はこれで」


荻野は仕事がまだあるらしく漁業組合の建物へと去っていく


いつまでもこうしているわけにもいかないのだが実際静希達もどれくらいに委員会の人間が来るのかわかっていない


城島が今日来ると言っていたのだからそれは確実だろうが、万が一このまま深夜近くまで見張っていることを考えるとやることがなさ過ぎて時間を持て余してしまうだろう


「ずっとこいつを見てるのも暇すぎるしな、いっそのこと食ってやろうか」


「え?ザリガニって食べられるの?」


「食えるよ!美味いぞ!」


この亡骸を引き渡すということが頭から抜けてしまっているのだろうか、陽太も鏡花もどうすればザリガニがおいしくなるのかという談議に入ってしまった


ふと橋の上を見上げると先ほどまで城島と口論をしていた吉岡がザリガニと自分達を見ている、いや睨んでいると言った方が適切だろう


明らかに敵意を含んだその眼に静希は僅かに眉間にしわを寄せる


そのまま何も言わずに橋の向こう側へといなくなる吉岡に雪奈も気付いていたようだ


「なにあの人?結局先生に言い負かされちゃったわけ?」


「すごい顔してたね、なにもあんなに睨まなくても・・・」


「男の嫉妬というやつか、まったくみっともないったらないな」


ザリガニお料理教室に参加していない二年含めた三人が立ち去っていく吉岡の後姿を見てなんとも酷評を述べる中、実は静希も似たような感想を抱いていた


「というかあの人からすりゃ俺達は邪魔をした張本人なんだから、ある意味ああいうのでも間違いないと思うけど」


「いや、負けた邪魔したではなく、ああやって未練たらたらなところがダメなんだよ、静もああいうふうにはなっちゃだめだよ?」


「なるつもりはないけどさ、こいつ使ってなにしようとしてたんだか」


「しっかりと研究所内部まで調べて正解だったな、あいつが奇形種を見つけフィアを見つけたら喜んで解剖していたかもしれない」


「静希、塩くれ」


「はいよ、確かにそれは言えるかも、もしフィアが実験材料にされたらと思うと背筋がぞっとする」


「無事でよかったねフィア、でも生きてる限りこのザリガニを研究するのってすごく難しい気がするよ?」


「確かに、こいつをおとなしくさせるだけで相当苦労する、へたすりゃ研究所丸ごとこいつの胃袋行きかもな・・・ん?」


ザリガニを見上げながらなんやかんやと議論を交わしていると何やら香ばしい匂いが漂ってくる


どこから漂っているのかと辺りを見回すとそこにはいつの間にか作ったのか鍋を用意して何かを煮ている陽太と鏡花の姿がある


「何やってんだお前ら」


「あ、静希ちょうどよかった、もうちょっと塩が欲しいの、まだ在庫ある?」


よくよく見ると鍋の中にはザリガニからえぐり取ったのか足をちぎり取ったのか、甲殻ごと入れられた大きな身が入っている


ぐつぐつと沸騰した湯に入れられることでその色はどんどん変色し辺りに湯気と香りをまき散らしていた


「人の話聞いてたのか?この死骸は委員会が持ってくんだよ」


「わかってるけどよ、ちょっとくらいいいじゃねえか、こんだけでかいんだしそもそもすでに頭のあたり粉砕されてるし」


確かに正常な形を保っているかといわれればザリガニはもはやまともな形をしていない


頭から胴の中ほどまで砕け裂かれ、足はほとんど第一関節までもがれ、身体の中心や各甲殻の隙間からは枝や根が突き破って表に出てきている


原形をとどめているとは言い難いフォルムになってしまっているのは間違いない


「だからって勝手に料理するってどういうことだよ、つかなに作ってんだよ」


「いや塩ゆでした後食べてダメだったら味噌汁にチャレンジしてみようかと」


「いいじゃないものは試しよ、という訳で静希、塩か味噌出して」


「ふざけんな、調味料が欲しけりゃ自分で調達しろ、さっきの塩だってあれで全部だ」


先ほど特に何も考えず陽太達の下に塩をすべて出してしまったが失敗だった


なにが悲しくて自分たちが倒した目標を食べなくてはいけないのか


「へえ、塩ゆでか、何かエビみたいでおいしそうじゃん」


「ほう、なかなかいい匂いをさせるな、泥や砂抜きはしたのか?」


「もうバッチリっす、あと少し煮たら完成」


二年生まで料理に参加しだしてしまう中、明利はザリガニの近くに歩み寄っていた


ザリガニから生えている木に触れ何かやっている


「どうした?」


「あ・・・えと、種を回収しようと思ったんだけど」


明利は木の一部を急激に成長させて花を咲かせていた


彼女の持つカリクの種はかなり貴重だ


そもそも生き物にしか根を下ろさないこの木は発見されること自体が珍しい


過去、背にカリクの木を生やしながら百年近く生きた亀がいるらしいが、静希達は実物を見たことはない


この木が根を下ろすそれすなわち根を張られた生き物は基本的には長く生きられない


常に栄養をとられ続けるということはそれだけ大きなハンデを擁することになる


大きな動植物に根を下ろし生き物と共にゆっくりと成長していく分には問題ないが小動物などに寄生した場合数年で死んでしまう


カリクはそれゆえに希少な木なのだ


誤字報告を受けたので複数投稿


最近誤字が多くなってきましたね、たるんでる証拠だ



誤字多めな作品ですがこれからもお楽しみいただければ幸いです

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