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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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F1A

静希達はとりあえず先ほどあったことと、ザリガニがここから逃げ出してきたとみて間違いないことを全員に説明する


「なるほど、それじゃこいつは静希のペットになった訳か、名前は?」


「私は公太郎がいいと思うんだよ、日本名でこそ日本人のペットさね」


「日本名はいいけど、この子男の子?女の子?」


「さっき同調した時は女の子だったよ」


実際に同調して身体を調べた結果を知っている明利からすれば一目瞭然、一応鏡花が身体を隅々まで調べることで雌であることが確認された


「じゃあ公太郎は却下だな」


「むぅ、メスじゃあしょうがないね・・・」


女の子なのにも関わらず公太郎などと名付けられてはこのリスも浮かばれないだろう


名前は重要な記号だ


その人物や生物の一生に関わる大事な物だ


だからこそみんな頭をひねって考えだす


「リッキーってどうよ」


「なんか安直じゃない?・・・子栗ってどう?」


「読みにくい、ここはリスでどうだ?」


「そのまんますぎっすよ、ジェニファーなんてどうよ」


「適当に英名だすな、ミケはどうだ?」


「リスじゃなくて猫っぽいよ?」


次々と名前が出てくるのだがどれもこれも却下されていく


考えつく限り名前を出しているのだがどれもこれも順々に却下されてしまう


ふとリスの身体の一部にバーコードのついた紙が付いているのを思い出す


「そういやこいつ管理されてたならもともと名前付いてるんじゃないか?どっかに動物の管理資料とかないか?」


「さっきあったわ、持ってくる」


先にこの場を調べていた鏡花がいくつかのファイルを持ってくる


そこにはバーコードの登録番号順に実験動物の詳細が記載されていた


「えっと・・・この子は・・・あった・・・フィア?」


資料にある写真と現物を照合してそれらしき生物を調べるとそこにはF1Aと書かれている


「鏡花、それフィアじゃなくF一Aだ、たぶん十六進数だな」


十六進数とは文字通り十六個目で位が一つ上がる進数表記のことである


あまりにも数が多かったりする場合用いられる記号だ


「なんだ、でも他に名前とか書いてないわよ?」


「もうさっきのフィアでいいんじゃない?女の子っぽいしさ」


そうだなと先ほどまで迷いまくっていた全員が頷いて静希の頭の上にいるリスに視線を向ける


思わぬところから命名されてしまった


このリスの奇形種の名前はめでたく『フィア』と決定した


「じゃあ名前も決まったことだし本題に行こう、この施設の見取り図あったんだろ?見せてくれるか?」


「はいはい、こっち来て」


鏡花の案内で狭い部屋の中に全員がぞろぞろと移動する


中はファイル置き場と資料、そしてデスクでいっぱいだ


どうやら事務を行う場所であり資料室にもなっているようだった


「これが見取り図、だいたい左右対称になってるわね」


静希達が今いるところが事務室、そして隣接して正面ロビーと出入り口


出入り口を真上に見て左右から真下へ道が延びている


左通路真直ぐのところに食糧庫、先ほど静希達のいた場所だ


右通路真直ぐのところに解剖室、こちらは陽太達が向かった場所だろう


そして途中の扉から静希達が分かれた部屋まで部屋が連続し資料室及び小動物の監視室


これはどちらの方角でも同じようだった


静希達がこの施設に入ってきた大きな場所は実験室と書かれている


そしてこの見取り図をよくよく見るとここは地下室もあるようだ


そもそも今いる場所が地上かどうかも記されていないために地下と表記していいものか怪しいが、ここより下に階層があることは間違いないらしい


「どうする?一応地下も見ておく?」


「見とかなきゃ安全かどうかも分からないだろ・・・まぁこいつみたいに生き残ってるやつがいるとも限らないけど」


「下に行く前にここの資料これで全部か?いつ頃ここがつぶれたとか見といた方がよくね?」


「確かにな、それによっても対応が変わるぞ、十年以上前なら問題ないが一年以内なら生き残っている生き物は複数いると見るべきだろう」


なるほど確かにと全員でそこにある資料を探し回る


だがそこにあるのは事務経理的な書類ばかり


静希達の中に経理に詳しい人間などいるはずもなくなにがなにやらさっぱり理解できなかった


資料を探し回っている中静希は一つのファイルを手に取る


そこにはこの研究所に勤めていたと思われる人物の名前と写真、身分証明のコードなどが書かれている


写真やコードのいくつかはマジックで消されたりしているがその中の一人に静希は目が向いた


「あれ・・・?この人どっかで・・・?」


静希が目に留めたのは一人の職員


年の頃は二十後半くらいだろうか、誠実そうな顔つきで写っている


名前は吉岡賢治、この施設の研究者の一人のようだった


その名前を見た時静希の記憶が刺激される


先日風呂上がりに保護がどうだの言っていた男性


写真は記憶よりも少し若いが確かに吉岡本人のようだった


「おい鏡花、これ見ろ」


「ん?これって昨日の?」


他の班員に確認を取っても反応は皆同じだった


目標の保護を謳っていた男性吉岡


静希の中で面倒事の渦が広がっている気がしてならなかった


この研究所が何故、いつ封鎖になったのか、知る必要がありそうだ


静希は携帯で電話をかけ始める


『もしもし?何か問題か?』


相手は担任教師城島だった


自分たちで判断できないし分からない場合には一番頼りになるオブザーバーでもある


「ちょっと気になることがありまして、まず目標討伐は成功しました、その後目標の巣を探索していたら謎の施設に出ました、動物実験などを行う施設だったようなんですけど、詳細は不明、なので先生が何か知っていたらと」


『いきなり動物実験がどうの言われてもな・・・名前とか座標とかは分からないのか?』


さすがに情報が少なすぎたかと鏡花に携帯についているGPSで現在地を調べてもらう


その情報を伝えると城島は数秒の沈黙の後おぉと声を上げる、どうやら調べがついたようだ


情報を共有するために全員に向こうの声が聞こえるようにし会話を続ける


「どうですか?」


『うむ、まさかお前たちがそこに行きついているとはな・・・いや位置的にあり得ない話じゃないんだが・・・以前お前達に魔素の大量注入の実験の話はしただろう?』


城島の言葉に全員が肯定する


一番最初の実験の電車での会話だ、能力で高い数値を出すために魔素を大量に人体に注入する実験、結果的に注入自体は上手く行ったが被験者は死亡したという内容だったと静希は記憶していた


『その実験の一環としてまずは動物実験があってな、人体ではなく、動物に魔素を過剰摂取させる実験がそこで行われたんだ、ずいぶん昔の話だが』


「え?その実験って動物実験とかやってたんですか?」


『当たり前だ、マウス相手に成功しないものを人様で試すわけがないだろう』


考えてみれば当然かもしれない、薬物なども全て人間で試す前に動物で臨床実験するのは当然の話だ


「動物実験してたのに死亡者が出たんですか?それって意味ないんじゃ・・・」


鏡花の言う通り動物実験は人体に死の危険がある場合に行われ、その危険を排除するためにある


逆に言えば人体臨床を行ったということは動物実験をクリアしたということになる


だが実際は動物実験の過程をクリアしているのにもかかわらず人間で死亡者が出ている


これでは意味がないのではないだろうか


『そこは専門家でも意見が割れていてな、動物は確かに能力強化の傾向が見られたのになぜ人間はダメだったのか、それが本能から来るのか能力の差異によるものなのか・・・っと話がそれたな』


本題はこの実験施設が何故、いつ頃潰れたかという点だ


『結論から言えば、その施設が閉鎖されたのは今から二年ほど前だ、原因は・・・表向きは不明確な金の動きが元となった内部告発となっているが、実際は例の魔素注入実験のしわ寄せだろうな』


二年、言葉にすると酷く短いが時間に直せば結構な長さだ


フィアはその二年の間あの食料庫のペットフードを全て食べて食いつないでいたのだろう、静希達が生きている間にこの小さなリスに出会えたのは運がよかったのかもしれない


「それと気になることがもう一つ、昨日目標の保護を訴えていた吉岡って人覚えてますか?」


『あぁ覚えているぞ、真面目な顔してふざけたことほざいてた間抜けだな、あいつがどうかしたのか?』


随分と酷い言いようだが、多分城島自身も吉岡の性格が好きになれなかったのだろう


静希達が来る前は城島一人で彼の相手をしていたようなものなのだ、当然と言えなくもない


「彼の名前がここの研究者名簿の中にあるんです、写真も今より少し若いですけど」


封鎖して二年といっていたが、二年でこれほど人が変化するとは考えにくい


ただ単に更新していない古い写真を記載したものか、またはこの二年で酷く苦労したのか


『ほぉ?なるほどそういうことか、あのインテリめ、頭はいいがバカの典型だな』


「あの、納得してないで説明してくれませんか?」


状況がさっぱり理解できない静希達に城島は嬉しそうに笑っている


なにが嬉しいのかも静希達にはさっぱり分からなかった


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