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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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明利の切札

静希は思わず下流を注視した


そこには肩に何かを担いだ雪奈が走ってきている


「陽太!作戦準備!」


「おっしゃ!ようやくかよ!」


目標から距離を取り、やる気をみなぎらせると同時に炎を滾らせる


雨と川による減衰などないものであるかのように炎と熱の総量を上昇させていく


「明利、準備だ」


「・・・うん!」


明利の元に駆け寄り明利から一つの種を受け取る


これで準備はすべて整った


「雪姉の後に続くぞ!鏡花!熊田先輩!足止めよろしく!」


「「了解!」」


片方のハサミは根元に剣が突き刺さったままのせいで上手く動かせないようでもがいているが、もう一本ハサミは残っている


そのハサミを熊田のワイヤーが雁字搦めにし甲殻内部に音波を飛ばし、ほんの数秒だが動きを止め、ザリガニの本体を鏡花の土の拘束具が覆い隠していく


「よっしゃぁぁぁ!いっくぞぉぉぉぉぉぉ!」


雪奈が振るったそれは、もはや剣とは言えなかった


幅が五十センチ、厚さでさえ十センチもあろう、長さは二mに届くような巨大な鉄の塊


おおよそ人間には持つこともできないような重さ、そして振るうことなどできるはずのない大きさ


能力により得た身体能力を行使して雪奈は大きく振りかぶる


絶叫にも似た雄たけびとともに巨躯めがけ巨大な剣を振り抜いた


その一振りは甲殻を容易に砕き、その奥にあった肉もえぐりザリガニの身体に大きな傷を残した


瞬間、陽太が傷口めがけ飛びかかる


雪奈の作った傷痕が修復する前に持ち前の炎の高熱で焼いていく


「いいぞ!いけ静希!」


仕事を終えた陽太が上空に跳躍し、雪奈が剣を振り抜いた動きのまま静希に道を譲る


明利から渡された種を片手で握りながら手刀を作りザリガニの体めがけ接近する


最後のあがきなのかそれとも偶然か、拘束を抜けたハサミが静希めがけ襲いかかる


だがそのハサミは静希の身体を守る障壁によって容易く防がれる


距離をゼロにした静希は柔らかいザリガニの肉に深々と腕を突き立てた


腕を伝わる温かい体温と肉を裂く音が静希の耳に聞こえ、体内に種を残し静希は腕を引き抜く


「明利!今だ!」


静希がその場から離れる瞬間明利が祈るようなポーズを取り、その能力、切札が発動する


マーキングの施された種に明利の力がそそがれ始める


ザリガニは数秒動きを止めたが、僅かに痙攣してまた動きだす


「ちょ!ちょっと!全然何も起きないじゃない!」


鏡花があわてて能力を発動しようとした瞬間、それは起きた


ザリガニの体内から甲殻を押しのけながら木の枝や根が次々に生えてきていた


肉を潰し、血をすすり、甲殻を割りながらその木は成長していく


明利の持つ切札とも言える攻撃手段、それがこのヤドリギ


本来のヤドリギは同じ植物などに寄生する樹木だが、明利の持つ種は少々特別である


それは動物に寄生し、養分を吸い上げる特性を持った明利の切札『カリク』と呼ばれるヤドリギの一種である


目標の持つ再生の能力があっても、体内の傷の場所に木があっては再生などできはしない


そしてその再生ができたとしても自らの養分を吸い取り続ける木の成長に追い付けない


やがて木は光を求めてザリガニの身体を破り外の世界へと出ていく


体内のほとんどを木で覆い尽くされたのか、ザリガニはもう動くこともできずに木となることを強制された


だが生きようという本能からか能力が発動し続け、傷を癒そうと必死に修復が行われていく


だがその傷からもやがて木の根と枝が生えてくる


数分後には青々とした葉を付けた一本の木がザリガニの身体を突き破り生まれていた


「うわぁ・・・」


「言ったろ?生き物に対しては、一番えげつない攻撃だって」


鏡花は顔をそむけていた


これはもはや攻撃ではない、木による生き物の捕食だ


攻撃が苦手だからといって攻撃できない訳ではない


明利はその気になれば人間にだってこれを使える


もちろん彼女がそんなことをできるはずがないということは分かっている


静希の言う通りこの班で唯一明利は生き物に対し、ほぼ確実に相手を『殺せる』手段を有している


明利が目標に近づいてその身体と同調する


「・・・まだ・・・生きてる」


再生能力のおかげか、いや能力のせいか、ザリガニはまだ生きることを強要され続けている


この状態では生きているなど拷問に近い


「このままじゃあんまりだな・・・雪姉」


「あいよ」


巨大な剣を振りかぶる前に鏡花が止める


「ちょっと待った!あの愛護の人が捕獲って言ってたけど、それはいいの?」


「この状態で野生に返せると思ってるのか?こいつはもう木に栄養吸われ続けるだけの苗床だ、そんな状態で生き続けるくらいなら殺してやった方がいい」


最後の情けとでもいうべきか


自分たちが殺そうとした命、せめて最後くらい安らかに死なせてやりたい


こんな肉を裂かれ続け再生し続ける状態を続けるのは哀れすぎる


剣を振り上げ、全員が祈る


「じゃあな、せめて安らかに」


頭部にめがけ振り下ろされ、一撃目で頭部の甲殻を完全に粉砕した


何とか再生しようとしているのだろうが甲殻から内臓にかけていたるところに再生を施しているために僅かに再生が追い付かない


そして二撃目、再生しきっていない甲殻の隙間に叩きつけられた大剣は頭から胴体までを裂き、砕き、ザリガニは僅かに痙攣した後完全に動かなくなる


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