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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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持久戦

雪奈の大剣がザリガニの細い脚を薙ぎ払う


先ほどから雪奈は攻撃対象を胴体から足へと変えザリガニの行動を封じ続けていた


だが足での移動を封じてもザリガニは胴体と尾を使って巧みに身体を動かし静希達に襲いかかる


鏡花が何度形状変換を用いてその動きを封じようとしても巨体から繰り出されるただ暴れるだけの行動が全てを薙ぎ払っていく


熊田のワイヤーによる拘束も、切削も少し身をよじるだけで簡単にはがされ、硬い甲殻の前にはまったく意味をなしていない


陽太の攻撃も甲殻の前にまったく効いた様子がない


陽太が無意味なら静希はなおさらだ、攻撃手段がナイフと剣しかない状態なのだから


相手がザリガニでさえなければ、いや甲殻類でさえなければここまで苦戦をすることはなかっただろう


「あぁもう、何時までやりゃいいのさ!さすがに疲れてきたよ」


一体どれほど攻撃を繰り返しただろう


ザリガニは一向に行動をやめる仕草はなく刻一刻と時間だけが過ぎていく


「雪姉は休憩しながら戦ってくれ!いざって時動けないんじゃ話にならない!」


「でも足ふさがなきゃどうしようもないじゃん!動きだしたら厄介だよ!?」


確かにこの巨体で移動されたら面倒なことになることはわかりきっている


雪奈が足を封じてくれている今だからこそまともに時間を稼げているのだ


「なら鏡花!例のあれ頼む!」


「はいはい!雪奈さん!合わせますから足薙ぎ払っちゃってください!」


「はいよぉ!」


鏡花の言葉通り雪奈は大剣を振るい片方の足を薙ぎ払う


それとほぼ同時に土が盛り上がり足の切断面に覆いかぶさる


土はどんどん硬質化しやがて岩のようになっていく


ザリガニの足はそれ以上再生することなく僅かに動かしているが本来の機能を取り戻すことはなかった


「よっしゃ、オルビアの策ばっちりだな、もう片方も頼む!それが終わったら雪姉は休憩だ」


「おっしゃ!もういっちょおぉぉぉぉお!」


雪奈の剣が風を薙ぎ払いながら足を粉砕していく


そして鏡花の能力で傷口が土によってふさがれていき、構造変換で土をより硬く変質していく


「んじゃ私は少し休ませてもらうよ、明ちゃん!回復ー!」


後方で警戒だけしていた明利の方に向かっていき僅かに受けた打撃と疲労の回復を依頼する


静希達にできるのが時間稼ぎだけというのだから始末に負えない


「ちくしょう!全然効いてないじゃんかよぉ!」


先ほどから何度拳をぶつけても硬い甲殻に弾かれてしまっている陽太は随分と焦っているようだった


「やけになってんじゃねえよ!こっちだって攻撃まともにあたってないんだぞ!」


甲殻の隙間を狙って攻撃している静希もハサミと胴体を警戒しながらヒットアンドアウェイを繰り返しているが数回しか内部にまで攻撃を当てられていない


しかもすぐに回復されてしまうのでは焦りもする


「あ、そうだいいこと思いついた!」


「あ、おい陽太!」


陽太は尾の方へと走りそして跳躍しザリガニの背に乗る


「これならハサミでも攻撃できないだろ!?ざまあ見ろエビがぁ!」


甲殻類、カニなどにもある特徴だが関節などの問題からハサミや足を背中の方に伸ばすことができない


背中がかゆい時にすごく困りそうな特徴だが今はプラスに働いている


「おぉ!いいぞ陽太!そのまま殻引っぺがしちまえ!」


「言われなくてもぉぉぉぉ!」


陽太は背中の甲殻の隙間から指を突き入れ、殻をはがそうと全身に力を込める


メリメリという音とともに徐々に甲殻に亀裂が走っていく中ザリガニが慌てて背中にハサミを向けようとするが陽太にはまったく届かない


「へっへっへ、悔しかったら孫の手でも持ってこいボケがぁ!」


高笑いしながら甲殻をもう少しではがせるという寸前のところに来てザリガニの身体が大きく跳ねる


足が使えない今、ザリガニができるのは身体全体を使った足掻きだけ


だがその足掻きがこの状況に最も効果的に作用した


「おぉぉおぉぉおいなんだよ!?暴れんなってこの・・・あ・・・」


強烈な上下運動に晒され、陽太は迂闊にも甲殻にかけていた手を離してしまい上空に投げ出されてしまう


上に投げ出された陽太をザリガニは見逃さず地面に着地する前にハサミで瞬時につかんだ


「痛ててててててててて!この離しやがれ!」


炎を滾らせてハサミを掴むが強烈な力を込められたハサミは強化された陽太の膂力をもってしてもほどくことはできなかった


掴むだけで岩をも破壊するハサミだ、このままでは陽太がどうなるかわかったものではない



「静希ぃぃぃぃ!ヘェェェルプ!ヘルプミー!」


「あのバカ!油断し過ぎなんだ!」


トランプを陽太の元に飛翔させ中身を解放する


封じ込められていた酸素が解放され陽太の火力が一時的に急上昇する


それに比例して身体能力も急上昇し僅かではあるがハサミに隙間を作ることができ何とか脱出に成功する


「危なかったぁ!サンキュー」


「背中に乗るってのはいい案だったかもしれなかったけど、あれじゃお前以外がやったら死ぬな・・・」


あそこまで暴れられたらここら一帯にいる鏡花や熊田達もただでは済まない可能性もある


ザリガニにつぶされる最後なんてみじめ過ぎる、遺族になんて説明すればいいのか皆目見当がつかない


気付かれずに背中に上って致命傷を与えられればなおよしなのだが、そううまくはいかないのが現状だった


「ちょっとザリガニ博士!なんかザリガニの弱点みたいな習性は無いわけ!?なんかに弱いとかなにが苦手とか!これだけは気をつけろみたいなのは!?」


「んなもん知ってたら俺が試してるっつーの!冷たい水だと活動が鈍くなるくらいだよ!他の弱点なんて聞いたこともない!気をつけることは同じ水槽にあまりたくさん入れすぎないことだ!ストレスがたまる上に共食いが始まる!」


「誰が飼う時の諸注意を上げろって言った!?こんなザリガニたくさんいてたまるもんですか!」


「お前らじゃれてないでちゃんと戦えこのバカども!」


「バカどもって言った!?陽太何かと同列に扱わないでよね!」


「あんだと!?ザリガニに関してだったらお前より絶対頭いい自信があるね!賭けてもいい!」


「ザリガニ限定な時点でバカ確定よ!」


戦いながら器用に口喧嘩を続ける陽太と鏡花を見て静希はもう何も言うまいと呆れかえる


こいつらやっぱり仲いいじゃないかと思いながら静希は剣を振るう


「実際このザリガニ、本当に弱点ないのかよ、何かしらあるだろ?」


「えと・・・流れが速いところは身体が受け付けないとか・・・住みつかないとか・・・あとは・・・さっきもやったけど背中にハサミが届かないとか」


「じゃあ鏡花姉さん、ここは洪水でも濁流でも鉄砲水でも起こしちゃってくださいよ、弱点だそうですぜ」


「あんた私をなんだと思ってるのよ!時間かかり過ぎるわよ!」


時間がかかるということはやろうと思えばできるのか


などと思いながら静希達は再度ザリガニに苦戦を強いられていると静希の携帯が着信を告げる


「はいもしもし!?どちらさん!?」


相手も確認せずに携帯の向こう側に声を飛ばすと不機嫌そうなため息が聞こえてくる


『おい五十嵐、お前達の方から頼んでおいてその言葉づかいはいったいなんだ?お前も教育指導してやろうか?』


機嫌がいいとは言えない声の主は城島だった


まさか戦闘中に電話をかけることになるとは思っていなかったために静希はとりあえずザリガニから距離を取りながら会話を続ける


「先生、お叱りは後で受けますから!武器は届いたんですか!?」


『その様子だと戦闘中のようだな、なら早めに済まそう、先ほど武器は届いた、もうお前達のところに』


城島がそれ以上何かを言う前に下流から隕石でも落ちたのではないかというような轟音が響いてくる


『どうやら届いたらしいな、健闘を祈る』


要件だけさっさと告げて通話を切ってしまう城島だがようやく状況が先に進む


「雪姉!お届け物だ!ポイントまで移動して回収してくれ!」


「了解!ようやく来たか!」


雪奈は心底うれしそうに全力疾走していく


あとは雪奈が帰ってくるまで時間を稼ぐだけ


「俺と陽太は温存しながら、鏡花、熊田先輩は全力でこいつの足止め!」


全員の返答を聞く前に静希はトランプをザリガニの視界中に散布する


ザリガニ本来の習性も少しは残っているらしく視界に入った触れられないトランプに夢中でハサミを振るい続けている


鏡花は胴体に向けて形状変換で少しでも拘束を、そして熊田はワイヤーと甲殻無視の音響攻撃で僅かな時間だがザリガニの動きを止めていた


終わりの見えなかった耐久マラソンに終着点が見えたことで全員の顔が引き締まる


最後まで気は抜けない


身体を震わしながら拘束から抜け出していくザリガニの顔面に向けて陽太の拳が襲いかかる


一瞬強烈な熱で焼かれたザリガニは暴れながら陽太をはたき落とそうとハサミを叩きつけようとする

瞬間、ハサミの根元、胴体との付け根部分に高速で飛翔してきた鏡花の作った大剣が寸分たがわず突き刺さる


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