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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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強者 弱者

「ちなみに、今回の実習内容って本当なら何年生くらいがやる内容なんですか?」


先ほどの城島の言葉が気になったのか鏡花が魚の身をほぐしながら何とはなしに聞いてみた


その回答には静希も非常に興味が注がれる


それ以前に今まで自分たちが行った実習がどれくらいの難易度なのか知りたいところだ


「うん?そうだな、完全奇形、それも体格および行動変異型なら・・・二年か三年がやる内容だな、場合によってはその上だ」


改めて思う、静希達は何か呪われているのではないかと


なんで一年の実習で二、三年がやる内容を行わなくてはならないのか


「なぁ事前に委員会が調査してくれたとか言ってなかったっけ?」


「あれは悪魔神格の類が関わっているかいないかの調査、目標に対しての調査じゃないわ」


そういえばそうだったと静希は大きく肩を落とす


悪魔や神格に遭遇する可能性はゼロでも強力な奇形種に遭遇する可能性を失念していた


「時に、初回と前回のような内容はどれくらいの難易度なのですか?」


「前の二回は学生の手に負える難易度じゃない、専門のチームや特殊部隊が動く事件だ、お前達は相当運がいい部類だ、いや運が悪いといった方がいいのか?」


「先生、それ笑うところですか?泣くところですか?」


恐らく後者だなと城島はカラカラと笑っているが当事者の静希達はたまったものではない


なにが悲しくて大人でも手を焼くような内容の任務を実習で行わなくてはならないのか


一学期の成績に特別な評価を与えてくれなかったら暴動を起こしてもおかしくないレベルだ、今度直々に交渉してみることにしよう


「あと連中はどうしているんだ?外に出していないだろうな?」


城島の連中という単語に静希は一瞬何のことを言っているのか分からなかったが思い出すように自分の能力の中にいる悪魔と神格のことを思い出す


「あの二人はおとなしくしてくれてますよ、実習中はトランプの中で静観決め込んでます、オルビアは普通に武器として役に立ってくれてますけど」


「ふむ、ならいいが」


城島にとって、いや静希にとっても懸念すべきは悪魔や神格の存在が、正しくは静希が悪魔と神格を保有しているという点が外部に漏れる可能性である


それが漏れるだけで静希の学生としての生活が終了しかねないのだから


「先生、何かアドバイスとかないんですか?あれだけの相手だと武器あってもちょっと苦戦しそうですよ」


ようやく口論を終えたのか雪奈が会話に入りこんでくる


長い長いエビカニ論争は結局のところどういう結果で終わったのか静希としては気になるところだが会話のワードの節々にナメクジだのなんだのが入っている時点でまともな会話は期待できないだろう


「そうだな・・・野生動物相手は一撃必殺が基本だが・・・今回の相手はお前達を敵でなく餌として見てくれている分まだ救いがある、明日の攻撃時はちょこまか動いて確実に倒せる策を一回で決めろとしか言えないな」


野生動物は臆病である


いや、慎重であるといった方が正しいだろう


それは生き残ろうという本能から来るものであり、傷を負えばそれだけで死ぬ可能性があるからでもある


人間が怪我をしたら病院などに駆け込めば済む話だが野生動物にはそれがない、僅かな傷が生死を左右することになりかねない、だからこそ相手が自分より格上だと理解すれば攻撃の意志が向けられただけで逃走する


いくら相手がザリガニのような思考を重ねるような生き物ではないにせよ生き物としての根本は変わらない


自らに命の危険が迫れば逃げだすだろう


だが今回は少し事情が違う


猫にかまれて逃げだすようなライオンはいないように、人が蚊に血を吸われただけで慌てふためかないように、格下の生き物相手に命の危機を感じる生き物はいない


今回のザリガニ相手に優位な点があるとすれば相手側とこちら側の認識の違いにあると言えるだろう


狩る側と狩られる側


そのどちらになるかは静希達次第


「でもあいつ今日は最終的に俺達から逃げ出しましたよ?明日ちゃんと戦ってくれるんすかね?」


雪奈と同じく論争を終えた陽太の疑問はもっともだ


静希達のような人間ならば一度深手を負わされた相手には警戒を持って行動するのは当然


最悪敵対しないように隠れてチャンスをうかがうのが定石であると言える


「相手はザリガニだぞ、お前たちがどんな姿をしているかなんて数分後には忘れている、というかそもそも覚えられていないかもしれないぞ?」


人間と違いザリガニの知性はそれほど高くない


明日になれば目標は今日と同じように静希達をただの餌と認識するだろう


「何かそれもそれでむかつく話ですね」


「仕方ない、いちいち小さなことを覚えていられないのは人間も動物も同じだ、せいぜいひと泡吹かせてやれ」


「ザリガニって泡吹くのかな?」


「言葉の綾だ」


身体能力でも大きさでも、恐らく能力でも劣っている相手


だがそんなものは分かり切ったこと、自分達は学生なのだ、相手の方が強いのは至極当然だ


だからこそいつものように静希達は全力で強者を打倒するために策を練る


弱者が強者に勝つためにはいつだって策を巡らせるものである


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