エビカニ論争
その日の食事は魚料理を中心とした和風の料理だった
各部屋に食事を運ぶということもできたようなのだが全員で集合して城島の部屋で夕食を取ることになっていた
「だからさ、どんな名前だろうとその姿形が本質を表すってことがなんでわからないかな」
「なんでさ、そんなこと言ったらヤドカリとカタツムリが似たようなものだって言えるのか?貝背負ってるってだけで全く別物じゃんか!」
「いやあれ全く別の生き物じゃん!名前なんて人間がつけた名前なんだから間違いだってあるっしょ!どっかの海の名前とかそのものズバリだろ!」
「・・・あの二人はなにを言い合ってるの?」
「ザリガニがエビかカニかの論争だ」
食事風景に混じってエビカニ論争を繰り広げる陽太と雪奈
この二人が言い合っているのは珍しい光景だ
その内容がザリガニのことでなければどうしたのかと止めに入るところだが今は面白いから静観に徹することにする
「先生の見解としてはどうですか?」
「ん?私はザリガニはエビの仲間だと思っているんだが」
「いや、エビかカニかの話じゃなくて、行動が元来のザリガニと異なる件についてです」
さっすが先生話がわかる!雪さんほらやっぱりエビの仲間なんだよと陽太がわめいているが今は無視することにする
「ふむ、お前達の話だとたしかザリガニ本来の習性ではあり得ない行動を繰り返しているんだったか?」
「はい、ハサミを叩きつけたり足踏みしたり」
「あと尻尾振り回したりもしてたわよね」
「普通はハサミで掴んだりするんだよね」
一年三人の言葉に城島は魚を口に入れながら思考を巡らせる
「考えられるとしたら、完全奇形の特異点だろうな」
「特異点?」
またも聞いたことのない言葉に口論している二人を除く全員が疑問符を飛ばす
「完全奇形に見られる特殊事例のことでな、完全奇形は奇形が全身に及んでいるというのは先にも説明したと思うが、その中にも特殊な例がある、大きさ、形、それだけでなく遺伝情報にまで奇形が及ぶ可能性がある」
なんとも分かりにくい説明に静希達は理解が追い付かない
「えと、つまり完全奇形は元の生物とは別物になってしまうことがあるってことですか?」
「その通りだ、幹原の言う通り完全奇形は元の生物とは違う習性、違う動作、違う交配を行う輩までいる、今回の場合奇形種としては特殊だが、完全奇形の中では比較的良心的な相手だろう」
生物学に精通している明利の要約で静希も何となく理解した
例えるなら馬が二本足で歩いたりライオンが草食になったりと本来の生き物に適合しているはずの行動が全く別の物に変わってしまうことがあるようだ
だがどんな解釈があったとしてもあれが良心的とは思えない
「あ、そうだ先生、目標に攻撃した時こんなものが」
静希が戦闘中に発見した紙に書かれたバーコードのようなものを城島に渡す
先の戦闘でオルビアの刀身に張り付いていたものだ
「なんだこれは?何かの商品記号か?」
「わかりません、攻撃した後にいつの間にか剣にくっついてて」
「ふむ・・・一応私が保管しておこう、調べも付けておく」
お願いしますとみそ汁を飲みながら未だ口論を続けている二人を眺めて眉間にしわを寄せる
いつの間にか議論はエビカニの区分から離れナメクジとカタツムリの違いについてになってしまっている
なにをどうしたらそんな話になるのか、幼馴染の静希としては頭が痛い
「時に五十嵐、明日の予定を聞いていなかったのだが、すでに決まったのか?」
「えぇ、一応、もしかしたら先生にも協力をお願いするかもしれません」
「協力?私は引率だぞ、目標に手出しはしないからな」
前回の時とは違いやはり今回はあまり協力的ではないようだ
だが目標に攻撃してほしい訳ではない
「明日雪姉の武器がここに届くことになってるんですけど、もし俺達の行動開始時間に間に合わなかったときにこの座標に武器を運んでほしいんです」
静希は地図を取り出してその場所を指さす
ちょうど静希達が今日たどり着いたところ、目標と遭遇した場所でもある
「え?目標がいる場所に運んでもらった方がいいんじゃないの?」
「その場所が戦闘になってるかもしれないんだぞ、運んでもらったら一時雪姉には後退してもらって武器回収する暇がないと危ないだろ、ただでさえ攻撃範囲が馬鹿みたいに広いんだから」
「私はまだ運んでやるとは言ってないんだが」
城島の言葉に改めて静希達は頭を下げる
長考した後城島は大きくため息をつく
「わかった、その程度であれば協力してやる、今回の実習も一年には少しきつい物だからな」
「「「ありがとうございます」」」
承諾してくれた城島に静希達は頭を下げる
これで事前準備はほぼ整ったと言っていい
またも誤字報告を受けたので投稿
誤字報告はある程度まとめてくれるとありがたかったり・・・
報告を受けたからにはお詫びとして投稿するつもりですが、日にそう何度も投稿してると追いつく可能性が・・・
これからもお楽しみいただければ幸いです




