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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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前衛二人

吉岡が退出した後ひとしきり町の人が詫びを入れながら部屋から出ていくとその場にいた全員が大きくため息をついた


「いやーお見事だ、言うようになったじゃないか五十嵐」


ずっと静希達の様子を静観していた城島は手を叩きながら軽々しく笑っている


「いえ、雪姉があそこまでいってくれなきゃ言い負かせられなかったかもしれないですから、雪姉のお手柄です」


「お、おいおい静、照れるじゃないか」


雪奈は顔を少しだけ赤くして恥ずかしそうにしている、今回の実習は面倒事にならないかと思っていたのだが、どうやらそう簡単には行かないようだ


「で?実際目標と対峙して、捕獲はできそうか?」


「九割九分九厘無理です、俺達の装備と能力、目標の大きさと運動性能に再生力、どれをとっても捕獲は難しいと思います」


「九割九分九厘無理でも一%でも可能性が残っていれば!」


「陽太、それ一%も残ってないから、ちょっと黙ってなさい」


場を和ませようとしたのだろうが見当違いな発言に算数からやり直せと言いたいところだが今はそんなことは後回しだ、早急にやらなくてはいけないことがある


「二年生としてはどうだ?」


「正直難しいですね、これで相手の能力が再生なんてものでなければ倒すのは容易だったかも知れませんが、硬い甲殻に再生能力はこの班の相性とは最悪です」


「私の刀でも足を落とすのが精いっぱい、その足もすぐ再生されちゃうんじゃ」


二年生の判断としても捕獲は無理、そして打倒するのも現状では難しい


それほどの相手だ


「なるほど、なら倒せるように策を練るんだな、方針が決まったら報告するように」


ひらひらと手を振ってこれ以上言うことはないとでもいうかのようにテーブルに向かって書類を書き始める城島


これ以上何を言ってもきっとまともな返答はしてくれないだろうと思い全員とりあえず静希達の部屋に集まって作戦会議をすることとなる


「じゃあ、現状を確認しよう、目標はこの地点から動いていない、そしてこちらの攻撃手段は今のところ有効ではあっても決定的とは言えない」


「時間をかければ私がやったみたいにそれなりに準備もできるけど、結局役に立たなかったしなぁ」


行動中鏡花がドーム状に地面を変換しその中に大量の水素をため込んだ擬似水素爆弾、実際その威力は凄まじかった


だがあれほどの爆発を起こしても目標はすぐさま行動を開始していた


恐らく熱や衝撃で攻撃してもたいした効果は得られないだろう


熊田の音による攻撃も二秒ほど動きを止められるだけでそれ以上の効果はないようだった


傷を負った途端に回復していくというのは考えていたよりもずっと厄介だった


「相手の再生能力もどれくらいあるんだろうな」


「最悪殺したくらいじゃ死なないかもな」


「うへ・・・そんな奴に俺らで勝てんのかよ・・・」


珍しい陽太の弱音に雪奈は眉間にしわを寄せて陽太の頭を拳骨で殴る


「痛って!なにすんだよ!」


陽太を殴った雪奈の顔は怒りとも苛立ちとも違う、なんとも凛々しい顔をしていた


普段お茶らけている雪奈がこういった顔をするのは珍しい


「陽、お前は今前衛として言ってはいけないことを言った」


「あぁ?どういうことだよ」


「私達前衛は最も敵に近づき、最も敵を攻撃し、敵に攻撃されなければならない、それはわかる?」


敵への攻撃の要として、味方を守るための盾として、敵の目を引く囮として


攻撃を軽やかにかわす雪奈と全てを受けながらなお攻撃する陽太


前衛としての種類は違えど、その根本は変わらない


「お前は今、勝てるかどうかを疑った、私達前衛が考えることはそんなことじゃない、そんなことは私たちの仕事じゃない」


「じゃあどうするってんだよ!殺したくらいじゃ死なない相手にどうやって勝つんだよ!?」


「そんなの決まっている、『死ぬまで殺す』の」


それは数多くの戦闘をこなした前衛ならではの思考だった


勝てるか勝てないかではなく、勝つまで


「いい?陽、私達前衛は最も敵と対峙する、殺していい相手と戦う時大事なのは相手が動かなくなっても攻撃し続けること」


それは雪奈が切裂き魔と呼ばれ、半ば狂戦士と恐れられる由縁でもあり、雪奈たちの班が数多くの戦績を残してきた証でもある


「一回殺して死なないなら十回、十回殺して死なないなら百回、百回殺して死なないなら千回、相手が死ぬまで殺すのをやめない、それが前衛に必要な心構え」


それは雪奈が実践し続けてきた切裂き魔としての矜持、前衛に立つ者の役目であり義務であり責任でもあった


「私は、私の班には前衛が二人いる、攻撃は私が、防御はもう一人が担当して、私は目標に対して攻撃をやめない、敵が事切れても、身体が細切れになっていても切り刻む、それが班の最強の矛として選ばれた私の役目」


「・・・」


雪奈の言葉を陽太は幼馴染としてではなく前衛の先輩としての言葉として聞いていた


本能的にこの言葉が自分にとって必要なことだと理解しているのだろう


「この班には前衛は陽しかいない、最強の矛と最強の盾を陽が担わなきゃいけない、そんなお前が『勝てるかどうか』を考えるなんて身の程知らずにもほどがある、そういう難しいのは全部静達に任せておけばいい」


「全部投げられても困るけどな」


話を中断しない程度に静希がつぶやく


頼られるのは嬉しいが何もかも頭脳労働を任されても困る


「陽がやるべきことは、考えることは一つ『勝つまで攻撃する』そのために何千何万と攻撃する、元より陽は考える事より行動することの方が得意でしょ?」


「・・・」


「わかった?分かったなら返事!」


「はい!わかりました!」


珍しく敬語を使った陽太は何か吹っ切れているようにも見えた


考え事を任されるこっちの身にもなってくれと静希はため息をつくが、昔から考えるのは静希の、前で戦うのは陽太の役目


なにも変わっていない昔からの役割分担だ、今更というのもあるだろうしもはやそれでいいと思っている節もあった


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