無茶な要求
「失礼します、お風呂の準備の方が整いました」
話しあっていると従業員の人が部屋に入ってきて報告する
「ようやくあったまれる、あれ?順番決めなくても大丈夫な感じ?」
「男女別だ、さっさと入ってこい」
すぐさま静希達は部屋に戻り入浴の準備をして冷えた身体を温めることにする
動きまわっている時は恐怖と興奮でそれほど寒さを感じなかったのだが、人里に来た途端に身体が震えだしたのはよく覚えている
そして軽く身体を洗い湯船につかると湯が身体にあたる度にしびれるように身体が熱に刺激されていくのがわかる
この日陽太を除く全員がこの感覚を味わっただろう
「ふいー、温まったな~」
「あぁ、明日もこれがあるかと思うと嫌になるな」
「まったくだ、できるなら今日中にケリをつけたかったが、あれでは仕方ないだろう」
十分に身体を温めて部屋に戻ろうとすると何やら城島の部屋が騒がしい事に気づく
誰かと話しているようで、テンションが上がっているのか白熱しているのかそれとも議論しているのか、内容までは聞き取れないが叫ぶような声が断続的に聞こえてきていた
そっと扉を開けて中を覗くと何人かの町の人が城島の部屋にいるのが見えた
そのうちの何人かは昼間静希が話を聞いた人たちで、一番大きな声を出しているのはその場にいなかった人間のようだった
年の頃は三十半ばといった程だろうか、周りにいる人が必死になだめているがやたら高圧的に城島に食ってかかっているようだ
聞いているとこちらは依頼した立場だこちらの意向を通すのがそちらの仕事だろうだとかそんなこともできないのかだとか言いたい放題だ
「うわ、ああいう人先生嫌いそうだな」
「同感、巻き込まれないうちに部屋に帰るか?」
「そうした方がいいな、面倒事に巻き込まれるのは御免だ、大人への対応は大人にやってもらおう」
そそくさと帰ろうとした瞬間城島の目がギラリと光ったのに静希達は気付かなかった
城島が指を弾くと少しだけ開いていた扉が勢いよく音を立てて全開になり、その場にいた静希達が中にいる人間にまる見えとなってしまう
「盗み聞きとは趣味が悪いぞお前達、だがちょうどいい、吉岡さん、あいつらが今回の任務を実際に行う喜吉学園一年B組一班のメンバーです、女子は席をはずしているようですが」
一番城島にくってかかっていた人物はどうやら吉岡というらしい
どちらにせよ城島は静希達を巻き込む気満々のようだった
いや話の内容が今回の実習に絡んでくる以上巻き込まれるのは確定だったのかもわからない
「そうか、なら君達に聞いてもらった方がいいかもしれないな、入りなさい」
明らかに面倒くさそうな話の内容だが聞かない訳にもいかない
一瞬嫌そうな顔を城島に向けるが、静希達を巻き込んだ元凶はにやりと笑って傍観を決め込んでいる
「とりあえず自己紹介しておこう、吉岡だ、君達のことは先ほどあらかた聞かせてもらったよ、昼間町の詰め所に来たそうだな、すれ違いになってしまったようだ」
どうやら町の人が話していた別件で出払っている人とはこの吉岡のようだった
話し方というか仕草その物がすでに高圧的な気がする
静希達を床に座らせて自分は立って会話しているせいでその印象がさらに強まっている
「えと、それで俺達になにをさせたいんですか?目標の駆除ならこれから作戦を立てて明日にでも」
「それだよ、駆除されては困るんだ、生け捕りにしてほしい」
一瞬思考が停止した
そして全員が驚きを通り越してあきれた表情を作った
「えと、聞き間違いかもしれませんが、生け捕りと言いましたか?」
「そうだ、あれを殺さずできるなら傷つけずに捕獲してほしい」
静希は絶句していた
いや熊田も陽太も、そして先ほどこの申し出を聞いたであろう城島も呆れてものも言えないようだった
「静希、このおっさんバカなのか?」
「君、年上に対して失礼だぞ」
陽太の言葉に一瞬同意しかけたが、この場はどうにか説得するしかないかもしれない
「あの、他の方の話の限り、目標に接触したことがあるんですよね?あの巨体を捕獲しろと?」
「そうだ、能力者ならば可能だろう?」
まるでそれが当り前であるかのような言い分だ
能力者である静希達からいわせれば百%無理だ
「確かに自分達は能力者ですけど、能力者とて万能ではありません、できることもあればできないことだってあります、特に今回の場合相手を生かそうと手加減した状態じゃ俺達が危険ですよ」
静希達の実力では生かすか殺すかの手加減などできない
そもそも倒すことだって現状難しいかもしれないのだ
オーバーキルになるかもしれないくらい攻撃してようやく倒せるかどうか、それほどの相手だ
メフィに手を借りればどうにかなるかもわからないが、実習においてメフィには手を出してほしくない、いや出せないといった方が正しい
またも誤字報告ですよで複数投稿
誤字が増えている・・・!なんとかせねば!
これからもお楽しみいただければ幸いです




