完全奇形
町に戻る頃には辺りはかなり暗くなっており街灯もつき始めていた
とりあえず一番に向かったのは民宿
まずは冷えた身体を何とかしなくてはならない
このままでは風邪をひく
静希達が民宿に戻りとりあえず風呂で体を温めようと考えていると一室で城島が従業員と何か話している最中だった
「というわけでお願いします」
「かしこまりました、すぐに準備いたします」
どうやらすでに伝えるべきことは伝えたのか、部屋から出てくると僅かに震えている静希達を発見しあきれ顔を浮かべる
「なんだお前達もう帰ってきたのか、予想よりずっと早かったな」
「早かった理由とかは後で報告しますから、今はとにかく風呂に入らせて下さい、このままじゃ風邪ひきますよ」
実際に戦闘をした静希、雪奈、熊田はもろに川や雨の水をかぶっているために身体が芯から冷えてしまっている
すぐにでも温まりたいところだった
ちなみに陽太は能力のおかげでケロリとしている
「あぁ、どうせそう来るだろうと思って今女将さんにお願いしたところだ、十分ほどで風呂が沸くからそれまで我慢してろ」
どうやら気を利かせてくれたのだろう、あらかじめ風呂の手配をしてくれるのはありがたいのだがどうやらタイミングが悪かったようだ
「じゃあ今のうちに報告だけ済ませておきます、結論から言えば目標は奇形種でした」
まず城島の部屋に向かい静希はそう切り出した
まず結果から入るのは定石だが今回は少しばかり事情が違う
「まぁ資料にあった通りだな、それで?」
「そのサイズが問題でした、高さ三メートル近く、長さ十メートルはありそうな巨体、なんかの間違いかと思いましたよ」
震える体をさすりながら静希達は今まで自分たちが対峙していた相手のことを大まかに説明した
大きさや能力のことを説明し終えると城島は腕を組んで悩み始める
「あれってなんなんですか?奇形種って身体ごと大きくなったりするんですか?」
「んん、奇形種にもいくつか種類があってな、身体の一部だけが変化する部分奇形、そして全身が変化する完全奇形、元のサイズを保っているものもいれば、何倍にも体を膨らませているものもいる特殊な奇形種だな、能力の出力も部分奇形の何倍もあると聞く」
「じゃあ今回の相手はその完全奇形のザリガニってわけっすか?」
「可能性は高い・・・が、少し妙だな」
腕を組んだまま城島は思考を止めずに資料を見せる
「この件が報告されたのは一週間ほど前、船が破壊されたのもそのあたりだ、それまで奇形種の発見報告はされていない、これが普通のザリガニサイズであれば何ら不思議なことはないんだが・・・」
「今回のはあのデカブツですからね・・・」
そう、発見されない方がおかしいのだ
普通のザリガニならば別段不思議なことはない、ただ見つからなかっただけ
だがあの大きさだ
山にわざわざ出向くことは少なくない、町の人は月一で水質調査も行っていると言っていた
月一で行動しているのにもかかわらず水辺で過ごすザリガニに出くわさないのは明らかにおかしい
仮にあの巨大ザリガニが今までどうにかして隠れて住んでいたとして何故今になって人里まで降りてきたのか
「ちなみにザリガニ博士、一般的にザリガニはどのくらいで大人になるの?」
「んと、個体差もあるけど大体三カ月もあれば大人のザリガニと変わらなくなる、あのでかさになるのにどのくらいかかるかは分かんないけど」
ザリガニのことに関しては本当に陽太は知識があるなと感心しながらも呆れている静希は思考を重ねる
「仮にあのザリガニが生まれたばかりで普通のザリガニと同じように三カ月であの大きさになったと仮定して、三月あたりに生まれてからずっと町の人たちに目撃されずにあの大きさまで育った、そのうえで何らかの理由でここまでやってきた・・・すごい確率ですよそれ」
「仮にそうだったとして何らかというのが重要だな、誰かがペットで飼っていたのを捨てたか、それとも餌がなくなったから降りてきたか・・・」
「餌がないってことはないっしょ、ザリガニはすごい雑食性高いっすから、葉っぱでも虫でも木でも何でも食いますよ」
「と博士はおっしゃっておられるが」
となるとザリガニが何故人里まで降りてきたのか
いやそもそもザリガニが昔からあそこに住み着いていたのかさえ怪しい
熊田の言う通り誰かペットで飼っていたのを捨てた可能性もある
あのでかさをペットにしているとは考えにくいが可能性の一つではある
捨てた後に急成長したということも考えられる
どちらにせよあれだけの大きさになるのにも時間はかかる
それまで町の人間に遭遇していないというのは明らかに不自然だった
誤字報告をいただいたので追加投稿
たまには誤字報告じゃない純粋な感想が欲しい・・・
これからもお楽しみいただければ幸いです




