作戦の効果
『もしもし静希君、準備できたって』
「おぉ待ってたぞ!二人はそこから少しでもいいから離れて隠れてろ!できるなら防壁もはっとけ!」
『わ、わかった』
電話を切ってにやりと笑う
「全員ここから全速で後退するぞ!」
「お、おうよ!」
一瞬戸惑うが静希に何か考えがあるということが分かると全員がその指示に従う
全速力で移動する静希達にザリガニは足の治療が済み次第あとを追いかけてくる
少し走って自分の速度が静希達よりも遅いということを思い出したのかゆっくりと尾を向ける
「かかったな、陽太以外全員退避!」
「え?俺は!?」
「能力最大!相手の身体に取り付け!」
トランプの中から酸素を一気に放出し陽太の火力を一気に上げる
「お前が要だ!頼んだぞ!」
「・・・おっしゃああああああああ!」
静希の言葉にやる気を出したのか陽太の炎は水の減衰も気に止めぬ程に燃え上がる
そして次の瞬間巨大な身体が陽太の身体に向けて突貫してくる
陽太はその甲殻に爪を引っ掛け身体にとりつく
そして次の瞬間見えたのは半円状のドームのような物体
ザリガニの突進の勢いは止まらずそのドームに突っ込んでいく
そしてその内部に陽太が突っ込んだ瞬間、辺り一帯の音が消えた
大きな振動と爆炎
耳をふさいで物陰に隠れていてもその衝撃は周囲に響き渡り地面を揺らした
静希の講じた策は単純
ザリガニを覆う程に大きなドームを作り出し、その中で水を水素に変換し続け保持する
そしてそこにザリガニを突貫させ起爆させる
単純だが今静希達ができる一番の攻撃だった
川の隅、木の陰に隠れていた静希達は耳を押さえてゆっくりと顔を出す
そこはもうひどい有様だった
木々はなぎ倒され、衝撃で地面がえぐれ、強烈な熱を帯びた地面が雨を即座に蒸発させ続けて水蒸気を発生させている
川の流れさえも変え、抉れた地面に水たまりができ始めてしまっている
近くに運良く残った木には僅かだが炎がともり、すぐさま雨によって消火されていく
惨状というにふさわしい状況だった
すると上空から炎の塊が川に落下してくるのが見えた
四足体勢で何とか着地したのは炎を纏った陽太、ふらふらと頭を揺らしながら足を地面に叩きつけ身体を安定させようとしている
どうやら爆発による衝撃よりも爆音によって三半規管が一時的に麻痺しているようだった
「くっそ、びびった、あんだけの規模の爆発だなんて聞いてねえぞ」
ビビったという割にピンピンしている陽太に安堵しながら静希は小さなクレーターのようになっている爆心地を眺める
その中心にはまだ形をとどめた黒焦げのザリガニがいた
足の何本かは爆発で吹き飛んだのか欠損しているのが見受けられる
甲殻もあちこちが焼け、目立っていた刺もいくつかなくなっている
どうやら効果は絶大らしかった
「さすがにもう動かねえよな?」
「これで動いたら今の俺らじゃどうしようもないな、動くなよ、動いてくれるなよ?」
静希達が近付いたのを見て鏡花や明利、雪奈と熊田もクレーターに近寄る
「やったのか?」
「分かんないな」
「あーあ、こんなひどい有様じゃ、戻すのが一苦労じゃない」
「残業ご苦労様です班長・・・と言いたいけど・・・」
静希はとらえていた
ザリガニの足が僅かに動いたのを
「まじか・・・」
徐々に、確実にザリガニは元の動きに近づいている
爆炎で吹き飛んだらしい足を動かしているが一向に再生する様子はなかった
だが全身を駆使して方向転換、下流に頭を向け姿勢を変える
全員が戦闘態勢を取る寸前でザリガニは尾を使って上流に向けて高速で移動する
「なんだ!?逃げんのか!?」
「仕方ねえ!陽太!これ投げろ!」
静希から手渡された投擲用のナイフ
先ほど明利の種を仕込んだナイフだった
「おおぉぉぉぉりゃあああぁ!」
種を燃やさないように、腕以外の炎を全開にして遠ざかるザリガニめがけ投擲する
高速で投擲されたナイフは甲殻の隙間に数センチ刺さりそのままザリガニの身体に定着した
ザリガニが去った後、静希達は気が抜けてその場にへたりこんでいた
「っかぁぁあ・・・なんだよあのザリガニは、規格外にも程があるぞ」
「あれでも生きてるってのはちょっと予想外ね・・・結構水素ため込んだと思ったんだけど」
今回の一番の功労者の鏡花が一番落ち込んでいるようだった
なにせ罠を用意したのが彼女なのだ、責任を僅かながらに感じているのかもしれない
誤字報告を受けたので複数投稿
少し誤字が多くなってきたかな、見直しに力を入れようと思います
これからもお楽しみいただければ幸いです




