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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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202/1032

苦戦 作戦

爆音によって辺りが一層騒がしくなり、数秒、耳の奥から甲高い金切り音が聞こえながらも徐々に聴覚を取り戻していく


静希が聴覚を取り戻したあたりで川に触角を手に持った陽太が着地する


「かっはっは、ロブスターにしてやったぜ!どうよ!」


陽太が睨む先にいるザリガニは動きを止めている


甲殻は焼けただれ、ところどころ刺が破損しているようにも見える


熱により脳まで破壊されていれば御の字なのだが


全員が警戒しながらザリガニに近付くと巨体を支える足が一斉に動き出す


「嘘だろ!?まだ生きてんのかよ!?」


それでも効き目はあったのかザリガニはハサミを振り回して周囲に破壊を与え続けている


軽く掴まれた岩は砕け、振り回した尾の先にあった木々はなぎ倒され、まさに地形ごと破壊し尽くさん限りだった


「距離取れ距離!巻き込まれるぞ!」


先ほど陽太の言った通り、本当にまるでゲームの中のようだ


確かにこんな敵が相手では主人公達も本気になって逃げるだろう、今まさに自分たちが本気で逃げているように


ザリガニは静希達との距離を詰めながら延々と周囲に破壊をもたらし続けている


「くっそあのエビがぁ!こっちが手ぇ出せないからって調子付きやがって!」


「待て陽、ザリガニってカニじゃないのか?ザリ『ガニ』って名前に入ってんじゃん!あれカニでしょ?」


「なに言ってんだよ雪さん、あの形はエビだろ!名前が生き物の本質を示すならザリガニの『ザリ』って何さ!?」


「お前らくだらないこと話してないでこの状況何とかしろ!」


全力疾走でザリガニから距離を取ろうとしていると、再度ザリガニが尾から突進してくる


高速で繰り出される体当たりは直撃すれば重傷は免れない、確実に病院送りの一撃だ


「くそ、少し距離とるだけでこれだよ」


「どうすんだ静希!?も一発キャンドルいっとくか?」


「一発で効かなかったんじゃもう一発撃ったって効かねえよ!」


静希の水素は今回二枚までしか用意していない、これからどういう手を使うか分からないのに無駄打ちは避けたい


ただでさえすぐに再生されてしまうのだ、下手に手札を切る行動は逆に自分の首を絞める結果になるだろう


「くっそ・・・もっとでかい爆発でも起こせりゃいいんだけど」


陽太の言葉に静希は思案する


辺りは水だらけだ、作ろうと思えば鏡花の能力でいくらでも水素と酸素は精製できるだろう


だが問題はその保持だ


酸素はすぐに空気中の水分と混ざり、水素はその軽さからすぐに霧散してしまう


静希のように解放した瞬間に着火できるような状況を作らない限り難しいのだ


「そうだ・・・よし!」


静希は案を思いつき鏡花の元に駆け寄る


「鏡花、一つ仕事を頼む」


「なによ、疲れるのは御免なんだけど?」


「お前にとっちゃ簡単なお仕事だよ、陽太!雪姉!熊田先輩!足止めよろしく!」


三人の威勢のいい声とともにザリガニとの交戦が始まっていた


だがそのどれもが決定打にならない


先ほど雪奈が切り落とした足でさえももうすぐ完全に再生が完了しようとしていた


もはや治癒というレベルを超えている


雪奈はそれでも構わず狙える足から切断していくが、どんどんと再生が始まる


陽太も雪奈に習い一つの足を重点的に攻撃しているが、その効果は期待できない


打撃は確実に甲殻に対してダメージを与えているのだが、即座に回復されてしまう


熊田の放つワイヤーもほとんど足止めどころか相手の動きをほんの少し鈍らせる程度しか効果を発揮しない


全力での攻撃が完全に足止めにしかならない、いや、足止めにもならないかもしれない


「なにそれ、そんなことしたら・・・」


「やるっきゃないだろ、時間がないから頼む、明利!種一つくれ、あと鏡花についてろ、離れるなよ、準備が終わったら連絡しろ!」


「う、うん!」


作戦の内容を話し終えた静希はオルビアを強く握り明利のマーキング済みの種をナイフに仕込む


できるならば種も仕込んでおきたいところだ


「なに静!?どうすんの!?」


「まずはこのまま足止めだ!準備ができ次第指示する!」


「了解!」


雪奈が複数の足に向けて突貫していく中静希もそれに続く


といっても静希に足を切断する程の技量はない


できることは陽太の能力補助と甲殻の隙間にオルビアを突き立てるだけ


しかも十回中一回甲殻の隙間に運良く入るかどうかだ


静希の技量ではその程度が精いっぱいなのである


巨体から繰り出される攻撃は一つ一つが致命傷になりかねない


静希は僅かな隙を見て接敵し攻撃、そして離脱を繰り返していた


少しでも疲弊させ時間を稼がなくてはならない


このザリガニをここで足止めすることが静希達にできる唯一の行動


それでもザリガニに攻撃を加えてももはや何も通じる気がしなかった


「ん・・・?なんだこれ?」


静希が足を攻撃した時運よく甲殻の隙間に剣が滑り込んだ際に何かが剣に引っかかっているのに気づく


それは紙でできた四角い何かで、バーコードのようなものが取り付けられている


「静!ボーっとしない!」


「あ、あぁ!」


雪奈の叱咤に静希は我に返り一時的に距離を取る


もう何本目になるだろうか、雪奈が刀で足を切り落としてもザリガニは何の問題もなく再生していく


「あぁもう!トカゲじゃないんだから!」


「少しは堪えろっつうの!」


前衛二人が僅かに疲弊し始めたあたりで静希の携帯にコールがかかる


ディスプレイには幹原明利と表示されていた


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