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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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200/1032

目標捕捉

陽太の勘通り町から川の分かれる場所まで目標は確認できなかった


すでに位置は川を二分する地点まで来ている


ここからは山への道となるため川を避けて進むというのは少し難しそうだ


「いるなぁ、ザリガニのいそうな匂いがぷんぷんするぜ」


「それってどんな匂いよ」


「とにかく行こう、こっから先が目標との遭遇数が多いポイントだ」


静希達は再び警戒しながら川を上流へ上流へと向かっていく


それほど斜面が急なわけではなく大きな岩があるわけでもない、川幅は一mといったところで水量もそれほどない


どうやら湧水か何かが上流から流れてきているのだろう


「で?ザリガニ博士としちゃ目標はどこにいそうなわけ?」


「そうだな、あいつらは自分の体よりも少しだけ大きな空洞があるとそこを巣って言うか根城みたいにするんだよ、大きさがどれくらいかわかんねえけど、もう少し石の多い場所ならいるかもな」


陽太のくせにやたらと博識だ、ザリガニのことに関してのみだから何とも評価しにくいが今はそのことは置いておこう


川というのは上流に行けばいくほどそこにある石は大きくなる


理由は簡単で軽い石だからこそ水に流され下流に行き、大きく重い石は水の流れに負けずそこに在り続けるからである


陽太の考え通りなら目標は上流にいる


「でもよザリガニ博士、ザリガニってこんなに行動範囲広かったっけか?もう結構町から離れてるぞ」


「そこなんだよな、確かにザリガニの行動範囲ってそんなに広くないんだけど・・・何であんなところまでわざわざ移動してるのかが分かんないんだよ、水に流されたか・・・それにしてもあの川の近くにはいなかったし」


小さな生き物というのは自分の行動できる範囲からはなかなか出てこない


外の世界には自分の天敵といえる生き物が大勢いる、自分が安全に過ごせる空間から出ればすぐさま死んでもおかしくない程危険と隣り合わせの世界で生きている


そんな生き物が危険を冒してまでかなり距離のある人里までやってくるだろうか


なんだか筋が通らない


山に登り始めて少し経過し川の周りには少し大ぶりな岩が増えてきている


そしてその中には町の人が言っていた砕かれた岩が転がっているのも確認できた


「おぉ、ホントに岩砕くのか・・・相当強い能力だなこりゃ」


砕けた岩を除きながら陽太はあたりを観察している


ザリガニの能力のせいなのか川底にはいたるところに妙なへこみができている


そのせいで水の流れが微妙に乱れ荒々しく渦巻いているところもあった


「これは予想以上にすごいな・・・エルフの能力も出力ハンパなかったけど、こっちもかなり強そうだ」


「でも破壊一辺倒ならまだやりようはあるんじゃない?陽太、ザリガニの視界ってどのくらいなの?」


「えと・・・頭の頂上に目があるから自分の身体より上の方が視認しやすいと思う、範囲までは本人に聞いてみないことにゃわかんねえよ」


ま、そりゃそうねと鏡花は砕かれた岩を一瞥し上流に目を向ける


「ザリガニ相手に視界範囲を考えるってどうよ、それに相手は奇形種だぞ?まともな形をしてるとは思えないんだが」


「それもそうか、だめね、なんか今まで妙な相手ばっかりだったから神経質になってるのかも」


今までの静希の行った実習内容が特別だっただけでこれくらいの内容が一年生としては正しい姿なのかもしれない


変に勘ぐっても出てくるのは一匹のザリガニだけだ


先に進み始めると熊田と明利が何かを捕捉する


二人同時に反応したことで全員が警戒態勢に入る


「二人とも何か見つけたの?」


「う・・・うん、見つけた・・・んだけど」


「・・・これは目標か?いやそれにしては・・・」


どうにも煮え切らない反応の二人に全員が疑問符を飛ばす


「もしかしたら目標とは別の生き物が入ってきてるかも・・・でも・・・」


「かなり大きいぞ、上流からこちらに向かってきている」


明利と熊田の言葉に全員が上流に目を凝らす


雨のせいで視界は悪く、なおかつ川のしぶきと合わさって薄い霧のようになってしまっていて遠くを見通せない


だが雨と川の音に混じって足音のような何かが聞こえ始める


「こうなる気はしてたけど、別件?勘弁してよね面倒事は」


「俺達の実習はただでは終わらないみたいだな、ザリガニ退治してさっさと帰りたいのに」


鏡花と陽太が悪態をついていると接近してくる何かの姿が見え始める


赤い刺を大量に有した甲殻を全身に纏い両側に大きなはさみ、頭部から伸びる触角のような物体に長い胴体、そしていくつも生えた細い脚


大きさは高さにして三mに届きそうなほど、長さはどれほどあるだろうか、ゆうに十mほどありそうな気がする


それは誰がどう見ても、ザリガニだった


全員の口が開いたまま閉じない


静希を始め全員が驚愕の表情をしている


確かに町の人は普通のザリガニより大きいと言っていた


確かに町の人は能力によって船が破壊されたとは言っていなかった


確かに町の人はこの写真を静希達に資料として送ってきていた


だがこんな大きさだと誰が予想できただろうか


静希達の倍近い高さを持つザリガニ


写真に写っている風景がぼやけていたせいで縮尺を測ることができなかったのが一番の失態かもしれない、そしてもしかしたら巨大なザリガニかもと考えなかったのが静希にとって一番の失敗だった


そして今まで静希達が考えていたこの目標の保有する能力に対する考察も水泡に帰すこととなる


なにせ前提から考え直さなくてはならないのだから


今までの情報から察するにこのザリガニはただその肉体を使って猛威をふるっただけで能力は使用していない


振り出しなどという甘っちょろい事態ではない、詰んだと言っても過言ではないだろう


「陽太君、ザリガニだよ、ザリガニ博士として何か一言」


「俺こんなザリガニ知らない、昔のザリガニはあれだよ、もっとピュアな目をしてたよ、こんなのザリガニじゃないよ」


そんなことを話している間にザリガニは静希達を視界にとらえたのかハサミを鳴らしながら勢いよく走ってくる


「やばいやばいやばいやばい!全員動け!」


あまりのことに呆けていた班員に活を入れると我に返ったチームメイト達はすぐさま反応する


「え!?え!?なにこれなにあれ!?私達の目標ってザリガニよね!?じゃああれって目標じゃないわよね!?」


「鏡花ちゃん現実逃避ダメ絶対!あれどう見てもザリガニだよ!多分私達の目標あれだよ!」


「いやぁぁぁ!何で私たちばっかこんな内容ばっかなのよ!他の班は護衛とか警備とかやってるのにぃぃぃぃ!」


とりあえず鏡花は現実逃避に入っているようだったがもはやそれも無駄だと悟ったのか臨戦態勢に入る

だが近付けば近付くほどでかい


邪薙の二メートル近い身長が子供のように思えてくる程にでかい


「近付かれるのはまずい!一旦距離とるぞ!」


全員が静希の声に従って下流に向かって全力で走る


ザリガニも追ってくるがそれほど速くはない


「あれだな、ゲームとかででかいモンスターに追われてる主人公の気分が今わかった、こりゃ本気で逃げるわ」


「余計なこと言ってないで何とかしろザリガニ博士!」


「あんなん俺の知ってるザリガニじゃねえよ!うんちくが知りたきゃ十数センチのザリガニ持ってこい!」


鏡花だけでなく静希と陽太も若干やけになり始めている


ふと二人が振り返るとザリガニが頭部ではなく尾を向けている


「なんだ?逃げるのか?」


「・・・あ、やべ!横に跳べ!」


静希がキョトンとして足を止めた瞬間、赤い壁が眼前まで迫ってきていた


ザリガニに限らずエビのような形をしている生き物は前方への移動よりも尾を使った後方移動の方が早い


先ほどまでは静希達の全速力にも追いつけなかった巨大ザリガニは一瞬で静希達に追いつく


鋭利な刺を持った甲殻が静希の身体に高速で接触する寸前に静希の身体は横からの蹴りによって川の外まで弾き飛ばされる


脇に入った蹴りの後には僅かな炎が付いており陽太が能力を使って蹴り飛ばしたことを示していた


「あっつ!いって!なにすんだ陽太!」


「助けてやったんだから感謝しやがれ!人身事故かちょっとの火傷と打撲どっちがましだ!?」


「もう少しスマートに助けろっての!やりようはあっただろうが!」


「俺にそういうの求めんな!とっとと切り替えろ!」


足を止めてしまった静希と裏腹に先を走っていた他の班員はかろうじて川の両側に散ることでザリガニの高速体当たりを避けていた


「あぁもう!何で俺達の依頼はこんなのばっかりなんだ!もうちょっと普通の任務はないのか!?」


移動をやめたザリガニは静希達を前に足場を鳴らすような動作を繰り返す


どうやらザリガニは静希達を敵とみなしたようだ


怒りを顕わにしながら静希は周囲にトランプを飛翔させる


「いや・・・俺達だからこんな任務ばかり与えられているのかもしれないぞ?」


「どういうことっすか?」


「こちらのメンバーには悪魔を所有する五十嵐、奇形種狩りに定評のある深山がいる、この二人ならある程度の難題を吹っ掛けても安全だということじゃないのか?」


熊田の考察に静希は眉間にしわを寄せる


「ふっざけんな!委員会め、今度抗議してやる!」


「私としちゃあ評価されるのは嬉しくもあるけど、厄介事を回されるのはあんまり好い気はしないなぁ」


静希は怒りを発端にトランプの中から抜き身の西洋剣オルビアを取りだし、同時に全員が戦闘態勢に入る


雪奈が金属音を奏でながら抜刀、陽太は炎を全身に纏い鏡花は足場を安定させるために工作、明利はすぐ目標に種を取りつけられる様に体勢を整え熊田はワイヤーを取り出していた


お気に入り登録件数500件突破記念ということで複数投稿



誤字も多い作品ですがこれからもお楽しみいただければ幸いです

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