奇形種とエルフ
「まぁ深山は置いておこう、奇形種とは人間で言うところのエルフだ、人間が能力を使用するのに適した進化を遂げたのがエルフと呼ばれているのは知っているな?」
全員がうなずく、その中に雪奈がいたことに静希は疑問を感じたがもはや何も言うまい
「動物も同じように、能力を使用するのに適した身体に進化する場合がある、そういった動物を奇形種という、エルフと同じように身体の一部が変異して本来の動物の形ではなくなっているのが特徴だ、無論、エルフと同じように能力値は非常に高いだろう」
「じゃあ今回の場合、口とか牙が変異している奇形種の可能性が高いと」
「可能性は低くないだろうそれなりの備えが必要かも知れんが、さすがに根底は動物だ、やりようはいくらでもある、奇形種は深山が何度か仕留めているから問題もないだろう」
「・・・雪姉さん?」
「・・・・なんだい静?」
「奇形種倒したことあるのか?」
「・・・ある・・・みたいだね」
「なのに知らなかったと」
「いやぁ、おかしいなぁ」
おかしいのはあんたの頭だよ、本気でそう思った静希であった
「そういや先生、さっき話してた隣のクラスのエルフってどんな任務に行ったんですか?」
「あぁ?なんだよ知りたいのか?」
さすがにエルフの話題が出てきたのだ、しかも今は絶賛暇人中、ならば暇つぶしが必要だろう
「あぁ、お前らエルフが何で仮面してるか知ってるか?」
「??何の話ですか?」
突然話が飛んだことについていけない
「知りませんけど、何でです?関係ある話ですか?」
鏡花の問いかけに城島は紙きれを一枚四人に渡した
「エルフは身内、つまりエルフ以外に素顔はさらさない、そういう掟なんだと、そいで今回の行方不明者の捜索、それがこの子だ」
写真に写っていたのは仮面をつけた、恐らく少女、顔は見えないのだがその仮面がエルフであることを物語っている
「エルフの子が行方不明?なんで?」
「詳しくは知らん、身内の事情に詳しく突っ込むことはない、エルフの在籍する軍の部隊を出すには金がかかる、だが行方不明になった時期が時期だったからな、だからこそこの一年の校外実習にかこつけたわけだ」
「で、でもそれって学園側としては・・・その・・・大丈夫なんですか・・・エルフの捜索だなんて・・・」
学園は生徒を預かる身だ、決して危険があってはいけない、それは学園側としても十分承知のはずだ
「だぁから、エルフの方から圧力掛けてきたんだよ、二年はあいにくエルフはいないからな一年の方になんとか回すようにって、昔ほどではないにしろ、いまもエルフは上に強い影響力を持ってる、そのために教員四名あいつらについていったよ」
まったく面倒なこと極まりないと悪態をつきながら城島は不機嫌そうに脚を組む
写真に写っている子は、顔こそわからないが肩幅からして小柄、そして資料には十歳とある、まだ小学生だどれほどの期間いないのかは分からないが危険な状態であることには変わりないだろう
資料には出身地、いや出身の村まで書いてある、これはエルフの里だろうか、聞いたことのない名前だ、地図も付録されているが周囲には山しかなさそうだ
「そういうわけで、お隣のエルフさんは身内の後始末をつけにいったってこと、ま、それほど困難な任務にはならないと思うけどな」
「??何でです?行方不明ならそれなりに人も時間もかかるんじゃ・・・」
それが街でいなくなったのならまだ追跡なり操作なり可能だが、この地形は明らかに山に行軍するようなものだ、人海戦術でも使わなくてはどうしようもなさそうな印象がある
「向こうの付き添いの教師に探索の専門家を入れてある、この実習期間の間なら余裕で見つかるよ」
そういうものなのだろうか
静希は首をかしげながら資料を城島に返す
というかこの教師、守秘義務があるというのに簡単に重要任務内容話したなと静希はいぶかしむ
周囲の乗客がいなくて助かったと言ったところか
自分達の任務はそれほど重要ではない、なにせ猛獣の駆逐、それに対してエルフの方は行方不明者捜索、しかもいなくなったのはただの少女ではないエルフだ、無能力者、能力者、エルフ、この三種の人類はある種対立していると言ってもいいような昨今のこの情勢の中で堂々と圧力だなんだとのたまうこの人は案外大物なのかもしれない
「そういえばせんせー、エルフって何がすごいのかいまいち想像できないんだけど、どうすごいんすか?」
授業中のような真直ぐな挙手にさすがの清水も突っ込むのも怒るのも嫌になったのか額に手を当ててため息をつく
「うぅん、難しいな、エルフは通常私たちが使えないレベルの能力を使用することができる、だがそれは彼らに言わせれば自分達の力だけを使っているんじゃないそうだ」
「ど、どういうことです、か?」
「能力はそもそも魔素を使って発動してるものでしょ?私たちだって自分たち以外の力使ってるじゃないですか」
女子陣の反論に対し、城島はカバンの中からノートを取り出す
何やらそこには絵が描かれ、片方には人間、片方にはエルフと記述されている
「いいか、私たちは通常能力使用に際し精神力によって魔素を体内に取り込み能力を使用する、これは生き物すべてに共通する能力の使用法だ、それに対してエルフは精神力を用いて別のものを使う、いや呼ぶと言った方が正しいかもな」
その説明にその場にいる全員の頭上に疑問符が飛び交う
普段自分たちが能力を使う際はそんなことを意識した覚えはないが、それを無意識のレベルで行えているのだろうということで納得したが、その後は理解できなかった
「奴らに言わせると、それは精霊であり、神であり、悪魔であるらしい、要するに私たち人間よりもずっと自然に近く、魔素の扱いに長けた者を呼び、使役し、より多くの魔素を体内に取り込んで私たちよりも強い能力を使うことができるということだ」
「つまりエルフは俺たちよりも多く魔素を取り込んでるから俺達より強い能力が使えるってことっすか?」
「まぁそういうことだ」
「確かに魔素を多く取り込めればその分能力の出力は増す、でもそれって人間には無理なんですか?」
確かにその工程を、精霊などは置いておいて、より多くの魔素を取り込むことができればより強い能力を使うことができるかもわからない、能力が弱い静希にとっては切実な問題なだけに真剣に耳を傾ける
「あー・・・理論上不可能ではない、昔エルフの協力の下、魔素を大量に取り入れようとする実験は行われたことはある」
「へえ、結果は?上手くいったんですか?」
「魔素の過剰摂取っていう名目上なら、実験は成功、したけどな」
「?どういうことですか?」
なんとも言葉を濁した、いや言葉を選んでいるような物言いだ、そして城島の声音からそれほどまでに芳しい成果があったというわけでもないようだ
「確かに通常使用の五倍近くの魔素を注入することに成功した、能力も瞬間的に跳ね上がった、けど、実験の被験者は人間の形を保てなくなり、死亡した」
「!?」
「え?どういうことですか?」
人の形を保てなくなるという聞いたことがない症状に全員戸惑いを隠せなかった
どこか損傷したとか、副作用で能力使用に問題が出たとかならまだ理解できる、だがその予想をはるかに超える反作用だった
「魔素っていうのはお前たちが考えている以上に危険で強い力を持っている、さっき熊田が話した奇形種を思い出せ、能力に対して高い値を出すってことは、それだけ魔素を取り込むってことだ、つまり魔素を大量に取り込むと、元の形を保てなくなるってことだ、逆にいえばエルフたちは元から魔素を大量に取り込むだけのキャパシティがあるから魔素を大量に取り込む方法を編み出したんだろうよ」
魔素を大量に取り込む体を持っているからその術を見出したのか、それともその術を手に入れたから身体が奇形になっていったのか
それこそ鳥が先か卵が先かの話になる、どちらが先にせよ、魔素を大量に取り込むのは人間にとって危険以外の何物でもない
「そういやエルフが許容量以上魔素を取り込むとどうなるんスか?」
「知らん、過去エルフが魔素を取り込み過ぎて死亡したという例は一度もない、そもそも魔素の扱いに長けた者を呼び出しているんだ、そのあたりの管理は万全だろう」
「その呼び出すってのがよくわからないんですよね、なんなんですかその精霊やら悪魔やらって」
どこかのファンタジー世界じゃあるまいし、そんなものがいたらこの世界はさらにおかしくなる
能力は科学だ、だが悪魔や精霊などの類は魔法の域、静希はそう考えていた
「私も実物を見たことがあるわけじゃないからこれ以上はわからん、私だって見てみたいくらいだ」
「実はエルフが適当なこと言ってるだけだったりしてな」
「それに関しては専門家もそうじゃないかと言っているほどだ、まぁ眉唾ものだな」
班の三人を見ると三種三様、信じていなさそうなもの、興味深そうに思慮している者、見てみたいなと目を輝かせるもの、上級生二名、熊田に関しては我関せず、雪奈に至っては途中で眠りこけている
「そういえば先生、今回の宿泊先って資料には教員の指示に従うようにって書いてありましたけど、どうするんです?」
今更ながら静希たちは自分たちがどこに行くのかを知っていながらお世話になる場所を知らない
村の情報を調べた時に特に宿泊施設はみつからなかったのがさらに疑問を深めた
「あぁその件か、安心しろすでに向こうには伝えてある」
「どうするんスか?外で野宿なんていやっすよ?」
「未成年に野宿なんてさせられるか、今回の依頼人の、村の村長の家でお世話になる、きちんと礼儀正しくしていろ」
初めて引率教師らしいことを言ったなと一班の全員が思った瞬間だった
これから忙しくなるから更新時間がまばらになるかもわかりません
それでもお楽しみいただければ幸いです




