上流へ
静希達が民宿に戻るとそこにはすでに鏡花達の姿があった
どうやら船の調査はすでに終わり出発の準備を進めていたようだ
「お疲れ、そっちはどうだった」
「たいしたことはわからなかったけど、能力に関してはあらかた目星がついたわ、そっちは?」
「こっちも似たようなもんだ、飯食いながら情報共有するぞ」
静希達は部屋に戻り昼食を取りながらお互いに集めた情報と自分の考察を話し始める
静希は先ほど町の人に聞いたことをそのまま伝え、鏡花は船は圧力により破壊され、その圧力が均等ではないこと、そして他にも道具が壊されておりそれらすべて強い力によって破壊されている事を話した
「以上が私からの報告よ、なんか今回は初回ほど考えることが少なそうね」
「お互いに考えが一致してるからな、今回の目標の能力は十中八九発現系統の念動力で間違いないだろうな」
念動力、時代が時代ならサイコキネシスなどと称された触れていない物質に斥力や圧力といった力を加える能力である
現代における発現系統能力ではかなり有名なのだが静希は数えるほどしかこの能力を見たことがない
「力が均等じゃないってのはなんか理由があんのかな」
「んん、自分の身体と能力を同期させてるんじゃないかな?ハサミの動きと同じ力を与えるみたいな」
「なるほど、ありえるな」
弁当を口に放り込みながら全員で考えを巡らせる
「だとしたら敵の攻撃は見えない上に、ハサミの動きで攻撃の動作を見なきゃいけないってことだ・・・接敵時が一番危険だな」
身体が小さいザリガニに接触するだけなら話は早かった
だが今回の敵は能力を保持している
しかも小型で木製とはいえ船を一艘破壊する程の威力を有している、下手すれば静希達もあの船のように真っ二つにされかねない
「今回一番重要なのは明ちゃんと熊田か・・・なんか釈然としないなぁ」
「仕方ないだろ、それとも雪姉は気配でザリガニ探せるのか?」
無茶言わんといてと雪奈は自分の刀を愛おしそうに抱きしめて部屋を転がる
どうやら活躍できそうにないのがいやなようだ
「てなわけで、明利と熊田先輩の二人は特に注意して探索、私達は二人に頼らず足元や水の中に注意しながら行軍、そんな感じかしら」
「そうだな、現状他に手もないわけだし」
実際情報だけで何とかできるわけではない
例え外が雨でも自分の足で動かなければならないのが校外実習だ
「リミットはどれくらいにする?」
「そうだな、今十三時ちょい過ぎだから・・・十四時から行動開始として前回と同じ、十七時にはここに戻っていたいな」
「三時間か・・・妥当なところだな」
夜になると視界の関係もあるが水温が一気に下がる
ザリガニの行動が最も活発なのは水温が十五度から二十五度とされている
日中最も気温が上がるのはだいたい十三時~十四時の間
つまりこれからが一番目標との遭遇率が高い時間でもある
「飯食い終わったらすぐ行動開始しよう、雨具と濡れても構わない靴、各種装備整えて移動開始だ」
全員が了解と返事をして昼食を摂り終える
静希はトランプの中の確認と腰に二本のナイフ、鏡花と陽太は身軽になにも持たず、明利は自前のマーキング済みの種を多種、雪奈はナイフ六本に刀一本、熊田は手袋にワイヤー
雨合羽に装備の最終点検をし、とりあえず指導教官の元へ向かう
「先生、とりあえず地形把握含め目標接触に向かいます、何か一言頂けませんか?」
班長鏡花が寝転がっている城島をゆする
この教師に引率としての意味があるのか疑問に思いつつ静希達は城島の言葉に耳を傾ける
「あー・・・そうだな、どんなことがあるか分からない、死なないように、そしてくれぐれも問題を起こさないように、それだけ守っとけ」
問題を起こさないようにといった時静希の顔をじろりと見た気がする
全員が顔をひきつらせながらその場から退避する
実際静希は問題の元だ、いや問題の中心だ、この反応は半ば当然かもしれない
「よし、それじゃ行動開始」
上流に向けてまずは移動
地図から察するに町の中心から少し外れたあたりで川は二分する
主流、もともとある大きな流れはそのまま上流へ
そして枝分かれするように山の方向へと伸びたあまり大きくない川
静希達の目標は山の方へ伸びている川だ
熊田の探索をメインに無人島で行った石の中に仕込んだ明利の種を定点的に飛ばしながら警戒しつつ進行する
「こうしてザリガニ探してると童心に帰るな、ザリガニ釣りしてたのが懐かしいよ」
「ほんわかしてるとこ悪いけど、警戒して、次の瞬間上半身と下半身が離別するかもよ?」
「ザリガニ博士なめんなよ?この辺りにはいない、俺の勘がそう言っている!」
陽太の勘などあてにならないと言いたいところだが、実際陽太はザリガニ釣りは結構うまかった、恐らくこの勘もあながち間違っていないのだろう




