遭遇者の話
一方静希達は荻野の用意した地図を頼りに町の詰め所に来ていた
どうやら町の集会場兼公民館のような場所らしく掲示板などが置かれいくつかの部屋で構成されているらしかった
何やら話声の聞こえる会議室と書かれた一番大きそうな部屋に入ると中には四十過ぎの男性が何人か議論を交わしていた
といっても会議をしているというわけではないようで世間話をしているようにも見えた
静希達が入ったことに気付いた男性達は一斉に振り向いて怪訝な顔をする
「君達は誰かな?今少し忙しいんだが」
「お話中申し訳ありません、俺達は喜吉学園の者です、依頼を受け奇形種討伐の為にこの町に来たのですが」
生徒手帳を見せる静希の言葉にその場にいた大人全員がどよめく
その様子は驚きというよりも喜びの方が強そうだ
「君達が、いや失礼した、まさかこんな華奢な子たちが来るとは思っていなかったものでな、いや見かけにはよらないものだ」
「褒め言葉として受け取っておきましょう、それで目標についてお話を伺いたいのですが、この中に目標に接触した方はいらっしゃいますか?」
対応していた男性が声をかけると奥の方から数人静希達の元にやってくる
「一人は今別件で出払っていてね、夕方には話を聞けると思うんだが」
「いえ、今いる方だけで十分です、船を破壊された方はこの中にいらっしゃいますか?」
「私がそうだよ、あの時は死ぬかと思ったよ」
けらけらと軽く笑ってのけるが実際その恐怖は半端なものではないだろう
「その時どういう状況だったか教えていただけますか?」
「あの時は船を出していくつか仕掛けを置くつもりだったんだ、そしたらザリガニの体が見えてね、ありゃなんだって驚いてたらいきなり船体が持ち上がって気付いたら真っ二つさ、端っこに乗ってて良かったと今でも思うよ」
この男性の話を聞く限り能力自体を目にしているわけではないようだ
だが船を持ち上げるだけの出力を持った能力であることは確定している
「では資料にあった写真を撮影した方はどなたでしょうか?」
「それは私だ、何か役に立てればと写真を撮ったのだが、ぶれまくりだね」
なんとも情けない限りだと苦笑しながら男性は頭を掻く
「その時の話を教えていただけませんか?できるなら目標の特徴や能力など、わかる範囲で構いません」
「ん・・・そうだな・・・もうこっちも逃げるのに必死だったからね、木だの岩だのを薙ぎ払いながらこっちに来るものだから・・・やたらとげとげしてたくらいかな・・・」
どうやら今回の目標のザリガニはかなり好戦的なようだ
普通野生動物は人間などを見たら逃げたり隠れたりが定石なのだが、能力の使い方でも心得たのだろうか
考えていたよりもずっと面倒なことになりそうだった
「よく逃げられましたね、あのあたりにはよく行くんですか?」
「あぁ、月一で水質調査に向かっているんだ、山の中は結構岩が多いから行くなら気を付けた方がいい」
「わかりました、あと今日明日の川の水量がどの程度かわかりますか?」
「そうだな、今日はそれほど強い雨じゃないからそこまでひどくはならないだろうけど、明日はどうなるか分からないな、川の水は上流の雨量にもよる、でも今日はこれ以上酷くはならないと思うよ」
さすがに川辺で漁をしている人たちは水に関しての読みは確かということだろうか
情報を一定数メモに記して他の情報を得ようと、何人かに話を聞いたが要領を得ないものばかり
無能力者で平穏に慣れ切った人間に非日常のことを聞いても仕方がないということだろうか
だが目標の能力に関しては大体見当がつき始めた
「ちなみに今ここにいない方はどんな方ですか?」
「私達より少し若いやつでね、元は近くにあった研究施設に勤めてた頭のいい奴だ、戻ったら君達に話をするように言っておくよ」
「ありがとうございます、他に何か気付いたことなどある方はいますか?」
あたりを見回しても状況は変わらないようだった
全員思考を重ねるがあまりいいことは思いついていないように見える
「では俺達は一度戻ります、また何か気付いたことがあれば民宿の方に伝えてください」
「あぁ、わかった、よろしく頼むよ」
町の詰所から出た静希は自分で書いたメモを見てため息をつく
「あんまりいい話は聞けなかったね」
「何て言うか、仕方ないんじゃないかな、皆普通の人だったし」
「そりゃそうだ、いきなりザリガニの特徴についてって言われたって俺だって困るしな、でも能力に関してはある程度予想できる、いったん戻って情報を整理するか」
現在時刻は十二時三十分ほど、少し早いが民宿に戻って準備を始めておくべきだろう
行動は早い方がいい
初回と前回と違って今回は探索がメイン、目標の住処と思わしき川の上流までは一本道、すれ違うということはまずない
となれば早いうちから行動して少しでも目標に対してアクションを起こさなければ時間がもったいない
実際に接触した人間に聞けた情報があの程度だったのだ、恐らく他の住人に聞いても有力な話は聞けないだろう
できるなら今日中に目標に接触しておきたいものである




