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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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帰ってきた静えもん

「結局その後どうなったんですか?」


「ある程度研究者たちが奇形種の行動を見張って、ある程度データが取れたら攻撃を開始した、正直あれは思い出したくないな」


当然と言えば当然だろう


基本的に動物は生きるための行動しかしない


近隣住民を襲うと言っていたがそれも最低限の食料にあり付けない状態であったために取った行動、ただの生存本能だ


熊田達からすれば山の生き物を捕縛し殺しただけ、思い出したい記憶なわけがない


「まぁ、人に危害を与えちゃったんじゃ仕方ないですよ、あまり気負わない方が」


「いやいや、動物に手をかけたこともそうだが、思い出したくないのはこいつのことだ」


熊田の指す指は真直ぐ雪奈を向いている


「どういうことですか?」


「いや恐ろしかった、奇形種の群れなんぞよりよっぽどこいつの方が恐ろしかった、未だにあれほどの恐怖を味わったことはない」


「雪姉一体何したんだよ」


「わ、私はただ戦っただけだ!普通に戦っただけだ!特別なことは何もしていないぞ!」


弁明しようとするが熊田の遠い目から静希は何となく察してしまった


「あの時のあいつの姿は今でも思い出す、血を浴びながら僅かに笑みを浮かべて両手の日本刀で奇形種を斬り伏せて行ったんだ、あれは怖かった」


容易に想像できるところがこの話の性質の悪いところである


「違う!違うぞ!?確かに笑ってたかもしれないけど、それは別に楽しかったとかじゃなくてちょろいなって思っただけで」


「いいよ雪姉、言い訳しなくてもわかってるから、とりあえず落ち着いてお茶でも飲んでなさい」


「うぅぅ、違うのに・・・違うのに・・・!」


静希の用意したお茶を少しずつ飲みながら雪奈はめそめそと座席の隅で小さくなってしまう


「そっか、奇形種よりも雪奈さんが怖かったのね・・・なんていうか・・・」


鏡花が雪奈へ妙な視線を向けている


「雪奈さんって戦うのが好きとかそういう感じですか?」


「うぅ?違うよ、私は戦うのが好きなんじゃなくて、相手の攻撃を避けて切り刻むのが好きなんだよ、あのスカッとする感じが好きなんだよ、怪我とかはしたくないんだよ・・・」


「戦うのは好きじゃないのに斬るのは好きなんですか?」


なんとも矛盾しているような回答に鏡花は首をかしげる


何かを切るという行動は料理以外ではあまりない、それこそ物体を切断するなどは機械に任せることがほとんどだ


非日常に身を置かなくては雪奈の望むような切り刻む行為は欠片も味わえないだろう


「要するに自分から一方的に惨殺するのがお好みのどS女ってことだよ鏡花君」


「静!誤解を招くような事は言わないの!違うからね鏡花ちゃん!私はそんな非道な人間じゃないからね?」


「あぁ!だからいつも抵抗できない明利を手篭めにしてるんですね!?」


「違う!私はそんなんじゃないんだ!誤解なんだぁ・・・!」


崩れ落ちるように明利の膝もとに泣きつく雪奈を見てさすがにやりすぎたかと鏡花も反省する


「雪奈さん、ごめんなさい、言いすぎましたって」


「うぅぅ、どうせ私は威厳も何もないお姉さんですよーだ・・・尊敬なんてされたこともないダメな先輩ですよーだ」


「あ、ダメだなこりゃ、完全に拗ねちまった」


「しまったな、雪姉、悪かったって、機嫌直せよ」


「こんな深山は初めて見るな」


「あの雪奈さん・・・重いです・・・」


完全にへそを曲げてしまった雪奈に鏡花と熊田は驚きながらも何とか機嫌を取ろうとするのだが全く聞く耳持たず明利の膝に顔をうずめている


「どうすんのよ静希、悪ノリが過ぎたんじゃない?」


「この状態になったらしばらく面倒だぞ、雪さん基本的に頭は子供なんだから」


自分より年下の人間にこうまで言われては本当に雪奈は立つ瀬がないと思いながらも静希は時間を確認する


「安心しろ、もう手は打ってある」


「え?」


しばらくして全員が静かにしていると雪奈は先ほどまで頑として明利の膝に食らいついていたのだが、やがて力なく全体重を明利に預け始め、ゆっくり寝息を立て始める


「あんたまさか」


鏡花の疑いの目に静希は笑みを浮かべながらカバンの中から小瓶を取り出す


「フフフフフ、てれれれってれ~睡眠薬~(ダミ声)」


「気に入ったのはわかったからやめなさい、またそんなもの仕込んで」


「まぁ冗談抜きにこの状態になると面倒なんだ、いったんリセットした方がいいだろ」


明利の身体から雪奈を引きはがして不安定ながら自分に寄りかからせる


「幸い電車の時間もまだたっぷりある、それに雪姉なら二時間ポッキリで起きるだろ」


やがて肩で支えるのも面倒になったのか自分の足を枕にさせて雪奈を寝させる


「まさか雪奈さんにまで使うなんてね」


「いや、なんとも絶妙なタイミングだったな、ああなると読んでいたとしか思えない」


熊田の称賛を浴びながらも静希はたいしたことないですよと苦笑する


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