過去の実習の記憶
「で、雪さんはどんな班と一緒に戦ったんスか?」
陽太の言葉で雪奈は先ほどまでの笑みを一瞬で消してしまう
心なしか眉間にしわを寄せているようにも見える
「あー・・・深山にその話は振らない方がいいと思うが」
「熊田先輩も合同実習参加してたんですよね?どんな班だったんですか?」
当然の疑問に熊田は腕を組んで悩み始めてしまう
「彼らは、いい班だった、そう、連携もいい、個人の能力も高かった、確かにいい班だったんだ・・・」
何か熊田のいい方が妙だ
相手のいいところを必死に探しているようなそんな感じがする
そして歯切れが悪いところに視線を雪奈に向けたが最後、大きくため息をついた
なるほどどうやら原因は雪奈にあるようだ
「最悪だったよ、あいつは」
「あいつ?」
雪奈の声は明らかに不快感を強めている、こんな状態の雪奈は珍しいなとある種感心していた
基本的に雪奈は人と接する場合友好的だ
人の好き嫌いなどはなくどんな人にも平等に接することのできる人間的に尊敬できる人物だ
「なぜ深山があそこまで彼女を嫌いになったのかが分からない、そんなに嫌な奴ではなかっただろう?」
「いいや!嫌な奴だった!もう思い出しただけでもむかつくね!ご立腹とはこのことさ!」
わなわなと身体を震わしながらその相手を思いだしているのだろう
雪奈はうめき声をあげながら頭を振り乱している
「要するに、雪姉的にはその人は敵だったわけだ」
「そう!敵なんだよ!間違いなく敵なの!さすが静よくわかってるじゃないか」
そう、雪奈の人と接する時の基準はただ一つ
敵か否か
要するに敵でなければ友好的に接するし、仲よくもなる
だが敵だった場合、または自分が敵と定めた人物や敵意を自分に向ける場合、雪奈はとことん警戒し攻撃的になる
どのような人物であったか静希は知る由もないが、恐らく雪奈の触れてはならない逆鱗にでも触れてしまったのだろう
それにしてもここまで敵視する相手がいるというのは珍しい
少なくとも今まで静希が一緒にいた中でここまで雪奈に敵視された人物はいなかった
「ちなみにその任務ってどんな任務だったんスか?」
「一応実習はすべて部外秘なのだが・・・」
「構わん、概要だけ話してやれ」
城島のOKが出たところで熊田は自分の記憶の中から当時のことを思い出し始める
「ある山の山道付近に奇形種の群れが巣をつくっていることが分かってな、近隣住民に被害も出していたためそこに研究者を連れていくことと、奇形種を捕縛、あるいは排除するのが目的だった」
「奇形種の群れ?そんなんいるんすか?」
「実際いたんだ、奇形種も生殖能力がないわけではないからな、どういうわけか十数体の奇形種が折り重なるように暮らしていたよ」
「信じられないな・・・あんなのがたくさんいるのかよ・・・」
静希達は以前孤島で出会った猪の奇形種を思い出す
思えばあの猪も複数確認できた、実は群れをなしていたのだろうか
どちらにせよあのおぞましい形をした生き物が大量に出てこようものなら静希は正気を保っていられるかは微妙なところだ、明利ならまず間違いなく気絶しそうな光景が広がっていることだろう
群れをつくるということは動物などであれば別段珍しい話でもないだろう
だが奇形種は基本的に本来の動物の姿とはかけ離れた姿をしている
そういう子が群れの中で生まれた場合、ほぼ確実にその群れから虐待を受け群れから追い出される
動物は人間以上にシビアな世界で生きている
どのように繁殖したのかは分からない、いや分からないからこそ研究者は好んでその場に行こうとしたのだろう
その護衛が雪奈たちの班だったのだ
「そういえば奇形種が産んだ子供ってどうなるんですか?」
「人間と、いやエルフと同じだ、その後生まれる子は奇形となる、それがどの部位かまでは分からない上に、医療技術のある人間と違い動物の出産は命懸けだ、親にとっても子にとってもな、大概親は子が生まれる時に死ぬのが常だが・・・珍しいケースだったのだろうな」
人間は医療という普通の動物にはない技術によって命をつなぐことがある
それは死ぬ間際の傷でも時として息を吹き返すことがあるほどだ
出産は本来母体にも子にも大きな負担を強いる
通常の出産でも生きるか死ぬかという瀬戸際に立たされる親子にとって子が奇形であるということは非常に危険を伴う
その体から生まれるはずではない形をした子が生まれるのだ、負担がないはずはない
だからこそ大抵の奇形種の親は死んでしまうし、子も親を失って長く生きられる個体も多くはないとされている
だからこそ奇形種の群れがいるなどというのは天文学的確率といっていいだろう
誤字報告をいただいたので複数投稿
最近感想が誤字報告場所みたいになってるから感想が来るとビクッとします
これからもお楽しみいただければ幸いです




