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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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手札

「それじゃ確認するわよ、目標はザリガニ、場所は支倉町、探索範囲は町中から上流までの川全域、持ち物は・・・」


「雨具に各種装備、着替えだのなんだのの日用品は多めに持っておいて、ついでに濡れてもいいように靴の替えもあった方がいいな」


「濡れた時ようにタオルとかもあった方がいいかも、あとは干すためのハンガーとか」


「思えば雨の日の訓練は結構やったが川の中で戦うというのはあまり想像できないな」


「ザリガニ相手に戦う?」


「訂正する、川の中で捜索というのは実感がない」


「それもそうだけど川に流されないかだけ注意しとかなきゃな、足場とか大丈夫かよ」


陽太の言う通り川の中で何かを探すなどほとんど経験はない


しかもここ数日の雨、間違いなく水の量は増しているだろう


前日は雨ではないにしろ当日はほぼ確実に雨、となれば足場の確保がなによりも難しくなる


流されないように注意もしなくてはならない


足場が不安定な状況での演習も何度か行ってはいるものの流れる水の中を動くという訓練はしたことがなかった


「地図では上流は植生が濃いみたいだからある程度地面はしっかりしてると思うぞあとは水の流れにだけ注意だな」


こればかりは当日にならないことには判断できない


雨が多ければ必然的に川の勢いは増す、仮に雨が降らなくても流れ続ける川に足を入れて動くのなら通常の倍以上体力を消耗するだろう


そして冷気に身体を晒し続けるのも良くない、今回の実習、陽太の能力的な問題だけではなく悪条件が軒並みそろっている


「それじゃ当日の大まかな流れを決めておきましょうか」


事前準備の話を終え鏡花は当日の話を始める


現地に向かってからことを決めていては何かとロスが生じる


ある程度スケジュールを決めてから行動した方が圧倒的に無駄は少ない


静希達もその考えには賛成だった


「ここからだと支倉町につくのは・・・だいたい昼前くらいだな、前の牧崎村より少し時間がかかる、ちなみに宿の方はまた先生頼みか?」


「今回は民宿みたい、もう話も付けてあるって言ってたわ」


初回と前回は突撃隣の晩御飯状態だったために碌な気構えもできなかったが今回は事前に知らされている分気が楽だ


「そうだねえ、まずは破壊された船の確認と、写真を撮った人とザリガニに遭遇した人の話が聞きたいな、能力やら大きさやら、わかることあるかもだし」


「雪さんに賛成、あとついでに川の状況と最低限の地形把握だけでもやっておきたい、あと俺の能力がどれくらい削られるのかも確認しときたい」


「それなら私のマーキングと熊田先輩の索敵も一緒にやっておきたいね」


「ふむ、牧崎村の時とほぼ同じ、初日は情報収集と地形把握、できれば目標と接触という形になりそうだな」


熊田のまとめに全員が頷く


できることが限られている分やることを決めるのが簡単だ


特に今回は目標と接触しなければなにもわからない状況ではない


事前にいくつか情報があるためある程度策が練れる


「ねえシズキ、今回も私達つれていってくれるの?」


さすがに黙っているのも飽きたのかメフィがふわふわと浮遊しながら静希の眼前に顔を出してくる


すっかり忘れていたと言わんばかりに額に手を当てて大きくため息をつく


「旅行にまでついてきたんだ、今更置いていくわけにもいかないだろ」


「やりぃ、私ザリガニって見たことなかったのよね、ちょっと楽しみかも」


メフィは乗り気だが邪薙はどうも気乗りしないようだった


「雨か・・・」


「なんだ邪薙、お前雨嫌いなのか?」


「・・・毛が濡れるからな」


どうにもこの犬顔が本当に神様なのか疑わしくなってくる


「マスター、私も御同道させていただけるのでしょうか?」


「当たり前だ、むしろいないと困る、お前がいないと誰が俺の剣になるんだ」


静希の戦いの中にすでにオルビアは組み込まれている


今まで近接戦闘はナイフかスタンロッドくらいしかなかったのに、ここに来て重量ゼロの剣が加わったのだ、この違いは大きい


「メフィ達と違ってお前は常に使いたい手札なんだ、いつも近くにいてくれ」


「・・・!かしこまりました・・・!」


嬉しさをかみしめるようにオルビアは深々と頭を下げる


「なによシズキ、私達は使いたくない手札だっての?」


「確かに、新参者に後れを取るというのは少々いただけないな」


代価を与えないと働かないメフィはともかく普段から静希を守っている邪薙からすれば新しくやってきたオルビアがこうも信頼されているのは面白くないかもわからない


だが静希にも言い分はある


「邪薙、お前は奥の手だ、どうしようもなくなったときに俺を守ってくれるのがお前だ、でも奥の手ってのは隠しておくのが常だろうが」


「む・・・確かに」


「んでメフィ、お前は今、俺の切り札だ、俺は切札は相手を殺す位の覚悟がない時以外は使わない、言わば伝家の宝刀だ、んなもんをガンガン使ってたまるか、俺は大事に大事に保管しておくぞ」


「なに?大事にしてくれるの?嬉しいこと言ってくれるじゃない」


もはやこの人外二人のコントロールが上達している静希の口答に鏡花達は感心しながらも少し呆れていた


静希はメフィと初めて会ったあの日、迷わず切札を使った


それはつまりあの時静希はメフィを殺すだけの覚悟があったということだ


あの状況では殺さなくては殺されるという強迫観念が強かったというのもある


だがそれでも命一つ奪うことをあんなにもあっさり決断できる静希はすこし歪だとも思ったのだ


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