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J/53  作者: 池金啓太
六話「水に混ざる命の香り」

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気苦労

「じゃあ明利を含めた評価は?」


「ふむ・・・そうするとやはり戦闘をしていない幹原・・・と言いたいが、幹原と響は評価的には同点だ」


「うわ、陽太あんた酷い点なのね」


戦闘を行っていない明利と同点ということは相当陽太の評価は低いものだとわかる


「お前達は今回の演習で攻撃に重点を置いていたようだが、今回の演習の本質は強者に遭遇した際の立ち回りとその対応だ、幹原は負傷した人員に駆け寄り即座に回復を繰り返していた、戦況が読めなくてはできないことだ」


おぉと全員が明利を見ると、小柄な少女は身体をさらに小さくさせて恥ずかしがっていた


「若い奴が間違えることが多いが、お前達の最大の目標は任務を成功することよりも生き残ることだ、もちろん任務を遂行できることに越したことはないが、一番大切なのは命であるということを忘れるな?」


限定的な条件下ではあるが能力を屋外で使用することを許された高校生にありがちなこと


それはまず自分が特別な者であるという錯誤的な感覚


無能力者の中に入り抱えている問題を解決することで無能力者よりもすぐれているという勘違いを起こす、そして結果、自分を物語の主人公か何かと錯覚し命を軽んじる行動に出る


能力保持の新兵によくある症状だと城島は語っていた


「まぁ、お前たちならある程度自粛するのは分かっているがな」


「そりゃ、自粛しなけりゃ死ぬってことくらいわかってますからね、引き際くらいは心得てますよ」


その言葉は静希が言うだけでずいぶんと重みが違う


そしてそれは陽太達も同じことだ


今まで対峙した敵は数少ない


エルフの少女、悪魔、神格、奇形種


ある程度自分たちが優位な条件であることもあったが、どの戦闘においても静希達は生き延びてきている


普通の高校生では体験できない程の経験をこの短期間で行ってきている


「ならいいが、次の校外実習も気をつけろ、何が起こるか分からない、そのことだけは頭に入れておけ」


生徒らしく間延びした声ではーいと返事する一班に城島は少しだけ不満そうな視線を向けため息をついてその場から離れていく


次の校外実習、本来の予定からすれば二回目となるのだが静希達一班は三回目となる


行事が重なることで多少間延びしたがここから六月の校外実習、七月の期末試験と学生にとっては嬉しくない行事が連続して行われる


校外実習に関してはすでにあと数日に控え、今日の放課後に任務資料を受け取ることになっている


「今回の任務、せめてまともなものだといいんだけど」


「同感、せめて相手は動物か人間であってほしい」


戦闘になった時実際に矢面に立つであろう陽太と鏡花がぼやく


その気持ちは静希もそして苦笑いしている明利も同じだ


彼らの場合過程を二、三段どころか五、六階分ほど飛び越した任務を与えられてきている


偶然ではあったのだが普通の学生が行う任務とは明らかに毛色が違ったのは言うまでもない


参考までに他の班がどのような任務を行ったのかをそれとなく聞いたことがある


曰く新薬投与による能力の発動条件変化の臨床実験だったり、静希達が当初受けたような害獣の駆除であったり、行方不明になった人物の捜索だったり、要人警護だったりと学生に任せる仕事としてはどうかと思うがそれでも静希達に比べれば万倍ましな任務である


今回こそ静希達にもまともな任務が舞い降りてくることを切に願うばかり


少なくとも悪魔とか神格とか精霊とか、そんな滅茶苦茶な状態になることが目に見えている任務だけはごめん被りたいところである


「そういえば天気はどうなんだ?この週末」


実習が行われるのは前回と同じ週末、金曜日を含めた土日の三日間


ここ数日雨が続いているためどうにも天気が心配になる


「たぶんお日様は拝めないと思うわよ?前日曇りで最後の日曜日だけ時々晴れだけど、それ以外は全部傘マークだったわ」


「うっへ、俺の能力めっちゃ使いにくいじゃんか」


「こればかりは仕方ないよ、頑張ろう」


自分の能力が減衰することもあってか陽太のやる気は徐々に下がってしまっている


これだけ雨が続けば気が滅入るのも無理もない、湿気は高く太陽が出ていないせいもあってか少し気温も低い


「雨具はもちろんだけど他にもいろいろ必要になるかもな」


「そういや静希、気体はもう準備できたの?」


四月の半ばに消費した水素、酸素、硫化水素の補充


あれからずっと行ってきている静希の日課なのだが、静希の表情はあまり良いとは言えない


「水素と酸素に関しては問題なく補充完了したんだけど、硫化水素の方はこの前ようやく材料が入手できたんだ、だからまだ補充はできてない」


硫化水素の材料が手に入ってもそれを生成するのにも時間がかかる


水素ほど軽い気体ではないため五百グラムを用意するのに時間はかからないがその取り扱いが非常に難しい


なにせ自分が吸い込めばそれだけで死に至る可能性のある猛毒、生成も慎重にならざるを得ないのだ


「なんていうか、苦労してるわね」


「まったくだ、誰か代わってほしいね」


悪態をつきながら静希は大きくくしゃみをする


数日家を開けることになるかも知れないので予約投稿



これからもお楽しみいただければ幸いです

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