数奇な人生
「あんたの負けよオルビア、この人はシズキよりもずっと素直だわ」
「メフィストフェレス・・・ですがマスターは父君を巻き込むことを良しとしません」
「でもばれちゃったら仕方ないでしょ?第一ばれたってどうしようもないじゃない」
「人の口に戸は立てられぬというが・・・どうしたものか」
「マスターは父君を巻き込まないこともそうですが、情報が漏れることも危惧しておられます、情報が漏れ、万が一ご両親に危害が加わるようなことがあったら」
悪魔や神格、霊装を狙う人間は数多くいるだろう、圧倒的な力を持つ悪魔と神格、そして貴重にして希少な霊装、知られるべき所に知られればそれだけでパニックが起きかねない
「もちろん静希は私を巻き込みたくないだろう、私はただの無能力者だ、その考えは正しい、だからこそ私はなにも知らない、君達は学校の先輩、そういうことでいい」
明らかにこちらから情報を引き出しておきながら和仁は満足したという顔つきだ
ただ新しく静希の近くにいる彼らがどのような人物かを見たかっただけなのかもしれない
「これからも静希をよろしくお願いするよ、ああ見えて無鉄砲な子だ」
「父親って複雑ね」
「そうだよ、一人の人間であり、親であり、社会人だ、いろいろと面倒なのさ、だから私が気付いているってこと、静希には内緒で頼むよ」
「いいの?シズキは貴方達に隠しごとしてるのに」
「隠しているからこそだよ、あいつが隠すなら意味がある、せっかくあいつが隠そうとしているんだ、粗探しするより知らないふりする方がずっといい」
父親がメフィ達の正体を知っているということを静希には知られてはいけない
知られればそれは静希にとっての弱みになる
知れば必然的に厄介事の渦に巻き込まれることになる
だからこそ、五十嵐和仁と五十嵐麻衣はなにも知らない無能力者の、ただの静希の両親でなければならない
「ちなみにさ、悪魔に会ったのって何時の話なの?ちょっと気になるわね」
「知りたいかい?と言ってももうかなり前の話だよ、静希が生まれる少し前だったかな?八月終わりあたりにドイツでの仕事を切り上げて日本に帰るちょっと前に事故があったらしくてね」
静希の誕生日は九月、本当に生まれる直前の話だったようだ
「どっかの施設か、なんかの実験所かは知らないけど爆発して火事があったらしくてね、直接関わりはしなかったけど辺り一面野次馬の群れでね、さっさとホテルに帰りたかったから裏通りを移動してたら出会っちゃったんだ」
「うっわ、貴方よく生きてたわね」
悪魔に対して何の対抗手段も持たないただの無能力者が悪魔に遭遇
しかも話を聞くにその爆発事故は悪魔の仕業の可能性が高い
「自分でもそう思うよ、そいつは狼みたいな大きな犬の姿なんだけど、尻尾が爬虫類みたいでね、変わった姿をしてた、けど怪我をしていたようでね、しかも意識がないらしくて最初はただの犬かと思ってホテルに連れて応急手当だけしてあげたんだ」
それだけ聞けば奇形種かただの動物を助けてあげたハートフルストーリーなのだが、そこからが問題だった
「その悪魔、というか犬なんだけど、意識が戻ったらしくてね、あたりを警戒してたから『お、目が覚めたのか、たいした怪我じゃなさそうだな』っていったら『お前は誰だ』と言うじゃないか、驚いたよまさか犬がしゃべるとは思っていなかったからね」
悪魔は姿形はそれぞれ千差万別、メフィのように人の姿をしているものもいればその悪魔のように動物のような姿をしているものもいるようだ
「でさ、こっちが驚いたり感動してたりしたらその犬思い切り呆れたらしくてため息ついたんだよ、そっから事情説明して、どうやら敵じゃないとは分かってくれたようでね、少しの間話したんだ」
「そいつの名前とか聞かなかったの?」
「聞いたよ、確か、アモンとか言ってたかな」
「アモン!?え!?あいつ!?」
「知りあいかい?」
メフィの驚きようにさすがの和仁も動揺を隠せなかったが、メフィはそれを聞いた後にさらに額に手を当てて呆れかえる
「あいつと会って生きてる人間がいるなんて・・・聞く奴が聞いたら卒倒するわ、本当によく生きてたわね」
「メフィストフェレス、そのアモンとやらは凶悪な悪魔なのですか?」
「私と同じ上級悪魔なんだけど、凶悪というか、あいつの怒りに触れるとやっかいなのよ、あたり一面火の海決定、さっき言ってた爆発事故があいつの仕業ならよく建物一つで済んだと思うわ」
メフィは何やら思い出しているのか額に汗を流しながら大きくため息をついている
「で?アモンには何か言われなかった?というか何かされなかった?」
「特には・・・あぁ、彼がホテルから出ていくときに『手当てしてくれた礼だ、何か未来に望むことはあるか?』って聞かれたな」
「何て答えたわけ!?」
悪魔の問う願いとは何かを代償として払わされることが多い
メフィの場合静希に対して甘いので大概の事は安く請け負うが他の悪魔は違う
些細な願いを大量の代価で行使する場合もある
「静希が、自分の子供が元気に生まれてくればいうことはないなって言ったら笑って出て行ったよ」
「それから何か変わったことは?」
「んん・・・静希が元気に生まれてきたことくらいかな?他には何もなかったよ」
「むむむ・・・あいつがただ話して終わりなんて・・・でもなぁ・・・」
アモンという悪魔の性格を知っているからなのかメフィは勘ぐりながら首をかしげている
「父君よ、神格との出会いは何時頃?」
「あれは五年前くらいかな?仕事で御神体を運ぶことがあって、その時に、最初は幻覚か何かかと疑ったよ、倉庫の中で御神体が光ってると思ったら変な人が出てくるんだから」
「何か話したりは?」
「特にはないな、その後関係者の人に聞いて神格だって知っただけだからね、似たようなことが二年前にもう一回、さすがにもう慣れてきたよ」
静希程危険ではないがこの和仁もそれなりに数奇な人生を送っている、無能力者にも関わらず悪魔と神格に遭遇するなど隕石直撃が三回連続で起こるくらいの確率
静希の面倒事へ巻き込まれる体質は和仁からの遺伝なのだろう




