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J/53  作者: 池金啓太
五話「五月半ばの家族の一日」

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事態急変

二人が次に向かったのは川にかかる大きな橋


隣街との境界線ともなっているこの橋に寄りかかりながら川を眺めていた


「この後はどうすんだ?」


「時間つぶしてこのまま隣街に、同じように建物の間をすり抜けながら移動して、夕方になったら帰りましょ、さすがにあんたの家までお守するのは御免よ?」


「わかってんよ、そんときゃ腹くくるって」


「ていうか、あんたの帰りを待ってたらどうするのよ、この行動全部無駄よ?」


「いやそりゃねえよ、姉貴は基本家にいつかないし」


さすがに家で待たれてはどうしようもないが、陽太はそれだけはないとわかっていた


それはさすがに弟としての勘というか理解というか、今まで姉を見てきたうえでの判断だった


「姉貴は学校が忙しいからな、今日だって多分日帰りでまた向こうに飛ぶことになると思う、夕方には帰るんじゃねえか?」


「何しに帰ってきてるのよ」


「・・・ただの顔見せだろ?」


腑に落ちないところがあるが陽太がそういうのであればそういうことにしておく他ない


「ったくもう、何であんたの顔を連日見なきゃいけないんだか」


「こっちの台詞だ、何が悲しくてお前なんか」


ある事情から二人は、というか一班全員は集まっていたのだがそのせいでこの一週間はずっとお互いの顔を見合わせていたことになる


「そうだ、そろそろ静希のやつもガキどもの監督終わったろ、こっちに手まわしてもらおうぜ」


陽太が携帯を出して静希に電話すると強烈に不機嫌そうな声が聞こえてくる


『あぁん?何か用か?』


「なんだよいきなり、もうガキの相手は終わったろ?こっち手伝ってくれよ」


『っざっけんじゃねえよ、こっちはこっちで面倒なことになってんだ、そっちはそっちで何とかしろ』


なんとも不機嫌な声なのだが何やら雑音に混じって妙な声が聞こえる


複数の誰かが話しているような声だ


『とにかく切るぞ、実月さんにあったらよろしく言っといてくれ』


「あ、おい静希!」


静希は陽太の言葉も聞かずにそのまま電話を切ってしまう


「静希なんだって?」


「こっちは面倒なことになってるからそっちで何とかしろって」


「手は借りられないってわけね」


土地勘があるとは言えない鏡花と土地勘はあるが頭が残念な陽太、この二人のコンビでは長くは逃げられないかもわからない


二人はとりあえず場所を隣街へと移していた


橋からさほど離れていない場所を建物から建物へとすり抜けるように移動していく


時間的にどれくらい移動しただろうか、途中個人経営の駄菓子屋などで一息入れながら夕方まで時間を潰す結果となった二人


購入したラムネを飲んでいると鏡花の携帯にメールが届く


相手は静希からだった


『お前ら今どこにいる?これからどう移動するつもりだ?』


なんとも不思議な内容だった


「どうした?」


いかの珍味を咥えながらベンチに腰掛ける陽太をよそに鏡花はメールの返信を打ち始める


「静希から、今どこにいるかだって」


「あー、心配でもしてくれてんのかね?」


「あいつが?あいつが心配するのは明利だけでしょ、助言でもしてくれるのかもよ?」


「あいつが?助言なんてあいつには似合わないね、事実を突き付けるだけだよ」


かもねと呟きながらメールを返信する


『今隣街の駄菓子屋よ、しばらく時間を潰して路地裏を移動しながら戻るつもり』


そう返信して鏡花はラムネを傾ける


口の中に炭酸特有の刺激が広がる


どれくらいベンチに座って時間を潰していただろうか、日が陰り、あたりが赤く染まるのを確認して移動しようかと思ったその時、二人の前に車が一台止まる


窓を開けて顔を出したのは中年の男性だった


「やあ陽太君、久しぶりだね」


「おじさん、こんなとこで何やってんすか!?」


陽太は驚いた様子でその人の近くに駆け寄る


どうやら知りあいのようだった


僅かに混じる白髪と朗らかな笑顔の似合う落ち着いた男性であるという印象を受けた


「陽太、その人誰?」


状況が分からずに車の近くによると、陽太は思い出したかのように鏡花に視線を向ける


「あ、おじさん、静希から聞いてるかもですけどこいつが清水鏡花、俺達の班の班長です」


「あぁ、君が鏡花ちゃんか、車の中から失礼、いつも息子がお世話になっています」


「え?あ、はいどうも」


突然のあいさつと同時に頭を下げられたことで鏡花は戸惑いながらも挨拶する、未だに状況が理解できない


「鏡花、この人は五十嵐和仁さん、静希の親父さんだ」


「え?ええええ!?あ、そ、そうなんですか、初めまして清水鏡花です」


この朗らかな笑顔を浮かべる人とあの邪な笑みを浮かべる静希が血縁者とはどうにも想像できない


何をどうしたらあの歪んだ笑みを浮かべるようなお子さんが出来上がるのか二、三質問したいところでもあった


「ていうかおじさんはなんでこんなところに?それにおばさんは?」


助手席には誰も乗っておらず陽太は不思議そうにする


どうやら静希の両親はセットで動くことが多いようだ


「家内は家にいるよ、今は静希と明利ちゃんと雪奈ちゃんも一緒にお話し中だろう、なんだか面白いことになっているみたいだしね」


面白いことといったその瞳に微妙に鏡花は何かを感じ取ったが、陽太はそんなことに気付かず話を進める


「仕事はいいんすか?忙しいんじゃ」


鏡花も静希の親が海外を飛び回っておりほとんど帰ってこないため一人暮らしをしているということは聞き及んでいる


その親が帰ってきているというのは静希にとって嬉しいことだろう


「いや近くに寄ったものだから久しぶりに顔でも見ていこうと思ってね、今日はこれから幹原さん達と会食の予定だ、あと君にちょっとしたプレゼントがあるよ」


「まじっすか!?どっかのお土産ですか?」


「後部座席に入ってるから見てみるといい」


「よっしゃ!あざー・・・・っす・・・」


陽太が勢いよく後部座席の扉を開けるとその顔は一瞬で蒼白になり冷汗と脂汗が大量に噴き出していた


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