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J/53  作者: 池金啓太
五話「五月半ばの家族の一日」

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陽太の家族

「逃亡って言ったってどこに逃げるんだよ」


「要するにその能力はネット環境に接続されてたり公共機関のカメラや集音機を使って情報を集めてるんでしょ?なら逃げられない場所を消していけばいいわ」


まずは理論的に、どこに逃げられてどこに逃げられないかを逐一上げていく


「まず駅とかの公共機関、これはアウトね、バスもタクシーも間違いなく監視されてるとみていいわ、次に住宅街、これも危ないわね、最近は自宅にカメラを設置してるところも少なくないし危険だわ」


「あ、だから前は捕まったのか」


どうやら以前は住宅街に逃げ込んで捕まったらしい


確かに住宅街に監視カメラがあるという認識はあまりない


住宅街にあるのは各家庭が用意しているカメラだ、インターフォンや玄関先の監視用、能力がどれほどのものかは分からないがまず監視されているとみて間違いないだろう


「もちろんだけど店もダメ、コンビニからファーストフード店までいたるところに監視カメラの眼がある、人の多いところもまた然りね」


「おいおい、それじゃいったいどこに逃げればいいんだよ」


「・・・ていうか根本的な疑問なんだけど、なんであんたお姉さんから逃げようとしてるわけ?ずっと離れてたなら会ってあげればいいじゃない」


「嫌だね、絶対に嫌だ」


ここまで陽太が頑なになる姿も珍しい


そこまで実月という姉が苦手なのだろう


「で?俺はどこに逃げればいいんだよ」


「まず一つ、人気のない場所、というより裏通りとかね、建物と建物の間には当然監視カメラはない、移動は主にこれになるわね、あとは長時間の潜伏先だけど」


誰かから逃れる場合移動し続ければ見つからないというものではない、逆に移動することによって見つかることだってある


そういう場合ある一定時間ごとに停止と移動を繰り返す、規則性なく動くことで相手を撹乱することにもつながる


今回の場合相手がどこにいるかもわからないわけだが


「個人経営の駄菓子屋とか、監視カメラがないほどの老舗、あるいは公園、河川敷、橋の上、カメラがなくて人気もあまりなし、相手が接近することにいち早く気づくことのできる場所ね」


「でもほとんど屋外だぞ、見つかるのが早まるんじゃ」


「相手を見つけるのが早ければこちらも相手を見つけるのが早くなる、全力で走ればあんたの方が速いんじゃないの?」


「・・・たぶん」


自信なさげにうつむく陽太に鏡花は呆れる


今まで行動を共にしてきたがここまで情けなくなった陽太は初めて見る


苦手の内容が恐怖かそれとも性格的な面かは分からないが本当に姉に接触したくないようだ


ここまでくるともはやすがすがしさすら覚える


「ほらいつまでもしょぼくれてないで動く!もう見られてるかもしれないんだから」


「わ、わかったよ、わかってるって」


学校を出て陽太と鏡花は走り出す


何にもまして慌ただしくそして人の目ではなく機械の目を気にしながら全力で移動を開始していた


「ねえ、お姉さんなんだったらあんたの家に帰るんでしょ?」


「あー・・・たぶんな、親父とお袋に顔見せくらいはするだろうよ」


「あんたの家ってどこら辺?」


「どこら辺って・・・あっちのほう」


「アバウトすぎるわよ」


指さした方角を見て鏡花は呆れかえる


「まあでもよかったんじゃない?家にいたら帰ってきてるってこと知らずに鉢合わせしてたかもしれないんだし」


「・・・いや、俺が休みの日に家にいることはまずねえよ」


「え?なに遊び歩く感じなの?」


「いや、遊び歩くって言うか、暇つぶしだな」


建物と建物の間を潜り抜けながら他愛のない話をしている二人はまずは河川敷にたどり着いていた


周囲にはランニングする人や犬の散歩をする人が何人か見受けられる


「あんたってゲーセンとか行くイメージ強いけど、今日は行かなかったわけ?」


「行こうと思ったよ、けど時間が早くて開いてなかったんだ」


「なに、そんな早くから出歩いてたの?なんて無駄な時間」


「うっせえな、家にいたくないんだから仕方ないだろ」


「ふぅん、喧嘩でもしてるの?」


「うちじゃ日常茶飯事だよ」


他の家の事情にまで干渉するつもりはないのだが、どうやら陽太の家は家族間であるいは陽太がご両親と仲が悪いように聞こえる


鏡花からすれば考えられないが、思えば静希も一人暮らし、家族関係をあまり知らないと思いながら近くの階段に腰を下ろした


「あんたのご両親って無能力者?」


「あぁ、二人ともな、静希んところも明利んところもそうだ、お前のとこは?」


「私の両親は二人とも能力者よ、今は父親は公務員、母親は専業主婦」


「ふぅん、お前の両親って言うとなんかすっげー堅苦しそうだな」


「なによそれ喧嘩売ってんの?」


「おぉよ、在庫処分セール中だ」


あたりに警戒しながらそんなあたりさわりのないことを言っていると陽太の腹が大きくなり空腹を告げる


「もうお昼過ぎか、どっかでなんか食べたいわね」


「んだな、ラーメン屋でも」


「だから店には入れないんだってば」


陽太はそのことを言われて気付いたのか驚愕と絶望の表情を作る


「んじゃどうすんだよ、昼飯食えないってすっげー困るぞ」


「わかってるわよ、とりあえずお姉さんの標的はあんたなんだから私がコンビニでなんか買ってくる」


「じゃ俺焼きそばパンとおかかのおにぎりと餡パンとココアで」


「・・・もうちょっと統一しなさいよ、すごい組み合わせじゃない」


「好きなんだからいいだろうが、ほい金」


陽太から金を受け取り鏡花はコンビニに食糧の調達に行く


鏡花はサンドイッチとミルクティー、そして陽太のリクエストを抱えてまた河川敷に戻ってくる


「そんだけで足りるのか?」


「女の子は少食くらいがちょうどいいのよ、雪奈さんが大食いなだけ」


そういうもんかねと呟きながら陽太はまず餡パンに食らいついた


「あんたはなんで両親と喧嘩してんの?」


「・・・そういうこと飯食ってるときに聞くかね」


「しょうがないじゃない、こういうときじゃないと聞く機会ないだろうしさ」


サンドイッチを口に運びながら鏡花が問い詰める


逃げようものなら能力を使ってでも問いただそうという目をしている


陽太はため息をついて両手を上げる


「あぁわかったよ・・・単純にあの二人は俺のことを嫌ってるって言うか、俺を自分達の子供だと認めたくないんだよ」


「なにそれ?あんた養子か何か?」


「いや、ちゃんと血が繋がってることも証明済み、そうじゃなくて・・・なんていうか、姉貴は能力者だけどすげー優秀だった、でも俺はすげーダメダメだった、能力の暴走を何度起こしたかもわかんねえよ」


陽太の能力は暴走が起きやすい、操作自体が難しいのだと静希から聞いていた


「家が火事になりかけたことだってあった、俺が最初に能力を発動した時に親父たちが言った言葉何だかわかるか?『化物!』だぞ?」


陽太が最初に能力を発動したのは幼少期、幼稚園に入学したあたりのことだった


ちょうど静希と陽太が知り合ったばかりの頃でもある


「俺の能力は見た目があんなんだからな、能力に関わってこなかった親父たちが驚くのも怖がるのも仕方ねえ、でもそれから親父たちが俺を見る目は変わった・・・仕方ねえって頭ではわかってんだけどな」


鏡花は何となく理解した


陽太は両親と喧嘩しているのではない、恐らく陽太自身は両親と仲良くしたいと思っているのだろうが、引け目を感じている


そして両親は同じ能力者でありながら姉とは違い恐ろしい外見と能力を持った陽太を認められない


実の子であろうと、いや実の子だからこそそこまで恐ろしい力を持った陽太を認められない


自分達の血を引いた実の子が鬼の姿をしたらどのような感情を持つだろうか


鏡花には想像もできなかった


「あんたの両親、あんたとは違う意味で馬鹿なのね」


「どうだろうな、むしろ普通の反応じゃないのか?」


「馬鹿ね、人としては普通だろうけど、親としては最低の反応よ?親は一番に子供の味方になってあげなくちゃいけないのに」


鏡花の言うことは正しい、確かに親は誰よりも子供を守ってやらなくてはいけない立場にある


だが、陽太の両親が間違っていると決めつけることはできない


血が繋がっていようと能力者と無能力者、この二つの隔たりは深く遠い


能力への正しい認識と理解しようという心がなくては両者が手を取りあうことは決してない


「お前のところは能力者だからそんなことが言えんだよ、静希のとこはさておき明利のとこなんて大変だったんだぞ」


「え?明利のとこなんかあったの?」


「昔いろいろあったんだよ、詳しくは明利にでも聞いとけ」


最後に残ったおかか握り飯を平らげ陽太はココアを一気飲みする


「行こうぜ、そろそろ移動した方がいいだろ」


「ちょっと、明利のこと教えなさいよ」


「ダメだ、こればっかりは教えられないね」


ゴミをまとめながら陽太達は河川敷を後にする


お気に入り登録件数400突破記念でちょい長めで追加投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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