突然の来訪
その後いつものように理屈と正論で陽太を打ちのめし説教を終えた鏡花は満足そうに小学生と戯れている
もともと子供好きなのだろう、先ほどまで静希を見ておびえていた小学生たちともあっという間に打ち解けていた
「お前ももうちょっと鏡花に対して対抗したらどうだよ・・・いつも打ち負かされてるじゃねえか」
「うっせえ・・・あいつとは相性が悪いんだよ」
むしろこの関係が出来上がっている時点で相性はむしろ良いのではないかとすら思えてくる
まぁそれは陽太次第だ
「口喧嘩なら陽太が三人いたって勝つ自信があるわね」
「兄ちゃん大丈夫か?さっきすごい怒られてたけど」
自信満々の鏡花と一緒にやってきた少年の一人が不安そうに話しかけてくる
どうやら多少なりとも自分たちに非があるのではないかと思っているようだった
「あぁ、いつものことだから気にすんな、それより野球やってこい、そのために来たんだろ」
「・・・わかった、そんじゃね」
子供とは時に要らない心配もするものだ、まさか高校生の身分でそんなことを知ることになるとは思いもしなかった
「にしても陽太が『兄ちゃん』か、なんかイメージできないわね」
「どういう意味だよそれ」
「少なくとも上に立つような人間じゃないのは確かね」
「ほほう?喧嘩売ってんのか?」
「陽太に対してなら特別サービス大安売り中よ?」
二人が火花を散らしている中明利が思い出したように声を出す
「どうした明利、なんかあったか?」
「えと・・・すっかり忘れてたんだけど、さっき言おうとしたんだけど言いそびれて」
明利の言い草に、そういえば何か言いかけた時遮るように城島の電話がかかってきて明利達に急いで事情を説明しそのまま走ってやってきたため何の内容か聞くのをすっかり忘れていた
「あのね、実月さんが今帰ってきてるんだって」
「は?帰ってきてるって日本に?」
「え!?何それ明ちゃん聞いてないよ!」
「えと、昨日メールが来て陽太君に『会いに行くから待ってろ』って」
その会話を聞いた陽太が大口開けて驚愕の表情を作って固まってしまっている
突然の状況変化に脳が情報処理能力の限界を越えてフリーズしてしまったようだ
「ねえ、その『みつき』ってだれ?」
未だ状況を把握しきれていない鏡花に静希がそういえば知らなかったなと今更ながら付き合いの短さを実感する
「実月さん、本名響実月、陽太の実の姉だ」
「え!?なに!?陽太あんた一人っ子じゃなかったの!?」
「驚くところはそこか!もっと別にあんだろうが!」
「意外だわ・・・ずっと一人っ子とばかり思ってたから・・・しかもお姉さんがいたなんて」
鏡花からすれば圧倒的な事実だったのだろう、目をぱちくりさせながらへぇ~とにやついている
「め、明利、姉貴はいつこっちに着くって言ってた!?」
「えと・・・時間は特に書いてなかったけど・・・できる限り急ぐって」
「やばいじゃねえか・・・どうしよ・・・今のうちに逃げるか・・・?」
急に焦りだしてあちこち右往左往し始める陽太を鏡花は不思議そうに眺める
「なんであいつあんなに焦ってるわけ?」
「あー・・・陽太は実月さんが苦手でな・・・」
「ふぅん、どんな人なの?」
響実月についてまったくと言っていいほど予備知識のない鏡花は何げなくきいたのだろう
だがその言葉にわずかであるが雪奈が冷汗を作っていた
「あー・・・ちょっとだけお前に似てるかもな、とにかく頭がいい、ホントに陽太の姉なのかってくらい頭がいい、身長高くて・・・今は海外の大学に在籍してて、明利に同調の基礎やらコツやらを教えた人だ」
「へぇ、すごいわね・・・明利のお師匠様?」
「まぁそんなところだな、あと陽太が雪姉のことを雪さんって呼ぶ最大の理由が実月さんだ」
あらましだけ話していると陽太が半泣きになりながら駆け寄ってくる
「静希どうしよう!俺どうすればいい!?逃げればいいのか!?何とかしてくれ!」
どうやら相当まいっているらしく静希の身体を揺らしながら助けを求めるが静希はわずかに揺られながら邪笑を浮かべる
「残念だったな陽太君、俺はお前が持ってきた厄介事、この小学生達を監督しなければいけない立場にある、お前にかまっている暇はないんだ」
「なんだと・・・!幼馴染より見ず知らずの小学生を優先するって言うのか!?」
「恨むならお前の善行を恨め、お前がまいた種だ、お前が食いつぶされろ」
「あああああ!気まぐれでいいことなんてするんじゃなかったぁぁぁぁ!」
「なんかこれからの人生観を一変させるようなこと言ってるわね・・・」




