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J/53  作者: 池金啓太
五話「五月半ばの家族の一日」

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陽太の休日

全国的に休日であるこの日、響陽太は外出していた


特に予定があるわけでもない、いや予定がないからこそ外出していた


特別何をするわけでもなく家から出てゲーセンやら古本屋などによって時間を潰そうとも考えていたのだが、妙な時間に目が覚めたことが災いし近くの店は軒並み開店前


時間を潰そうにもなにもできない陽太は当てもなくダラダラと周辺を散歩まがいに歩いていた


ちょうど昔よく遊んだ公園があると気付きそこで昼寝でもしていようかと向かってみるとかつて公園であったそこは有刺鉄線で囲われ立ち入り禁止の文字が出されているのが遠目からでもわかった


かつて静希や明利と遊んだ公園だったのだが、時の流れとは無情なものだなと思いながらかつて自分たちが走り回った場所を眺めていると後ろからがやがやと子供の声が聞こえる


「兄ちゃん、ちょっとどいてくんない?」


「ん?おぉ悪いな」


どうやら看板でも見たいのか少年少女達は陽太が立っている場所の目の前にある看板に目を向ける


「なあやっぱ入っちゃだめなんじゃないのか?バッテンしてあるし」


「読めないっての・・・子供にもわかるように書けよな・・・なあ兄ちゃん、これなんて書いてあるんだ?」


どうやらまだ禁止の文字を習っていない程度の低学年のようだ


身長は陽太の腹までくらいしかない


「危険、工事にて立ち入り禁止、だな、入っちゃだめってこった」


「えー!それじゃどうすんのさ、今日こそ決着付けようと思ったのに」


「ねー」


その看板の前に立ち尽くす少年たちの姿が目に入る、手に持ったバットやグローブから見てどうやら野球でもやるつもりだったのだろうか


「どっかこの辺りで広いところなんてある?」


「知らなーい」


「川のところは?」


「ボールなくしそうだからやだよ」


「どうする?」


どうやら野球をやろうにも場所がなくてできないようだった


察するにこの工事の立ち入り禁止の看板は最近取り付けられたらしい


「ねえ兄ちゃん、どっか野球できそうな場所知らない?」


初対面のはずなのにこの堂々とした態度、この少年はなかなかの大物になるなと思いながら陽太は思考を凝らす


本来物事を考えるのが苦手な陽太だが昔から住んでいる土地の場所を思い出せないほど馬鹿ではない


「お前達の学校の校庭は?休みでも校庭くらい開いてんだろ?」


「ダメだよ、学校の校庭は上級生やスポ少の奴らが使ってるんだ」


スポ少、スポーツ少年団の略称で各地の小学生などの少年少女を対象にスポーツを教え、ときに大会などを開いている団体である


つまりこの低学年と思わしき少年たちは野球をやる場所がないということなのだろう


陽太も近くの地理に詳しいとはいえこの辺りは喜吉学園があるため学生街のようなものだ


商店街やスーパーはあれど野球のできる広場あるいは公園となると陽太の記憶の中にもあまりない


しかもその数少ない一つはこうして立ち入り禁止


「あそこは?商店街の近くの空き地」


「あそこはこの前野球やってたら怒られた」


「じゃあ神社近くの空き地は?」


「あそこは先に場所取られた」


陽太が思いついた場所を言っていてもらちが明かない


どうやらこの少年達は場所にとことん恵まれていないようだ


いや、小学校の低学年となればそういうものかもしれない、上級生が恐ろしく見えるし何より力の差が大きく出る、先にいても追い出されることもしばしば


どうしたものかと陽太が悩んでいると妙案を思いつく


「なあお前達、お前達は無能力者か?」


「そーだよ、なに?兄ちゃん能力者なの!?」


「おぉよ、お行儀よくしてるならうちの学校の演習場を貸せるかもしれないぞ?」


「ほんとに!?」


基本的に専門学校の演習場は使用許可さえ申請すれば休日でも使用できる


ある程度まじめで能力を伸ばそうとする人間は休日も学校に来て能力発動の練習をする


だがそんなのはごく少数


「ついてこい、ちゃんと挨拶とかするんだぞ」


「「「「はーい」」」」


陽太が喜吉学園にたどり着くとその大きさに少年達はワイワイとテンションが上がってしまっていた


「どもっす、休日演習及び社会科見学させたいんスけどいいっすか?」


陽太が生徒手帳を見せてにこやかな笑顔を見せると守衛は後ろの子供達を見ていささか怪訝な顔をする


「休日演習は構わないけど、社会科見学って・・・」


「こいつら近所のガキどもなんですけど、能力者がどんな風に学校で過ごしてるのか見てみたいって言うもんで」


「・・・」


守衛は少し怪しんでいる様子だったが陽太の後ろで目を輝かせている少年達を見てため息をつく


「そうだな、職員室に行って担任の先生に許可をもらいなさい、それでだめなら諦めるんだ」


「わっかりました、よっしゃお前ら行くぞ」


少年達をひきつれて陽太が城島のいる職員室にたどり着くと城島は不機嫌そうに書類と格闘している最中だった


「・・・休日だというのに何しているんだお前は」


「休日だってのに仕事してるんすか先生」


陽太の返しに城島は額に青筋を浮かべながら顔をひきつらせる


「問題しか起こさない連中の後始末だよ、これでも先生というのは生徒だけに対応していればいいというものではないんだ・・・で」


陽太の後ろにいる少年たちに目を向けると、少年達はとたんにおびえて陽太の背後に隠れる


「ガキどもに野球をやらせてやりたいから演習場を貸せと」


「そういうことっす」


城島に対しては下手に嘘をつくよりも正直に事を話した方がよさそうだと踏んだのか、陽太は悪びれもなく真実を告げる


「幸い野球ができるような・・・砂上、芝生、コンクリ、岩場の演習場は開いているが・・・まさかお前が監督役か?」


「だめっすか?」


「ダメだ、お前に任せると何をしだすか分からない・・・せめてこちらで用意した監督役をそばに置くこと、それが最低条件だ」


別に見られたからと言って何が困るわけでもなし、陽太には何のデメリットもない


むしろ監督しておく手間が省けて万々歳というもの


「その位全然いいっすよ、問題なしっす」


「よし、では呼ぶとしよう、お前達は先に行っていろ、監督役は後からよこす」


「了解っす、よしお前ら許可は取れた、このお姉さんにお礼を言うんだ」


「「「「ありがとうございます」」」」


少年たちに頭を下げられまんざらでもないのか城島は口元を隠しながら良いから早く行けと少年達を職員室から追い出し電話をかける


「もしもし、私だ・・・いやなにたいしたことじゃない、ただの厄介事だ」


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