優秀な剣
「やめやめ、よぉく分かったよ」
その様子を見てオルビアも剣を納め軽く息をついた
「やめって・・・なんでまた」
「あんだけ打ちあってれば彼女がどういう人なのかわかるって、真面目で素直でなおかつ従順、剣として非の打ちどころなしってところ」
「戦ってるだけでそんなことわかるのかよ」
静希から見れば互いに全力を尽くして戦っていただけに見えたのだが、雪奈にとっては違うらしかった
「わかるよ、私みたいなインスタントと違って彼女の剣術は彼女自身が何千何万と訓練と鍛錬を繰り返して手に入れたものだってこと、それだけで彼女が鍛錬を欠かさない真面目な性格だということが分かる」
インスタント、雪奈はそう自身を表現した
確かに雪奈の技術はすべて能力によって得られた物だ、だがオルビアのあの剣術は違う
オルビアの生きていた時代は剣で武勲をたてていた時代だったのだろう、それこそ毎日のように騎士としての鍛錬をこなしていたに違いない
「そして私が技術的に上だとわかるや否や戦法を攻めから守りへと変えた柔軟さ、相手の技量を認めることのできる素直さと言い変えてもいいね」
相手の実力をしっかりと見極める観察眼、そしてそれに対して自分の実力と比較して認めることのできる思考、どちらも戦場で生きていてこその判断力
「最後に、静希の出した怪我をさせるなって言う命令、あれを律儀に守ろうとしてるんだもん、自分がやられるかもって状況でその命令を順守できるんだから従順と言うしかないでしょ」
雪奈の言葉を信じるのなら、オルビアは雪奈への攻撃に対してのみある程度配慮していたことになる
逆に言えば雪奈は何の遠慮もなしに攻撃していたということでもあるのだが
「・・・よく気づかれましたね、私が攻撃のみ手を抜いていると」
「そのくらいわかるよ、これでも十年近く剣を握ってきたんだから」
雪奈の剣や刃に対する技巧とそれを見抜く観察眼は与えられたものではなく、雪奈自身が今までの経験から培ってきたものだ、だからこそ雪奈は確信を持って言う
「静の人を見る目、いや剣を見る目は確かだよ、この子なら何の心配もなさそうだ」
「そうかよ、もう気は済んだ訳か?」
「うん、満足、ごめんねいきなり敵意むき出しで・・・えと」
「オルビア、オルビア・リーヴァスと申します、私も失礼いたしました、マスターの知己の方であるとも知らず剣を向けたことお許しください」
「うん、じゃあお互いにごめんなさいってことで、改めて、深山雪奈よ、静ともどもよろしくねオルビアちゃん」
「はい、ユキナ様」
「うぅん、様付けされるのはなんだかくすぐったいなぁ・・・」
ちなみにこの時がオルビア最後のカタカナ発音だったりする
この後打ち解けた雪奈の指導の元、日本語をほぼ完璧と言えるまでにマスターし読み書き全て可能になってしまった
本当に無駄に高性能である
時間は戻って現在
オルビアの着ている服は以前雪奈の仕立てで購入及び雪奈のお下がりを譲ってもらった物だ
オルビアの為ならと雪奈は喜んで服を譲ってくれた
「あ、オルビアさん、おはようございます、その服すごく似合ってますね」
「明利様、おはようございます・・・お褒め頂き光栄です」
すっかり明利とも打ち解けたらしい、というよりオルビアは元より社交的なのだろうか、どのような相手とも平等に接し言葉でしっかりと対話できるようだ
もっとも静希に危害を加わえようとすれば豹変し刃を向けることになるらしいが
「そんで二人とも何しに来たんだ?珍しい組み合わせで」
「いやね、明ちゃんがあまりにも奥手だから私がむぐ」
「あのね!えとこの前お父さんがお土産で茶葉買ってきてくれたの!それでおすそわけでもって思って!」
雪奈の口を器用にふさぎながらあわてる明利を不思議に思いながらとりあえずもてなす準備をする
いくら旧知の間柄とはいえ何のもてなしもしない程静希は無遠慮ではない
「にしてもあれだね、オルビアちゃんが来てから静の部屋がやたら綺麗だね」
「毎日掃除しているので埃一つありません、マスターには健康な生活を送って頂かなくては」
「そうですよ、いっつも散らかしてたら不健康です」
「ははは、耳が痛いな」
笑いながら紅茶と茶菓子でもと用意しているが、雪奈とオルビアはこそこそと別のことを話しだす
「まずいよオルビアちゃん、明ちゃんが静の家に来る理由が掃除って名目なんだよ?このまま綺麗だと明ちゃんがここにこれなくなっちゃうよ」
「はぁ・・・ですが汚いままで放置していろというのはさすがに・・・」
「まぁ確かに綺麗であることにこしたことはないけど、明ちゃんほんとに奥手だからなんか理由でもないと静に会いにこれないって」
「ふむ・・・でしたらお任せください、妙案がございます」
「ほほう、聞こうじゃないか」
オルビアと密談しながら雪奈はまるでお代官のような下卑た笑いを浮かべている




