剣舞
「貴女がどんな剣か、私が見極める、抜け」
切先をオルビアに向けたまま雪奈は殺気を放つ
鋭い
深くまで刺さり、容易く切り裂かれるような殺気だ
「私はマスターに剣を収めろと命じられました、剣を抜くわけにはいきません」
静希の命令はオルビアの中では絶対らしい、指令を守ってくれるのは静希としても嬉しいのだがその殺気も一緒にしまってくれるとなお嬉しかった
だがそんなことができないのは静希も承知していた
もはやこの場は収まらない、収まりそうにもない
「こうなったらこの人は止められない、オルビア、抜刀を許可する」
「了解しました」
「だがここでやるのはダメだ、場所を変えるぞ、メフィ!邪薙!留守番頼む」
玄関を戦いの場にするわけにはいかない、そんなことになったら管理人さんに怒られてしまう
奥からはいよーと軽い声がするのを確認した後静希は二人をひきつれてマンションの屋上へ向かう
屋上などに来たのはいつぶりだっただろうか
懐かしさ交じりの風景を眺めながら静希は二人の女性を見る
一人は西洋剣を片手に握りその動きを確認している
何度か宙を切裂きながら空気を切る音をあたりに響かせる
対して一人は鎧を身に纏い両手で剣を構え正眼に刃を立たせる
「静、合図してよ」
「はいはい、それじゃこいつが地面に落ちたら合図だ、後は勝手にしろ」
静希が手に持っているのはポケットの中に入っていた旅行中に使った硬貨だ
何の因果かポケットの中に入っていたらしい
「・・・ただ二人とも言っておくけどくれぐれも怪我とかさせるなよ?」
「それは相手次第だなぁ?」
「・・・了解しました」
二者二様の反応を前に静希は呆れながら手に持ったコインを指で弾く
少し上に回転しながら打ち上げられたコインは重力に従い回転しながら地面へと落下していく
金属特有の音が響く瞬間二つの影は動き刃を叩きつけていた
二人の剣は互いに交錯しながら金属音をあたりに撒き散らしていく
時に空振り、時に打ち合い、時に防ぎ、時に鍔競り合う
それは試すなどという次元からかけ離れ、殺し合うといった方が正しいだろう
はたから見ればこれが何かの事件に見えるだろう
事情を知っている静希も携帯を取り出して警察に電話しそうになるほどだ
そして二人の技量差は雪奈の剣撃を見たことのある静希から見れば明らか
いや雪奈の能力を知っているからこそ見抜けたというべきかもしれない
剣を振るう速さ、技術、そしてそれを扱う身体の運びや動きと動体視力
どれをとっても雪奈の方が勝っている
当然だ、雪奈は剣を所持し能力を発動すればその剣を扱うのに最適の技術と身体能力を手に入れられるのだから
雪奈の振るう剣は鋭く速い
的確にオルビアの急所へと刃を走らせていく技巧、まさに一撃必殺
対してオルビアは雪奈の剣撃に対して的確な防御、剣と体捌きを使っての対応は流石の一言に尽きる
一見すればオルビアの防戦
だが剣の技術において全て勝っているはずの雪奈が攻めきれていない
時には逆に攻め込まれる場面もあった
無論雪奈が攻めている場面の方が圧倒的に多いが、いつまで打ち合っても決着がつかない
決定打にならない理由はオルビアにあった
剣での戦闘能力の総合値を大まかに表すなら雪奈が十、オルビアが八といったところだろう
その値から雪奈は攻撃六、防御四の割合で戦っており、逆にオルビアは攻撃一防御七の割合で戦っている
いかに相手が能力的に勝っていようと、オルビアは経験で勝る
荒々しく攻め立てる攻撃を冷静に見切り、針の穴を通すような僅かな隙に攻撃を繰り出す
雪奈がどれほど剣の技術を得ようと、それを操るのは雪奈自身
必ずと言っていいほどに癖や特徴が浮き彫りになる
見切れないスピードや反応しきれない攻撃をオルビアは自身の持つ経験により防御、回避する
能力で劣っているのは理解していた、それゆえにオルビアは足りない分は蓄積された経験で補っている
技術に勝る雪奈と経験で勝るオルビア
両者の戦闘は十分ほど続いたが、一向に決着はつかなかった
唐突に剣撃が止む
屋上に響いていた金属音が突然やんだことにより辺りには風の音しか聞こえなくなっていた
二人の様子を眺めていた静希も不思議そうにしているが、ほぼ同時に戦闘をやめた二人は互いに見つめあっていた
「どうした?二人とも」
思わず二人に話しかけると雪奈は剣を鞘にしまってため息をつく
誤字報告を受けましたので複数投稿
誤字を含めてこれから二話投稿できるかどうかのチェックを含めたつもりでしたが一発目から来るとは
これからもお楽しみいただければ幸いです




