騎士の鎧と服
「ところでさ先生、普通の霊装ってどれくらいで買えるんすか?」
「なんだ突然、普通の霊装だったらものにもよるが大体数千万~数億だな」
「あー・・・そっすか」
陽太がなにをがっかりしているのかは理解できる
静希がいれば今までインテリアとしてしか機能していない霊装を自由に使えるようになるかもしれないのだ、手に入れておいて損はないと思ったのだろう
だが『ただの霊装』でも億単位の金が必要となると静希達には手が出せない
逆に言えば、それをこのような形で入手できたのは、いや入手してしまったのは幸運と言えなくもない
無論厄介事が巻き起こりそうな匂いはぷんぷんするが
「今回の件についてはこのくらいにしておこう、以後気をつけるように」
全員がはーいと返事をして城島の部屋から逃げるように退出する
そして叱られていたという事実からクラスメイトや同級生からからかわれながら静希達はとりあえず静希と陽太に割り振られた部屋へと向かう
「にしてもとんでもないことになったわね、時価十億ですって」
「売ったら一生遊んで暮らせるかな」
「売るつもりはないぞ、旅は道連れ、金よりよっぽど役に立ってくれるさ」
静希にとって金はあくまで価値を表す為の記号でしかない
金その物に価値があるわけではなく、価値あるものを効率よく世に広めるために必要なものが金であると考えている
例え手元に十億もの大金が手に入ったところで静希は持て余すだけである
「まったく人間は何をするかわかったものじゃないわね、自ら霊装になるなんて正気の沙汰じゃあないわ」
いつものように静希に何の断りもなくトランプから脱出しベッドの上で寝転がるメフィ
それに続いて邪薙もトランプから出て床に胡坐をかく
二人が出てくるとさすがにこの部屋では手狭になる、二人部屋にしては広いとはいえこの空間に六人、しかもうち一人はかなりの大男?だ
「さて、せっかくだし改めての自己紹介でもしてもらおうか」
オルビアをトランプの中から取り出し身体を顕現させる
剣を持ってその場に現れたオルビアを囲んで静希達が適当に腰掛ける
「皆様、改めましてシズキ様の剣として契約を交わしました、オルビア・リーヴァスと申します、以後至らない点などあるかと思いますがどうぞよろしくお願いいたします」
金色の髪と整った容姿に似合わぬ鎧をまとったオルビアは深々と頭を下げる
「改めて、五十嵐静希だ、こっちのは響陽太、幹原明利、清水鏡花だ」
「よろしくな」
「よろしくお願いします」
「よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
全員の顔と名前を一致させるようにしっかりと姿かたちを認識してオルビアは四人から視線を外し残った二人に視線を映す
「後この二人?が悪魔メフィストフェレスと神格邪薙原山尊だ」
「よろしくね霊装オルビア」
「よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
全員の紹介が済んだところで静希は改めてオルビアの姿を見る
「なあ、お前のその鎧姿何とかならないのか?」
「・・・と申しますと」
オルビアの体は堅牢な鎧で覆われており、肌面積が少なく、非情に重苦しい印象を受ける
鞘に入れてある剣はまだいいのだが鎧姿だとさすがに異様だ
「確かに鎧じゃあなぁ・・・なんか着替えとかできないの?」
「着替えですか・・・鎧の着脱であれば可能だと思います」
そういいながら自らの鎧を外していく
鎧は外したとたんに光になって剣の中に収納されていく
どうやらオルビアの鎧も霊装オルビアの一部として認められているらしい
なんとも都合のいいことである
そして全ての鎧を外し終えるとなんとも飾りの少ない布の服を着たオルビアがそこにいた
昔ならではの服なのだろうか、薄肌色の技巧も何もないただの服といった印象を受ける
そして鎧姿からはあまりよくわからなかったがオルビアの体がよくわかる
非情に肉が少ないスレンダーな体つきだ、腕も足も細く、あれでよく鎧をつけて動けるものだと感心する
「うわぁ、これはまたなんとも・・・」
「?何か問題が?」
「問題ありすぎよ、女の子がこんな恰好なんて、もっとお洒落しなきゃ」
「ですが私は・・・」
女子として見ていられなかったのか鏡花はオルビアの体を触りながら眉間にしわを寄せる
「身長は私と同じくらいか・・・ねえ静希帰ったらオルビアに服買ってあげなさいよ」
「な!そのようなもの必要ありません!私はこのままでも」
「そうだな、雪姉の服で古いのがあれば譲ってもらって、ない分は買いに行くか」
「ま、マスターまで!?」
結構ノリノリの静希に対しオルビアは困惑しメフィはわずかに不機嫌そうにしていた
「ちょっとシズキ?私には何の服も買ってくれなかったのにこの子には買ってあげるの?不公平じゃない?」
「お前、この前俺が服着せようとした時『肌面積が少なくなるからいや!』って断ったじゃねえか」
「それはそれこれはこれよ!」
なんとも理不尽な怒りに晒されながら静希は頭を抱えてしまう
もっとも、自分の家でこんな服を着ていられたらさすがに不憫に思ってしまう
服を買うまたはあてがうというのはすでに決定事項となっていた