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J/53  作者: 池金啓太
四話「異国の置き去りの時間」

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死人に口なし、されど遺志あり

「あーあ、また面倒なの引き入れちゃったわね」


「悪魔に神様に、今度は霊装か、妙なもんばっか増えてるな」


「ふふ、これから大変そうだね」


「まったくだ、まあでも前の二人に比べりゃ何てことはないだろ」


悪魔、神格、その二つに比べればオルビアは何てことはない、何せもともと人間だったのだから


『あらシズキ、私というものがありながら新しい女を作るなんて、罪な男ね』


『なんにせよ、この悪魔と同列に扱われるのは少々傷つくぞ』


『おぉ、こうしてマスターと会話もできるのですね』


新しい人外に悪魔と神格が反応しながら、新入り人外の剣オルビアは意外と快適らしい静希の能力、トランプの中に早くも順応していた


『メフィ、邪薙、とりあえず仲良くしろよ、変なこと吹きこまないようにな、喧嘩もするなよ?特にメフィ』


『あら失礼ね、妾の一人や二人で怒る私じゃないわ』


『問題ない、シズキに仕えるのであれば、我らの同僚ということになるのだろう』


『よろしくお願いいたします』


どうやらある程度のコミュニケーションはとれるようだ


言葉自体も飛び越えることができるらしく、静希からすれば十分にとんでもない存在だがまぁ仲間が一人増えただけだ


本当にミスター人外保管庫になりそうで嫌だった


静希達が上に出ると教会の一角でたき火をしながらハワード達が待っていた


「ずいぶん遅かったね、一体何をしていたんだい?」


すぐにハワードが言葉を放つとその違和感に気付く


先ほどまで明利の通訳なしでは理解できなかった言葉の意味や意志が理解できる


静希が不思議がっているとオルビアが声を出す


『勝手ながら、マスターがこの地の言語を習得していないようでしたので翻訳させていただきました』


『すごいなお前、何でもできるのか』


『いいえ、その場に私がいれば翻訳可能です、私が聞いた言葉をマスターとのリンクを通し伝えているだけそしてマスターを介して意志を飛ばす程度しかできないようです』


『俺の近くじゃないと発動しないってわけね、それお前自身の力?それとも霊装の力?』


『後者だと思われます』


『だいたいリンクってなんだよ、そんなもの作った覚えないぞ』


勝手にそんなものを作られていたことに驚いていると今度はメフィが声を上げる


『霊装ってのは使用者、大気中あるいは所有者の魔素を消費して能力を発揮するのよ、いわばシズキがオルビアの所有者になったっていう証みたいなものね』


『そうかい、でもよく気づいたな』


『マスターたちの言葉も私にとっては異国語です、対話の仕方のちょっとした応用のようなものです』


そういえばオルビアは生粋の英語圏出身の人だった


普通に会話できているからすっかり忘れていた


どうやら言語を越えた意志疎通はある程度なら可能なのだろう


『わかった、でもここでは俺の意志まで向こうに伝える必要はない、いきなり言葉がわかるようになったら不審がられる』


『かしこまりました』


こりゃ相当有能だなと静希は苦笑しながらハワード達の元へ向かう


相変わらずメフィの言葉はわかりやすいんだかわかりにくいんだかわからない


さてこの珍事、どのように説明したものか


「ちょっとね、昔の珍しい武器があって回収してたの、ね」


「あぁ、土産にしようと思ってな」


静希が長考していると鏡花と陽太が何とはなしに説明してしまった


間違いではないのだが、土産もの扱いはさすがにひどいのではないのだろうか


「へえ、どんな武器?投石機でもあったの?」


「いや剣だった、日本じゃ珍しいから驚いたよ」


ここは話を合わせておいた方がよさそうだ、霊装を発見して入手したなど言ったらどんな反応をされるか分からない


ここは適当に濁して嵐が過ぎ次第ホテルに戻り城島に確認を取らねば


「にしても疲れたわ、今日はもう休まない?」


「それもそうだな、防寒具も手に入ったしな」


布をかざしながら得意げにしているマーカスたちに従って静希達は床に就くことにした


それぞれ長椅子に横たわって寝ることになり、全員の寝息が嵐の音にかき消されていた


『マスター、一つよろしいでしょうか?』


『ん?どうした?』


静希がまどろみの中で船をこいでいる中、オルビアが声を出し、静希を覚醒させた


『申し訳ありません、この場所に死体はありませんでしたか?』


『死体?・・・あぁそういえば鎧を着た、槍を持った骸骨』


『それを見せていただけませんか!?』


突然声を大きくしたオルビアに驚きながらも静希は理解した


槍を持った、最後まで自分の近くにいた、この地を封じるといった副官


静希は皆を起こさないように静かに死体のそばまで行きかぶせてあった布を剥ぐ


古びた鎧を着た骸骨は


トランプからオルビアを取り出し、目の前の死体を見せる


「・・・あぁ・・・できるのなら・・・このような形で再会など・・・したくはなかった」


オルビアは骸骨に頬に触れ震えた声で語りかける


オルビアに反応してか、それともオルビア自身が能力を使ったのか、骸骨の持つ槍が淡く輝き人の形を作っていく


それはオルビアが記憶の中に留めている、かつてともに歩んだ副官の姿その物


『隊長、貴女とともに生きていけたことを誇りに思う、この地とともに眠る私を許してほしい・・・』


「ソフィア・・・私は・・・」


ソフィア、そう呼ばれた女性はまるでオルビアと対話しているかのようにその場でほほ笑む


『貴女はこれから私達の声を聞いてほしい、私たちがどれだけ救われたかを分かってほしい、だから貴女には生きてほしい』


ソフィアの言葉には迷いがなく、そして淀みもない、心の底からはなっている言葉のように聞こえた


『・・・オルビア、大好きだ』


最後に笑みを残してその姿とともに武具を包んでいた光も消え、骸骨のあちこちにひびが入っていき、崩れていく


その瞬間、何かが割れるような音とともに辺りを静寂が包む


先ほどまで吹き荒れていた嵐が止み、雨も風も完全になりを潜めていた


驚いて少しだけ扉を開けて外を見ると空を覆っていた雲が徐々に引き裂かれ、星空さえ見えていた


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