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J/53  作者: 池金啓太
四話「異国の置き去りの時間」

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オルビア・リーヴァス

全てを話し終えたオルビアはため息をつきながら静希達を見る


「そうして私は魔術を使った際、自由に動くことの叶わない身体となり、この場でずっと待っておりました、私を自由にして下さる方を、私の心残りを・・・最後の声を聞かせてくれる方を」


自分のせいで死んだかもしれない部下の言葉、辞世の句を残せるように残した能力


それは未練とも言えるだろう


遺品を探すために永久に意識を保存したはいいものの、その代わりに自由に歩くための身体を失ってしまった


永遠に解けないかもしれない未練の渦の中でオルビアはずっと待っていたのだろう


「どんな形で保存されるか分からない、意識を永久に保存する反動で霊装になっちまったってことか・・・」


そしてこの教会内部がほとんど使用可能な状態で残されていたのも、オルビアの能力が未だ効力を残しているから


それだけでオルビアが能力者として優秀であったことがうかがえる


「はい、その通りです、こうして身体を形にすることはできても、ここから一歩たりとも動けない・・・なんとももどかしい限りです・・・」


意識はある、なのに一歩も動けずこの暗闇の中で過ごしていたのだと思うと静希はぞっとする


自分なら数日と持たずに発狂するだろうという自信があった


「なあ鏡花、霊装って誰か特別な人しか持てないのか?」


「ん・・・使用者・・・っていうか制作者以外持てないって書いてあった気がする・・・でもこの場合・・・製作者は彼女なわけでしょ?そうすると・・・」


製作者自身が霊装となってしまっては、誰も持つことはできない可能性がある


だがオルビア自身そのことに気付きかけていたのだろう、諦めを含んだような、微妙な笑みを浮かべている


「ヘイシズキ!いつまで地下にいるんだい?ちょいと古いが布を見つけてきたぜ!」


突然地下に響いた声に全員が驚く


どうやらハワード達はうまいこと目的の物を見つけたようだ


「悪い!もうちょっと待っててくれ」


「そうかい?なら裁縫道具持ってないかな?縫い合わせれば寒さも防げそうなんだ」


「あぁ!ちょっと待っててくれ・・・」


静希がトランプから裁縫道具をハワードの元に出すと、静希はその場で思考を巡らせた


触れられない霊装、それと静希のトランプ


「オルビア、お前の本体はその剣なんだな?」


「はい、私の意識もこの剣に封じ込められています」


「この剣、重さはあるか?」


「・・・わかりません、この状態になってから自分でも重さなどあるのか・・・」


静希の問答に一班の全員が気付く


「ちょっと静希、あんたまさか」


「試すだけだ、万が一もあるかもだろ」


静希はトランプを取り出す、幾重にも飛翔するトランプがあたりを埋めつくす


「オルビア、もしかしたらお前を運ぶことができるかもしれない」


「それは本当ですか!?ですがどうやって・・・?」


「俺の能力、このトランプの中にお前を収納する、でもあくまで『かもしれない』だ、確証はないし、できないかもしれない、でももしお前が入るとしたら、どれがいい?」


オルビアの前に出されたのはスペードのJとK、今のところ欠番となっているジョーカーを含めた静希の空席だった


「でしたらジャック・・・兵士のカードに・・・私は仕えるものです、王ではありません」


「オーケー、それじゃ行くぞ」


オルビアは人の姿を消し、静希にすべてをゆだねた


触れられない剣、静希のトランプの中に入れられるかは分からない


静希はスペードのJを持ちながらゆっくりと柄からオルビアの宿る剣に向けて能力を発動していく


白銀の剣は抵抗なくトランプの中に収納されていく


地面ギリギリのところにあった刃までしっかりとスペードのJに収納されていった


その後の反応はない、どうやらしっかりと収納されたようだった


そして今度はそのトランプの中からオルビアを取り出す


剣は柄からゆっくりと出てくる


思わず静希が手に取った瞬間、剣は透過せず、実体としてつかむことができた


ゆっくりと引き抜くその剣、軽い、重さがないかのように軽く、手によく馴染んだ


確認として陽太や鏡花も触れてみるが、全員が触れることができる


一体どうなっているのか、不思議がっているとオルビアが片膝を立て静希に首を垂れた状態で姿を現した


「なんと、何と言葉を述べて良いやらわかりません・・・感謝申し上げます・・・!」


大げさに、いや大げさではないのだろう、オルビアは声を震わせながら一身に頭を下げていた


何百年もの間暗闇の中で一人でただ存在しているだけだった彼女にとって、静希のしたことは何に代えることもできない程だっただろう


オルビアは数秒何かを考えるようにうつむき、顔を上げる


「シズキ様、できるのでしたら私を貴方様の剣としてお傍に置いては頂けないでしょうか」


「え、いやそれはいいけど、部下の遺品を集めるなら俺じゃなくて他の人の方がいいんじゃ・・・」


オルビアの未練の根源たる部下の最期の言葉を聞くためならばこの国の人とともにいた方がいい気がするのだが、オルビアは首を横に振る


「永遠にも思えた暗闇と孤独から私を見つけ、自由も利かぬこの身に再び自由に動くことのできるようにして頂いたこのご恩、返さずして何が騎士でしょうか、どうか私を貴方の剣に・・・!」


深々と頭を下げるオルビアに静希は戸惑って全員を見渡す


「あんたがやっちゃったんだから、責任取りなさいよね」


「いいじゃんか、新しく武器が手に入ったと思えば」


「オルビアさんいい人そうだし、良いんじゃないかな」


満場一致だった


すでに異常な状況に耐性のできてしまったこの一班の人間にこれからの行動など最早決まってしまっているのだ


「わかったよオルビア、俺についてきてくれ、ただし様付けはやめろよ、むずむずする」


「かしこまりました、ではマスターと」


「・・・それもむずむずするけど・・・もういいや・・・」


了承するとオルビアは自らの胸に手を当て再度頭を下げる


「この身は新たなる主、イガラシ・シズキ様の為に」


剣の中に光となってオルビアの体が消えていく


どうやら剣の中に戻ったらしい


静希はトランプの中にオルビアを収納した


誤字の報告を受けたの及び投稿遅くなったのでお詫びに複数投稿


今回報告にあった内容は諸般の事情により編集しないことにしました


これからもお楽しみいただければ幸いです

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