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J/53  作者: 池金啓太
四話「異国の置き去りの時間」

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騎士オルビア

剣を地面へと向けた金髪の女性に静希は目を丸くする


鋭い目に整った顔立ち、金色の髪に澄んだ青い瞳、美しいと表現するに何のためらいも持たない程の美女である


だが静希の反応は嬉しさなどからはかけ離れたものだ


「これは夢か?それともまた面倒事か?」


自分の頬をつねりながら静希はひきつった笑いを浮かべる


もしこの目の前の女性が悪魔や神格の類なら面倒事確定、もしこれが夢ならきっと寝ざめは最悪だろう


「名乗りなさい、貴方は何者ですか?」


繰り返すようにつぶやくその女性は青い瞳から静希に真直ぐ視線を注ぎながら回答を待っている


「俺は五十嵐静希、日本の喜吉学園の生徒だ」


「・・・何の目的でここへ?」


どうやらこの女性は戦いではなくただ問答をする構えのようだ


少なくともこちらの目的が相手方の敵意を刺激しない限り戦闘は避けられそうだ


「船で移動してる時に嵐が来たんだ、それで一時的にこの島に避難して、雨宿りの為にここに来た、それで毛布を探してる時床をぶち抜いて、今に至る」


「その言葉に偽りはありませんね」


「ない、もしなんなら他の連中に聞いてもいいぞ、もうすぐ来るだろうしな」


「・・・えぇ、そうしましょう」


女性は少し安堵したような表情を浮かべて目を瞑る


大きな音がするのと同時にはしごの先が開き、陽太が降りてくる


「大丈夫かよ静希、って誰だその人」


「ちょっと、また面倒事なわけ?勘弁してよね」


「わぁ、綺麗な人」


一班の人間がぞろぞろとやってくる中、その顔は微妙に警戒の色を持っていた


この封鎖された場所で、しかもわずかに光を帯びた鎧姿の女性が剣を持ってたたずんでいれば嫌でも警戒するだろう


「えと、言葉は通じるの?」


「みたいだ、どんなとんでも現象かは知らないけどな・・・ハワード達は?」


「上の調査、この空間に八人は入らないだろ」


確かにこの狭い部屋に八人は多すぎる、あちらもあちらで行動してくれているようだし、こちらも何とかしなくては


「では同じ問いを、貴方達は何故ここに来たのですか?」


「え?何どういうこと?」


「俺らがなんでここに来たのか知りたいんだと」


特に理解も納得もしていないが、鏡花、陽太、明利は自分たちがどのような状況に立たされているかを大雑把に目の前の女性に話した


「なるほど、先の話に嘘はなかったのですね」


「嘘ついてもしょうがないしな・・・で、こっちもいいか?あんたいったい何なんだ?」


誰なんだではなく、何なんだと聞くところに静希の疑念が含まれた


「すでにお気づきでしょう、私は人ではありません、いえ、人ではなくなったといった方が正しいでしょう」


その言葉に全員が眉をひそめる


「我が名はオルビア・リーヴァス、かの公国に仕えた騎士・・・でした」


「さっきから妙に過去形引きずるな、人でなくなったとか騎士だったとか」


陽太の言葉にオルビアと名乗る女性はわずかに視線を落とす


「その質問に答えるにはまだ聞かなくてはならないことがあります、貴方達の中で私に触れることのできる方はいらっしゃいますか?」


その質問に全員が視線を交わす、静希は先ほど触れられなかったことは確認済みだ


だが他の三人がどうかはわからない


とりあえず全員がオルビアに触れようとするが、結局誰も触れることはできなかった


「そう・・・ですか・・・」


「結局今のは何がしたかったんだ?」


明らかに落胆するオルビアに静希が問いかけると、青い瞳を静希に向け、語りだす


「先も言いましたが、私はもはや人間ではありません、私は、私をこの場から出してくれる方を待っているのです」


「待ってるって・・・あんたいったい何時からここにいるんだ?」


「さあ、ここでは時間の感覚などありません、あの時より何年たったのか、見当もつきません」


儚げに静希の開けた穴を見てオルビアはため息をついた


この島自体人が来なくなってからかなりの時間がたっていることは明白


そしてこの恰好から見て彼女は相当昔、少なくとも中世に生きたものだとわかる


「あの、貴女はゆ、幽霊なんですか?」


「いえ、私は幽霊ではないと思われます、私は恐らく、霊装になっているのだと・・・」


「霊装?」


聞き慣れない単語に静希が首をかしげる


陽太と明利に視線を向けるが二人とも知らないようで首を横に振る


「確か、強大な能力者が、能力を物や道具に宿らせてできる、能力を発動できる物質のこと、だったかしら」


「おぉ、そんなものなのか」


鏡花が知っていた霊装の知識、何とはなしに静希は理解したが、だったらなおさらおかしいのではないのだろうか


「霊装って、オルビアみたいにしゃべるのか?」


「いや、私もそこまで詳しくないからわからないわよ、能力を発動できる道具ってことくらいしか・・・」


「私は他の霊装とは異なる存在でしょう、自分でもその特異さに気付いています」


オルビアの言葉に静希は混乱のせいでなにがなにやらわからなくなっていた


「ちょっと待ってくれよ、じゃあなんであんたはこうして喋れてるんだ?なんであんたは霊装?になったんだ?」


未だ霊装という道具の存在が理解できないのか陽太はがむしゃらに質問をぶつける


こういう時にこの真直ぐな性格はうらやましく感じた


「・・・私は後世に私の意志を残すために、私自身に魔術を行使したのです」


魔術という言葉に全員が理解した


このオルビアという騎士はまだ能力が魔術と呼ばれていたころの人間であるということを


「それってどういうこと?自分に魔術を行使って・・・」


この中の能力で言えば明利が一番例えやすいだろう


自分自身に同調と治癒の力を使った


だがそれだけで明利が霊装になるなどあり得ない


「あんたの能力・・・魔術は一体何なんだ?」


「・・・私の魔術は保存・・・物や生き物をその状態で維持できるのです、ただその代償にどのような形で保存されるかは分からないのですが」


保存、静希の持つ収納系統の内部に宿る物質をその状態で維持する力を、彼女は何かに入れることなく選択し行使できるのだろう


「聞いといてなんだけどいいのか?そんなにぺらぺらと自分の力を話して」


能力者にとって自分の能力を話すというのは文字通り自分の手の内を明かすことに等しい


自分の力がばれれば対策も簡単に講じられてしまう


だがオルビアの反応は余裕に満ちたものがあった


「ふふ、貴方達が戦闘の意志がないことは十分理解できます、それに随分と久しぶりに人と会話したのです、口が軽くなってしまっても仕方がないことでしょう」


久しぶり


その言葉は一体どれだけの時間を集約したものだろうか


確実に数百年単位でこの騎士はこの場に、この暗闇に捕らえられてきたはずだ


「でも、どうして自分に力を使ったんですか?」


「・・・それを話すには、少し長話になるかもしれませんが、よろしいですか?」


ここまで来てなにも聞かないというのはさすがに精神衛生上良くない


全員でうなずくと、オルビアは思い出すように視線を上げた


「私はある国で、騎士として仕えておりました、恐らく貴方達の知らない国でしょう、幼き頃、我が主に拾われ、騎士として育てられ、一軍を任されるまでになっておりました」


騎士ということは中世の時代、静希達が生まれるはるか昔、存在すらなかった頃の話である


「ある日、戦乱の中我が主に逆賊の汚名が着せられたのです」


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