暗闇の中の剣
「おぉ!美味いよシズキ!メーリ!クセになりそうな味だ」
ハワード達が絶賛する中、静希達も猪の肉に舌鼓を打っていた
どうやら奇形種でも基本的な肉の質が落ちるというわけではないようだ
独特の香りがあるがその香りもなかなかのスパイスと割り切れば美味いもの、明利が用意してくれた紫蘇もうまい具合に香り付けしてくれておりなかなかおつなものだ
「まともなものにはありつけないと思ってたけど、何とかなるものね・・・マーカス、食べないの?」
「あの状況に一緒にいたことを呪うよ、美味しいんだが、あの二人の笑みが忘れられないんだ」
当の本人達は猪の肉を美味しそうに食べているのにも関わらず自分が食べられていないことにマーカスは若干情けなさを感じながら少しずつ料理を口に含んでいく
「そういえばこのフライパンってどうやって作ったんだ?構造変換できるだけの魔素なかっただろ?」
使用済みのフライパンを手に取りながら静希は肉をかみちぎる
不格好ではあるがしっかりと取っ手までついており使用しやすいように工夫されている
「そこら辺の金属の寄せ集めよ、昔の建物だけあって無駄に金属使ってるから集めるのは簡単だったわ」
辺りを見回すと確かにいくつかの壁の装飾や手すりの一部などが欠損している
どうやらあれらを使ってこのフライパンや皿をつくったらしい
食事を終えた静希達は嵐が過ぎるのを待っているのだが、一向に風も雨も収まる気配はない
時間は二十一時を回ったところだった
気温が下がっているのに加えて雨露のせいで冷気が外から侵入してくるのがわかる
「このまま寝るのはちょっとつらいわね・・・」
「毛布とかあればいいんだけど、さすがになぁ・・・」
静希が近場の祭壇を探しても特に何も見つからない
「こういう場所ってさ、地下とか屋根裏とかないのかな、ほらゲームだとあるじゃない」
「あー・・・ないとは言い切れないな・・・ちょっと探してみるか」
静希がナイフを何本か石の隙間に突き立ててその場で何度もジャンプする
床はしっかりと亀裂をつくっているがそれ以上の変化はしない
何度も何度も跳んでみても意味はなさそうだった
「地下はないかもな、んじゃ屋根裏捜しにいっちょいくかあぁぁぁ!?」
最後に椅子の上から地面に飛び降りた瞬間床が抜け、静希は暗闇の中に落ちて行った
「ちょっ!静希!?大丈夫か!?」
「静希君!」
幼馴染二人が静希の落ちた穴に駆け寄るが、下は真っ暗で何も見えない
「っつ~・・・なんだよちくしょう・・・地下があるならあるって書いとけってんだ・・・!」
突然の崩落に驚きながらあたりを見回すがなにも見えない、見えるのは静希が落ちた穴から陽太と明利が覗きこんでいることだけだ
「静希、平気なの?」
「ああ、なんとか、明かりを落としてくれないか?蝋燭でも何でもいいから」
一階にトランプを顕現させてそこからワイヤーを取り出すと鏡花達は壁に取り付けられている蝋燭を一つ燭台ごとくくりつけて静希に渡す
ようやく明るくなった、すると静希はあることに気付く
四畳半程度の小さな小部屋に、それはあった
なにもない場所に立っている、一本の剣
それは地面に突き刺さっているわけではなく、何かに支えられているわけでもないのに、刃を地面に向けた状態で静止している
長い柄と装飾の少ない鍔、そして蝋燭の光を反射する美しい刃、そのすべてが銀色に輝き静希の目を奪った
バスタードソードと呼ばれる両手、片手、どちらでも使うことのできる西洋の剣
「なんだこれ・・・どうやって立ってるんだ?」
静希が近くに行って触ろうとするが、剣はその手に触れることなく通過してしまう
触れることのできない剣、一体なんだろう
「おい静希!あがってこれないのかよ!?」
「あ、悪い!ちょっと待ってくれ」
全員を上に待たせたままだったと思いだし、静希はあたりを探索する
するとちょうど祭壇の真下に位置するあたりにはしごのようなものがあることに気付く
「陽太!祭壇を調べてくれ!動かしたりすりゃ多分入口があると思う!」
「オーライだ、ちょっと待ってろ」
とりあえず脱出はできそうだと安堵しながら、静希は触れられない剣に視線を移す
一体この剣はなんなのだろうか、確かにここにあるはずなのに触れられない
ここにあるという認識と、存在感を確かに感じる、だが触れることができない
「名乗りなさい・・・貴方は何者ですか?」
突然どこかからか声がする
その声は高く、女性のものだとわかるが周囲に人の気配はなく、もちろん誰もいない
「誰だ!?どこにいる!?」
「ここにいます、貴方の目の前に」
耳ではなく、頭に直接届くような声に静希は警戒の色を強くする
そしてあたりを見回して、剣にわずかな変化が起きていることに気付く
わずかに輝く白い光を帯び、その光が少しずつ形を変化させ、やがて鎧を着た女性の姿へと変貌する