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J/53  作者: 池金啓太
四話「異国の置き去りの時間」

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弱肉強食

「おい静希!大丈夫かよ」


「あぁ、何とかな、ナイフ全部使っちまったよ」


辺りに落ちたり猪の身体に刺さったナイフを回収しながら静希は悪態をつきながら猪にとどめを刺す


制服が血に汚れ、同じく血にまみれたナイフを持つその姿はちょっとした犯罪者に見えなくもない


だがやらなければやられていたのだ、弱肉強食、ためらえばそれが命取りになる


「いきなり囮に使いやがって、失敗したらどうするつもりだったんだよ」


「そんときゃそんときで何とかしただろ?」


ほぼ何の打ち合わせもしていないのにとっさにこのコンビネーションを出せるあたりさすがの付き合いの長さというべきだろう


「それにしても、随分とあっさり殺したね・・・その・・・動物愛護とかは・・・」


「こっちが殺されそうな時に動物愛護だのなんだの言ってられるか、時と場合を考えないとこいつみたいになるぞ」


ハワードのいう動物愛護も確かに重要だが、今この場では自分の命優先である


何事も自分の命があってから考えるべきで、それ以上のことを望めばおのずと自分の命も危険にさらす


自分の命をかけるのにこの動物への愛護は割に合わない


「静希、この奇形種どうするの?」


「放っておけば動物達が食べるだろ、地面に埋めても栄養になる、何したって問題はない、今は時間が惜しいから放置だ」


動物の死体とは良くも悪くも有効活用される


屍を食べるもの、屍に寄生するもの、動物の死骸は多くの生き物にとって重宝される


もちろん植物にとっても貴重な栄養だ、土に還れば、その肉体に詰まった栄養はそのまま植物の栄養へと還元される


日本勢はわずかに手を合わせて、イギリス勢は胸の近くで十字をきりその場を後にする


「距離的には後どれくらいだ?」


「数分くらいかな、それまでなにもないといいけど」


「確かに・・・あれと同じか、それ以上のやつが出たらもう倒せないぞ・・・」


ナイフを使いきった今、静希の攻撃力は実質ゼロに等しい


手持ちの攻撃手段はすでにかなり切羽詰まっており、先ほどのような高密度のナイフ投擲射出はすでに使用不能、酸素水素による陽太へのコンビネーションも能力をほとんど使えない状態ではチャンスは一度、まさに絶体絶命である


とりあえず所持していたナイフを全員に渡し武装して周囲に警戒しながら進む


どれほど経っただろうか、雨と風により木の葉が揺らめいて騒音を奏でる中、明利の表情が強張る


それと同時に全員に緊張が走った


明利にいわれなくともわかる、ちょうど自分たちが通り過ぎた道、そこに隣接する森から草木を掻き分けながら歩いてくる音が聞こえるのだ


「みんな、走った方がいいかも・・・」


「・・・もう確認する必要はなさそうだな」


「GO!GO!GO!」


ハワードの掛け声とともに全員が走りだす


全員の走る音に反応したのか森の中から奇妙な形の生き物が現れる


顔は猪だ、胴体も同じように猪の身体をしている


四本の足も問題なく猪の身体だ


だがその腹部のあたりから脚がまた数本生えている


しかも普通の四足よりも妙に長い、しかもしっかりと動いておりそのせいで上手く走れないようでまるでホラーのように身体を上下させながらこちらへと走ってくる


わさわさという擬音が一番似合うだろうか


複数の足を駆動させながら不格好ながらに全力で静希達を追いかけてくる


「なんだよあれ!キモ過ぎるだろ!あれ猪か!?タコじゃないのか!?」


「なにあれもういや!なんでこんなに奇形種が多いのよ!」


「何でもいいから走れ!」


全員が無我夢中で走る中、先頭を走っている陽太が前方に建物らしきものを見つける


「なんか建物あるぞ!あそこに逃げ込むか!?」


「そうしよう!このままじゃケツに穴がもう一個増えかねない!」


全速力で走っていても速度は奇形種とほぼ同等、妙に長い脚が本来の動きを阻害して普通の猪よりもだいぶ足が遅いがそれでも動物、人間より足が速いことに変わりはない


わずかに明利が遅れ始める、無理もない、先ほどから走ってばかりだ


今は何とかついてきてるが建物まで持つか分からない上に奇形種に追いつかれる可能性がある


こういうとき相手が能力を使わないのはありがたいが、能力が使えないのはこちらも同じ


同じ能力の使えない同士となれば動物の方が強いのは小学生でもわかる


今静希と明利が能力を使えても、凶悪な筋力と牙を持つ猪を前に戦えるかと言えばそれは無理の一言


こうなれば賭けに出るしかなかった


「陽太!先に行って建物の入り口少し開けておけ!全員が入ったらすぐに閉められる様にしておくんだ!」


「んなこと言ったって、開いてなかったらどうするつもりだよ!」


「何とかしてこじ開けろ!」


無茶を言っているのは静希も分かっている、だがそうでもしないと動物相手に立ちまわるのは不可能だ


どこかに避難してあれが立ち去るのを待つしかない


陽太は意を決して全力で建物へと走っていく


マーカスもそれを察して即座に陽太に並走する


静希は少し遅れ気味の明利に並走し先ほど回収したナイフを取り出す


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