枯渇と閃き
「鏡花、お前は少しずつでいいから船の固定作業をしててくれ、陽太、お前は能力を使わず鏡花が万一にも流されないよう見張っててくれ、使用魔素は全部鏡花に回す」
微量な魔素しか使えないとはいえ鏡花の変換能力は強力だ
時間さえかければ多少の能力使用は問題ないだろう
「わかったわ」
「了解」
静希は船の上に戻り状況を確認しだす
「シズキ、いいだろうか」
ハワードが船内に戻ってきた静希に話しかける
「あぁ、わかってるよ、この船にいたら風邪ひいちまう、どこか雨風しのげる場所を作るか探すかしないと」
「窓直せばここにいても大丈夫なんじゃ・・・」
「この揺れる中で長い間集中し続けて直しても、揺れっぱなしじゃ確実に酔う、どこか別の場所を探した方がいい」
「賛成だ、現状能力を使えるのはうちのローラ、シズキ、メーリだけみたいだね」
「あぁ、魔素の使用量の多い奴はまともに使えないみたいだな」
静希達の使う能力は空気中の魔素を体内に取り込んで発動する
その場合能力にも魔素の消費量というものがあり、消費量を十段階で分けるとすると陽太が六~十、鏡花が一~十、明利が二~三、静希が一
この中で能力使用可能なのが静希と明利ということは少なくとも魔素消費の少ない人物は能力が使用できるレベルの魔素濃度ということなのだ
恐らくハワード達も魔素の消費度が高い部類なのだろう
能力が強ければ強いほどに必要とする魔素が多い分、こういった状況では非常に痛手だ
「通訳の二人が能力使えるってのはありがたいな、とにかく島の内部に何かないか散策しないとな」
「了解、全員行動開始だ、動け動け」
船の中にあった装備をひとしきり持ちだして全員で船を降りる
すると地面に手をつきながら鏡花が肩で息をしているのが見える
「どうだ!?固定できたか?」
「ふざ・・・けない・・・でよ・・・船尾に引っかかるように・・・壁作るので・・・精一杯よ・・・」
どうやら相当無理して能力を使ったようだ
今まで自由自在に能力を使えていたところに突然この枯渇する魔素だ、普通の人間で表現するなら突然酸素を薄くされた状況に等しい
今まで普通にできていた運動が突然できなくなる、身体がいうことをきかない、まさに今の状況はそれに等しかった
「移動するぞ、島を散策がてら雨宿りできる場所を探す」
「お、おーらい・・・」
相当疲れているようで静希は苦笑しながら装備を背負う
「なんとか地形だけでもわかればいいんだけど・・・ローラは同調して地形把握とかできないのか?」
「残念だけど私はマーキングしないと能力使えない上に動物限定なの、ごめんなさいね」
となると現状把握しかなさそうだ
明利も直接触れてマーキングしなくては能力での把握索敵は使えない
なにがあるかもわからない場所に散策というのは必要以上のリスクがあるのだが
「なぁ鏡花、ちょっと能力使うくらいならできるんだよな」
「できるけど、どうするってのよ」
「明利、今種持ってるか?マーキングしてある奴」
「もってるけど・・・どうするの?」
陽太が種を受け取り近くから小石を拾ってくる
「こいつの中にこの種を埋め込んで投げれば遠くでも索敵できねえかなって」
鏡花と静希が口を開けている中、陽太だけ真面目に考察する
「それだ!陽太なんだよお前!馬鹿だと思ってたけど案外頭が悪くなくもなかったのか!?」
「意外だわ!そういうの気付くのは静希だと思ってたのに!ずっと馬鹿だと思っててごめんなさいね陽太でかしたわよ!」
「な、なんだよ、褒めるなよ、照れるじゃねえか」
若干褒められていないことに気付きもしないで気を良くする中、鏡花は明利のマーキング済みの種を小石の中に埋め込んでいく
ほんのわずかしか能力は使えなくともようは使い方次第
合計十二個の種を石に詰め込み後は投擲するのみ
「マーカス、君はどれくらい能力を使える?」
「正直ほんのちょっとだな、数秒も使えない」
「数秒あれば十分だ、この石をあたりまんべんなく投げてほしい、できる限り遠くがいい」
マーカスは事情も聞かずわずかな能力を発動して石をあたりの森めがけ投げていく
そして数秒経った後、明利は手を組んで集中しだす
「ずいぶん広く、森が広がってる・・・動物もいるみたい・・・あれ?」
「どうした?」
「道がある、獣道とはちょっと違う・・・」
そのことを全員に伝えるとハワード達もうなずいて行動開始することになる
「よし、まずはその道を目指そう」




