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J/53  作者: 池金啓太
二話「任務と村とスペードのクイーン」

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初めての始まり

今回から二話スタート


ようやく本編です


お楽しみいただければ幸いです

この世界には能力者がいる


個々によって異なる独自性のある特殊能力を行使する、異能の力を持つ生き物たちがいる


場所は日本、能力者専門学校喜吉学園


関東中部に位置するこの学園は広大な敷地を持ち、通常程度の大きさの校舎と、他の学校とは比べ物にならない大きさの演習場を有する能力者育成教育機関である


そしてその一年B組、窓際の列の後ろから二番目の席に座る少年五十嵐静希、彼ももちろん能力者である

収納系統に属する能力者で能力名「歪む切札」、トランプの形状をした物体を作り出し、その中に質量五百グラム以下の物を収納しておく能力、カードはジョーカー一枚を含む五十三枚、総量二十六・五キロの質量の物質を収納しておける計算となる


その横の席に座る小柄な少女、名を幹原明利、同調系統に属する能力者、能力名「慈愛の種」周囲の生き物、植物などと同調することで周囲の状況を把握できる、そして強化の能力を含む能力を有しており、同調と同時併用することで傷の治療や植物を急成長させることも可能となる


そして明利の後ろに座る茶髪の少年、響陽太、発現系統能力者(仮)専門家の中でも彼の能力が発現系統なのか強化系統なのか意見が割れている、能力名「藍炎鬼炎」自分の周囲に炎を発生させ、その炎の総量に比例して身体能力を強化する能力である


B組の教室には彼らのほかにも何人も生徒が残っているが、ちらほらと空席があり、教師の姿もない、そして静希の後ろの席にいるはずの清水鏡花の姿もない


教室内は妙な違和感と焦燥感が漂っており、普段の教室とは何かが違うことをありありと物語っていた


教室の扉が勢いよく開いた時、クラス中の全員が扉に注目するそして数名の生徒とこのクラスの担任城島が入ってくる


「えー、今度実施される校外実習の内容をまとめた資料を班長に渡してある、各班各自内容を頭に入れ、全力で臨むように、では解散」


一気に周囲がどよめく中、静希たちの下に鋭い目をした少女がやってくる


清水鏡花、変換系統の能力者、能力名「万華鏡」自身の周囲の物質をあらゆるものに変換する構造変換を使用できる類稀なる変換能力者、集中力が必要ではあるが、形状変換、状態変換、構造変換全てを操る力を持つ、わずかではあるが周囲の物質に対して同調を行い、その構造やその周囲を知ることができる


静希たちの所属する一班の班長である


以前行われた複数戦闘の演習が行われ、班が決定してから二週間が経過した


四月も半ばを過ぎ、あっという間に後半戦へと向かう中、生徒たちにとって初めての校外実習が行われることになった


校外実習は中等部では行われない、高等部からの科目となる、中学生という多感な時期に外に出しては何が起こるか分からないというのが教育委員会からの申し出らしい


よって彼ら能力者学生は初めて実習という形で能力使用を目的に校外に向かうことになる、今回はその実習内容、つまりは任務を各班班長に教師から言い渡されていたのである


任務は基本的に一般人から能力者に関する依頼が能力管制委員会という機関に寄せられ、その中で特に簡単なもの、特殊な事情から正規の能力所持部隊ではこなせないものなどがこうして喜吉学園のような能力専門学校に送られてくるのである


初めての校外実習を翌日に控え、周囲は浮足立っている、無理もない、現に静希も陽太も明利でさえ少しそわそわしている始末だ


「鏡花、どうだった?」


「当たりなのか外れなのか、まぁ概要だけ話すと農作物を荒らす野生動物の駆除ね、最大行動可能期間は三日、参加は私達と付き添いとして二年生二名、審査、監査の教師がそれぞれ一人ずつ・・・」


これだけ聞くと、静希たちの出番ではないようにも思える、野生動物の駆除に関しては猟友会などが担当するものだと思っていたが、どうやら鏡花の表情を見るとそれだけではないらしい


「ここじゃ騒がしいからどっか別のところで話さない?これじゃあ・・・」


周囲の生徒はテンションが上がりまくっているせいか、どんどんと声が大きくなっている、遠足前のテンションに似ている、なんというか童心に帰った気分なのは静希も十分に理解できた


「ファミレスか図書室でも行くか?ここよりはましだろ?」


「あんたねえ、一応守秘義務があるってことわかってる?旅行のこと話すんじゃないのよ?校外で任務内容は話せないでしょうが」


「わかってんよ、でも普通聞かねえだろ人の話なんて」


「そういうこと言ってるんじゃないの!真面目に物考えなさいよ」


「はいはいそこまで、ついでに色々調べなきゃいけないこともあるんだからファミレスはなし、図書室も結局しゃべったりするんだからうるさくしたらNG、両方却下だ」


口論が始まる前になれた手順で二人の仲裁をする、さすがに明利も慣れたのかもう静希の後ろに隠れるようなこともなくなっていた


「じゃあどこにするの?学校のどっか教室借りる?多目的室とか、あ、でもパソコンあった方がいいわよね」


「そうだ、だったら静希んちでいいじゃん、パソコンあるし、学校から近いし」


「へえ、学校から近いの?」


なんだか雲行きが怪しくなっているが、静希は肯定する


「ならダメ?できるならさっさと話しつけちゃいたいのよ、面倒なの嫌だし」


さすがに否定ばかりしておいて自分に火の粉が降りかかって自室に来られるのは困るからダメとは言えない


「わかった、それでいいよ」


大きくため息をついてカバンを持つ


「決まりだな、いやぁ静希んち久しぶりだな、入学式前行ったきりだよ」


「私は、この前掃除に行った時、以来かな」


「掃除?なんで?」


「静希君、集中すると周りに目がいかなくなるから、部屋がすごく汚れるの、特に機材が多いから埃もすごくて」


「感謝してるって、晩御飯もごちそうしただろ?」


学校から出て十分ほど歩いたところに、静希の住むマンションはあった


十五階建ての比較的綺麗な形のマンションだ


エントランスからエレベータで十階まで上がり、部屋の鍵を開けて中に入ると、そこからは異様な空気が立ち込める


「うわ、なにこの匂い」


「人んちの匂いにケチつけるなよな」


鏡花が鼻をつまんだのは部屋の中から漂ってきた何かの薬品の匂い、それも一つや二つではなく、いくつもの薬品を混ぜた怪しげな香りだ、刺激臭がしないのが唯一の救いだろう


「今換気するからちょっと待ってろ、そこら辺のもの触るなよ、適当に座ってていいから」


玄関から見て、真直ぐ廊下が伸び、右手にはトイレ、その奥にバスルーム、直進するとリビングがあるらしく、陽太を先頭に三人がリビングに進むと、そこはまた異様な光景だった


形容するなら科学者の研究所、ビーカーやフラスコ、学生なら一度は目にする実験器具や見たことのない機器まであちこちに配置されている


「何よこれ、ホントに人の部屋?てかご両親何してるのよこれ」


「あぁ、言ってなかったっけ、静希は一人暮らししてるんだよ、もう結構長い」


「えと、小学校の後半からだから、もう五、六年くらいかな」


「だったらなおさらおかしいわよ、なんでこんなものがあるのよ」


全部の窓を開放し終えたのか、部屋中の空気が新しいものに入れ替えられていく、ようやく深呼吸ができると近くのソファに座り大きく伸びをする


そしてよくよく周囲を観察してみると、設置されている器具には全てどこかしらに静希の能力のトランプが設置されている


「ねえ静希、あんたこれ何やってんの?」


「見りゃわかんだろ、水を電気分解して水素と酸素に分離してんだよ、かなり時間がかかるんだ」


近くの機械に近づいて様子を見る鏡花は試験管に触れてみると、能力の一部が発動し試験管内の構造が理解できた、内部には水素、そして別部位には酸素、そしてその二つの大本に水が設置されていた


「あんたこんなまめなことやってたのね、意外だわ」


「そんなこと言ったら静希の部屋見たら驚くぞ?想像できないものが多すぎるからな」


「え?なに!?いかがわしい本でもあるの?」


陽太の発言に嬉々として家探しを始めた鏡花は静希の部屋と思わしき一室にたどり着く


扉を開けた瞬間にガラガラと金属音と鋭く輝く刃がいくつもその眼に飛び込んできた


部屋には大小問わず、大量のナイフ、刃物、そして杭や矢、おおよそ学生の持ち物には相応しくない武具の数々


「静希何よこれ!なんなのよこれは!?」


「なにって、俺の所持品だけど?」


「あんたこんな大量に武器所持して!実は危ない奴なんじゃないの!?正気を疑うわ」


「失礼な、ちゃんと銃刀法違反にならないように申請してあるし許可ももらってる」


制服を脱いでさっさと私服になった静希は心底心外な顔をして憤慨している


「それに俺の能力は事前準備が第一なんだからこういう機器やら道具がないと何もできないんだよ、これほとんど五百グラム以下なんだぞ、重宝してるんだ」


壁、扉、果てには天井や机の上にも所狭しと保管される刃の数々はすべて手入れが行き届いているようで鋭く、蛍光灯の光を反射させている


「もしかしてこれ、全部違う用途だったりするの?」


「なにいってるんだ、当たり前だろ、これ全部同じ使い方してたまるか、もったいない」


その言葉に鏡花はうえーと言葉を失くしていた


収納する者は管理が第一という格言があるが、まさにその通りだなと鏡花は感心していた、その場において柔軟な変換を行うのが鏡花なら、静希はその状況に応じた物を所持する手札の中から出さなくてはならないのだ、なるほど歪む切札とはよく言ったものだ


「たとえばこの小さいナイフは柄の尻の部分に細いワイヤーとかをつけて追跡用に使ったり移動用に使ったりするんだ、ナイフもそうだけどワイヤーも特注品だぞ?」


「へぇ・・・ひょっとしてそれって私の足に刺さった奴?」


「よくわかったな、ご名答だ」


思い出したくないことを思い出したのか、鏡花は顔色が悪くなりながらリビングに戻っていく、そして機材だらけの状況を見てさらにげんなりしていた


「とりあえずくつろいでくれ、いま茶ぐらい出すから」

「あ、手伝うよ」


リビングの惨状に似合わない綺麗なテーブルにカバンの中から出した書類を置きながら鏡花は再度あたりを見回した


この怪しい機具がなければ本当にただのマンションの一室だろう、絵画も花もインテリアさえもほとんど見当たらない、あるのはテレビにパソコン、テーブルにソファ、申し訳程度の人間性を持つ家具ばかり


しかも掃除もあまりしていないのかところどころ埃をかぶっているところや蜘蛛の巣が張っているところさえある、明利が気をきかせて掃除に来るわけがわかったような気がした


これから二話スタート


お楽しみいただけたら幸いです

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