表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
四話「異国の置き去りの時間」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

148/1032

雄大な世界

「まずは普通に上流に向かうコースからね、ゆったりと楽しんでいってよ」


シェリーの言葉に静希はあたりの街並みを眺めながらため息をついていた


街の中から眺めるのではなく川の上から眺めるというのはなんとも不思議な光景だった


日が傾きかけているのもあってか街並みは徐々に光と影の違いを明確にしていく


「シェリー、ちょっと急いだ方がいいんじゃないのかい?」


「そうだけど、せっかくじゃない、ゆっくりいきましょうよ」


「何か問題でもあるのか?」


屋根の上から逆さまになりながら操舵中のシェリー達に声をかける


「なあに、サプライズに間に合うか心配でね」


「心配いらないわ、速度と時間調整は慣れてるもの」


そういって操舵を続けるシェリーは慣れた手つきで船を操っている


気分は遊覧船だった


街のほぼど真ん中に流れる川をゆっくりと運航し、時たま手を振る街の人に笑顔で応えていく


今まで名所を回っていた中で一番特徴の多い観光だ


今までは建築物や観光地を見てばかりだったが、このツアーはその町に住んでいる人が見れる


川を上る船に街の人が目を向け、反応を見せてくれる


ただの観光にはできないとっておきのツアーだ


「どうだい?お気に召したかな?」


「あぁ、予想もできなかったよ、てっきり自然を見るツアーだと思ってたんだが」


「紹介するのはこの街さ、言われた通りに君達には街を見てもらいたいんだ、場所や人、全部」


それは確かに当初の目的だ


班員にこの街を案内してもらう


確かに言われた通りのことをしているだけだがこれはなかなか嬉しい


「そろそろね、みんなどこかに掴まってて、ちょっとスピードあげるわよ」


シェリーの言葉のすぐあと船は言葉の通りにスピードを上げて移動を始める


今までのゆったりとした移動から通常の船の動く速度程度に上がり、街の風景を次々と変えていく


「どっかに行くのか?」


「このまま海に行くのよ、いいものを見せてあげる」


「海!?海行くのか!?」


陽太は海もほとんど見たことがないためテンションがすごい勢いであがっている


今能力を発動したらそれこそこの船を破壊しそうな勢いだ


時刻はもうすぐ四時を回る


日が傾き、夕方になろうという時、海の持つ生き物の匂いを内包する潮風が静希達の頬を撫でる


そして船は川を越え港を越え大海原にたどり着く


「おおおおおおおおおお!海だああああ!」


陽太は船首で大きく腕を振り上げながら叫んでいる


静希も思わず屋根の上で立ち上がり無限に広がる空と海を体感していた


風が強く冷たい空気が肌を刺す、生命を感じさせる独特の生臭さが鼻をつく



今まで文献や画像などで見たことはある、飛行機の上からも眺められたが、実際に目の前に広がる海を見るのは静希も明利も陽太も初めてだった


「すごいな・・・これが海か!」


見渡す限りの水平線、空を飛ぶ海鳥たちが静希達の近くに魚がいることを知らせているようだった


辺りを見回しても水と空しかない世界、青と青に挟まれた美しい景観が広がっている


「そっか、皆海見たことないのね」


「鏡花さんはあるの?」


「一度だけね、でも海の上から海を見るのはさすがに初めてよ」


明利も鏡花も感動しているようで大海原を前に目を輝かせていた


「諸君、見てほしいのは海もそうだが、回れ右してくれるかい?」


シェリーが気を利かせてエンジンを切りあたりに聞こえるのは風の音だけになった


船の最後尾に立つハワードが指を鳴らす


船首から移動してきた陽太とそちらの方を向くと、全員が息をのんだ


そこには今まで自分達のいた街、だがただの街ではない


船はちょうど街から真東に位置しているのだろう


静希達の眼には夕陽を背負ったエディンバラの街が映っていた


オレンジの光とそれが生み出す影、土地を利用した城や建物、それらすべてが夕陽をバックに自らの存在を主張している


これにはさすがの陽太も声を出すことができないようだった


いや、陽太だけではなく、静希も鏡花も明利も、誰一人としてこの光景に言葉をあげることができない


すごい、美しいなどの言葉さえこの光景にはふさわしくないだろう


静希は自らの語彙力のなさを今ほど悔いたことはなかった


何せ今この光景を言い表す言葉が見つからないのだから


「どうかな諸君、我々の用意したサプライズは」


操舵室から全員が出てきてハワード達が得意げに笑う中、静希達もようやく言葉を放てるようになり不意に笑ってしまう


「あぁ、最高だよ、度肝を抜かれた」


その言葉に満足したのかハワード達は声をあげてハイタッチしだす


自らの企画が喜ばれたことへの達成をかねたハイタッチだ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ