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J/53  作者: 池金啓太
一話 「引き出し」

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一年B組一班

「陽太は根っからの前衛、俺は中衛のサポート型、明利は完全な後衛の支援型、清水は中衛から後衛とある程度幅が利きそうだな」


「こ、この四人がチームだったら楽しいかもね」


「ほう、いいことを聞いた」


明利の言葉を機に後ろからの声に全員が反応する


目元がほとんど見えない教師城島である


「正直班を作るので一番面倒なのはお前らなんだよ、二人して能力欠陥者がいるからなぁ」


二人して視線をぶつけられた静希と陽太は苦笑する、返す言葉もありませんといった風だった


「まぁこの二人はコンビネーションがいいから同じ班として、幹原も長年の付き合いだそうだな、そしてその幹原と清水は打ち解けてきた感じだったし、問題はなさそうだしな」


「あの先生、何の話ですか?」


先ほどから突然現れて話し始めて訳がわからないという陽太は正直に疑問をぶつける、反対に静希はもうすでに何となく予想ができているが


「五十嵐静希、響陽太、清水鏡花、幹原明利、この四人を校外実習の班とする、リーダーは・・・お前らが適当に決めておいてくれ、決まったら申請書とりに来い」


言うことだけ言って城島はさっさと別の生徒を見に行ってしまった


全員ぽかんとした表情で互いの顔を見比べる


「五十嵐や幹原さんはいいけど、響かぁ・・・」


「こっちの台詞だよ説教女」


「なによ!」


「なんだよやるのか!?」


「よろしくな明利」


「うん、よろしくね」


もはや喧嘩を止める気すらなくなった静希と明利は朗らかに笑っている


むしろ関わりたくないといった様子だ


「そうだ、せっかく同じ班になったんだ、清水、お前の能力のネタばらししてくれよ、一昨日のあれ、説明してくれ」


「おととい?・・・あぁあれのこと?」


あれとは一昨日、陽太と鏡花が一対一で戦闘を行った際に、壁の向こうの陽太の突進のタイミングを完全に見切っていたという疑問である


今回静希が陽太に壁に向けて突進させなかったのは同じことをされるかもしれないという危険があったからである


「私は変換能力を基にしてるんだけど、若干だけど同調もできるのよ、触れている物質に限りだけどね、同調すれば向こう側はすかしているように見えるの、構造理解もしやすいし」


構造理解とは変換能力者が使う単語で、物質を理解しなくては変換することはできないという大原則に則ったものだ、その物質が何か分からなければ変換することはできないということである


「あぁ、だから俺が陽太に投げられたのも見えなかったのか」


「投げたの!?よく無事だったわね」


静希が陽太に投げられる直前、二人が水素爆発をほのめかしたその瞬間に鏡花はわき目もふらずに後退しようとした、その際盾からは手を離していたため、同調を行えなかったのだろう


「ちゃんと無事になるようにしてたさ、清水の治療のために明利が木を生やすことはわかってたから上手くクッションにさせてもらった」


仮に明利が木を大量に生やさなくとも、周囲は木に囲まれた森林地帯、コンクリートから脱出した時のようにワイヤー付きのナイフで対処はできた、備えあれば憂いなしである


「結局全部五十嵐の作戦だったわけね、あんたはいったい何やってたのよ」


「お前らにプレッシャー与えてただろうがよ」


「何もしてないのも同然よ、五十嵐一人だってなんとかなったんじゃない?」


「んだと?俺の能力なめんなよ?」


「私の能力のが上よ」


もはやこの二人は実は仲が良いのではないかと疑い始めた静希だが、これ以上のごたごたは無意味だ


「だけど二人の能力は結構相性がいいと思うぞ?」


「まさか」


「冗談じゃないわ」


性格はその範疇ではないが、火炎発生の肉体強化、状況さえそろえばどんなものでも精製できる変換能力のスペシャリスト、前衛を陽太に任せればそれこそ変換はし放題だ、逆にフリーになったところに陽太を援護するために水素や酸素といった可燃物質を変換生成することも可能なはず、陽太が自由に動き回るための足場や守るための盾だって瞬時に出せるしコンビネーションが可能であればそれこそ敵はないだろう


そして静希と明利の相性もいい、もとより明利は木を成長させて視界を遮ったり障害物を作ることに長けている、しかもその木はすでにマーキングの施されている索敵機能持ち、そこにもともとトラップや状況によっての遠距離攻撃を得意とする静希がいればトラップはしかけ放題、撹乱し放題だ、本来陽太よりも明利の方が能力の相性としては静希にはあっているのかもしれない


もともと好戦的ではない静希と臆病な明利ならそれほど意志の齟齬は起こさない


「大体一対一ならあんたになんて負けないのよ!今回の勝ちは五十嵐のおかげ、あんたはほぼ何もしてないに等しいわ」


「なんだと!?俺だってお前らを追いまわしたり木をなぎ倒したりしてただろうが」


もはやこの二人はきっと前世が犬と猿だったのだろう、それほどまでに性格が合わない


何をどうしたらほぼ初対面の人間がここまで仲が悪くなれるのか教えてほしいくらいである


「二人ともそこまで、この班のリーダーは誰にする?陽太は自動的に除外な」


「なんで!?俺リーダー頑張っちゃうよ?しっかり班まとめるよ?」


どの口がそんなことほざきやがると静希は悪態をつきながら女子二人を見比べる


「正直、明利は自分から意見を言うのとか周りをまとめるのは難しいだろうからなぁ」


「う、うん、特にこの二人の仲裁は無理だよ・・・」


確かに先ほどから二人が言いあっている間ほぼずっと静希の影に隠れていた、臆病なのは明利の性格だ、しょうがないと言える


「状況判断や観察力の高い清水に頼みたいんだけど、どうだ?」


「それを言うならあんたの方が適役じゃないの?全員の話もまとめられそうだし、作戦も立てられるし」


「面倒事は御免だ、それに仮に俺がいなくなったら崩壊するような班にしちゃいかんだろ、ただでさえリーダーは単独で報告とか多いのに」


教員への報告、実習に向けての事前ブリーフィング、合同実習の時の報告から作戦会議まで、班のリーダーが負うのは何も栄誉な称号だけではない。常に面倒事が付きまとう


「それに単独状況でも何とかできるような奴のが適任だ、そういう意味では陽太が一番何とかなりそうだけどこいつに班をまとめるとか無理な話だ」


「なんだと!?」


いわせておけばと憤慨しているが、事実は事実なのでそれ以上は追及してこなかった


「俺は清水を班長に推す、班長不在の時のまとめは俺、ある程度の仲裁も俺がやる、三人はどうする?」


話を振ると明利は小さく、陽太は渋々うなずく


「清水は?」


「正直、あんたにやってほしかったんだけどね、いいわ、んじゃ頭は私がやって、中間管理職は五十嵐に譲るわ」


「いやな役職に就いたもんだよ、ほんとに」


「自分から言い出したんじゃない」


損な役回りだよと言って静希は立ちあがる


「改めてよろしくな、清水鏡花」


「鏡花でいいわ、他の二人は名前で呼び捨てなのに私だけ名字じゃ仲間外れみたいじゃないの」

差し出された手をとって握手を交わす


「よろしくね、静希、陽太に明利も」


「へーへー、よろしく」


「よ、よろしくね、きょ、鏡花さん」


お互いに握手、陽太は多少いやいやだったが、鏡花の実力はすでに知っているためある程度は認めている節がある、これからその態度が少しでも改善すればよいのだが


「んじゃ班長、さっそく初仕事だ、先生のところに申請書を取りに行くぞ」


「それ仕事っていうの?」


「ちゃんと報告までが班長の仕事だろ」


「はいはい、あんた本当に副官向きね」


「そりゃどうも」


城島の元へ向かい、鏡花は代表として申請書を受け取る


各員の名前を記入し、その場で提出する


「ふん、清水が班長か、まぁ妥当なところだろ、この二人の面倒をしっかり見てやってくれ」


城島の言うことは教師としては正しいのだろう


数字から見れば鏡花は優等生、静希と陽太は劣等生に当たる、それを鑑みればこの反応はいたく正常だ、先ほどの結果も偶然と実戦慣れしていない鏡花の不運と明利が足を引っ張った程度にしか見てない、評価は正しい、一つ二つしか観察されていなければ数字の方が絶対的に信頼できるものだからだ

劣等生二人に、圧倒的に優等生一人、平均以上の成績を残す生徒一人、この配置は生徒としても教師としても有り難い布陣だった


こうして喜吉学園第一学年B組第一班が結成される


後に提出された書類にはこう示される


一学年B組第一班


班長 『万華鏡』清水鏡花


班員 『歪む切札』五十嵐静希、『藍炎鬼炎』響陽太、『慈愛の種』幹原明利


職員からの備考


問題有する劣等生が二名属する班として厳重に注視すること、班長清水の指導により彼らの能力改善が望まれる


この書類を職員以外が目にすることはないが、彼らがこの評価を撤回させるのはそう遠くない話である


「よし、今日学校終わったら静希の家で歓迎会でもするか?新人の」


「班長に向けて新人だなんてずいぶんなめたこと言うのね、別にいいのよあなたは歓迎してくれなくても?他の二人とは仲良くできそうだし」


「人がせっかく誘ってやってるのになんだその言い草は?静希、お前からも何とか言ってくれ」


「人の家を勝手に会場にするな、昨日の片づけが全く終わってないんだ、ファミレスとかでいいだろ」


「また散らかしたの?手伝おうか?」


「あぁ助かる、今回はちょっと急いでてな・・・」


能力はさておき、この学園としては新参者の清水が、まずは打ち解け、仲間ができていることに城島は安堵した


能力うんぬんより、学生として青春を謳歌することが重要だと思っている城島からすれば、何よりもまずその点が重要だった


「よっしゃ、んじゃファミレス行くか、歓迎会含め結成会だ」


「陽太は俺におごりな」


「なんで!?」


「この前の賭けの分、支払いがまだだ」


「うああ、ちくしょう、忘れたと思ってたのに!」


「じゃあ私にもおごりね」


「なんで!?何でおれが!?」


「だって私は新人よ?先輩が奢ってくれるのが定石じゃない?」


「っざっけんな!そんな持ち合わせねえよ!」


「この流れで明利もおごってもらえ、ただ飯食えるぞ?」


「え?そんな、悪いよ」


「大丈夫だよ、陽太だし」


「・・・それじゃあ」


「おい明利、なに流れに乗じようとしてんだ!奢らないからな?絶対おごらないからな!?」


「んじゃいくか」


「話聞けや!」


あの班にしたのは失敗だったかもしれないと、決定から半日も経っていない下校時間のことだった


ようやくプロローグ代わりの一話が終了しました


お楽しみいただければ幸いです


ワードに直して三十半ばしかない話でここまで投稿に時間がかかるとは・・・

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