言語の問題
「うぅうぅ・・・もう嫌だよ、何でいつも抱きつかれるの?」
「まぁなんだ、ドンマイ」
「メーリが抱き心地が良すぎるのがいけないのよ、大きさもちょうどいいし」
ベッドにうつ伏せになる明利に対しメフィはずいぶんと楽しそうだった
明利の身長は百四十後半、メフィは百七十台、確かにこれだけ身長差があれば抱き心地もさぞいいことだろう
メフィの場合体格などではなく明利の反応を見て楽しんでいる節があるが、そのことは黙っていることにした
「とにもかくにも明日は交流会だろ?自由時間もないんだっけか?」
「あぁ、学校の中の案内とクラス交流・・・なんだけど、言葉がなぁ」
一番のネックは言語の違いだ
この地域はいくつかの言語に分かれているとはいえ基本は英語、英語といっても静希達が話せるのはせいぜい片言で伝えられる最低限のものでしかない
交流するにしても言葉が通じないのでは意味がない
ちらりと明利を見ると、あまり自信はないのかうつむいてしまう
明利の能力は生物に対する同調、その生物の現状を理解することもでき、強化の力を流すことで傷を治癒する、同調すると同時に相手が人間などの思考生物であればある程度伝えたいことを理解できる
だが明利の能力はもともと思考同調型のものではない、本当にニュアンスやこういったことが伝えたいのだろう程度のことしかわからないのだという
後は言葉を直接聞いた静希達が自分たちで判断しなくてはならないだろう
ただ明利も自分の能力の幅を広げるという意味である同調能力者の下で修行というか指導を受けたことがある
身近にその人がいたからこそできたことではあるが、上手く同調して情報を引き出すにはその人が言うには
『自分を対象の中に拡散させていって粒子一つ一つまで浸透させると深くまで同調できる』
とのことだった
最も明利の師匠は生き物ではなく物質限定の同調能力者であるため多少感覚は違うだろう
だが同調能力者としての根本は同じ、自らの感覚を異物の中に溶け込ませる
明利もそれを何度も実行してきている
問題があるとすれば明利が知りたいのが生物の状況ではなく思考だということだ
思考を生み出すのが脳だということが分かっていてもその思考を読むのにいったいどこを重点的に同調すればいいのかは明利にもわからない
精度を上げようにも元のタイプが違うだけに難航している状況だった
「鏡花は英語どれくらい話せるんだ?」
「私も書くのはある程度できるけど、喋るとなると厳しいわね、本場だと発音とかも違うだろうし」
「んだよエリート形無しだな」
「この前の英語の小テスト二十五点のやつにいわれたくないわよ」
「それを言うのは卑怯だろ!」
また始まったと呆れながらどうしたものかと考える
そもそも交流会といえどどの程度話さなくてはならないのかがわからない
もし学校案内自体が全部英語だった場合ほとんど意味がない、というより理解できない物に早変わりだ
せっかく名門大学の紹介をしてくれるというのに内容が理解できないのは非常に悔やまれる
「明利ばっかに頼るわけにもなぁ、上手くいくかもわからないし」
「うん、でもね、まだ本場の人と同調できてないからよくわからないけど、もしかしたら、上手に訳せるかも・・・」
「その場ぶっつけ本番ってことか」
こういう海外に出る場合に思考同調型の能力は功績を上げやすい
何せこの世界に在る言語は共通英語、マイナーな部族間言語含め数知れない程に存在する
そんな中言語を勉強することがなくても相手が言いたいことが理解できるのだ
同調系統の人間は通訳になることが最も楽だとされる
何せ自分の能力を使っての仕事ができるのだから
だが同時に思考を読まれるという意味であまりいい顔をしない人々だっている
当然だ、自分が本来伝えたいことではなく考えていることを読まれている可能性だってあるのだから
そういう意味でいまだ無能力者の通訳は多く需要がある
特に会談や交渉、外部に情報が漏れては行けなかったり当事者同士にしかわからない情報を含めた会合などではその価値は跳ね上がる
もっとも能力者通訳よりも無能力者通訳の方が圧倒的に多い、そもそも総人口からして違うのだから当然と言えるだろう
多国籍語を必要とする場合能力者、情報秘匿を目的とし単一言語を通訳してくれればいい場合は無能力者
ある意味住み分けは十分できていると言える
「ふん、私に口げんかで勝とうとするのが間違いなのよ」
「くっそ・・・論破された・・・」
どうやら陽太と鏡花の口げんかも滞りなく終了したらしく陽太は床に手をついてうなだれている
飽きもせずよくやるなぁと静希は感心していた




