デリカシー
「いやぁ、案外うまかったな」
「陽太はがっつきすぎよ、もっとマナーを学びなさい」
「んだよ、美味かったんだ、しょうがないだろ」
鏡花の指摘通り陽太の食事シーンはあまり上品とは言えなかった
その対極として鏡花の食事はとても上品、食器の音一つ立てずに完食していた
食後の紅茶を飲む最後の仕草まで完璧なテーブルマナーといったところか
上品さというか個人の質の違いがよくわかる食事風景だったと言わざるを得ない
「ったく先生もあんなに脅し入れなくてもよかったじゃねえか、十分食えるよあれなら」
「それはこのホテルの料理だけの話でしょ、まだわからないじゃない」
「でも、今は世界的に料理の水準があがってるから、今はこれが普通なのかも」
「それはあり得るな、それにイギリスの料理が酷いって言われてたって美味いところは美味いんだ、気にすることないだろ」
一般的に言えば確かに静希の言うとおり、美味しいところは美味しく、不味いところはどこだって不味いものだ
そう考えれば静希達は今回あたりを引いたと言える
そしてやたら酷評の多かった城島は外れを引いた、ただそれだけだろう、そうだと思いたい
「二人はどうするんだ?俺と陽太は部屋戻るけど」
さすがにそろそろメフィと邪薙を外に出してやらないと不憫でしょうがないのかそれとも不機嫌なオーラでも出してきているのか静希は若干焦りを見せている
それもそのはず、何せ静希の懐の中には文字通り爆弾のような存在がいるのだから
「どうしようかな、今八時でしょ?まだ寝るにしても何にしても早すぎない?」
「せっかくだしもうちょっと何かしてたいよね」
「じゃあ俺らの部屋来るか?」
陽太の誘いに鏡花と明利は一瞬言葉を詰まらせる
明利はあからさまに動揺し鏡花は額に手を当てて盛大に呆れる
「あんたさ、班員とはいえ仮にも女子にその誘いはどうなのよ?」
「え?別にいいんじゃねえの?」
「あんた・・・無神経通り越して何も考えてないわね?」
陽太に対してその言葉は少々今更感が漂うがそんなことは今どうでもいいと言わんばかりにどうするんだよと逆に二人に問いかけている始末
陽太はデリカシーという単語を辞書で引くべきだ
「まぁいいんじゃないか?他の誰かならいざ知らず班員の三人は昔馴染み、鏡花だってもう慣れたろ?」
「そりゃ、そうだけどさ・・・」
煮え切らない返事の意味はわかる
仮にも班員で同じ時間を過ごし問題解決に向けて協力し、いかに慣れてきたとはいえ男女の差は大きい
しかも夜に男子の部屋に行くというのは鏡花の中の乙女部分を強烈に刺激していた
越えてはいけない一線のような気がしてならない
いくら天才的な変換能力者といえど花の高校一年生である
「まぁどっちにしろあの二人がいるから俺達だけにはならないけどな」
「あの二人って、部屋で出して大丈夫なの?」
「部屋の中検査して異物や隠しものがなければな、鏡花が調べてくれると助かる」
「んん、まぁそういうことなら・・・でも明利は?」
「それこそ来るだろ?俺の部屋いつも来てるんだし」
「そ、それはそうなんだけど、あの・・・」
「そういや明利って通い妻状態だったわね・・・」
明利の表情を見るに鏡花と同じことを考えていたのだろうが、すでに何回も静希の家にいっている事実からすれば旅行先で同じ部屋に入ることくらいなんでもないように思える
実際何でもないのだろうがやはり旅行中というだけあって普段とは違う思考パターンになっているようだった
とはいったものの、メフィ達を外に出すためにも部屋のチェックはしなくてはならない
これで監視カメラにメフィと邪薙の姿が映った日には世界的に悪魔の契約者であることがばれてしまう
それは絶対的に避けたいことだ
静希と陽太の部屋に二人を招き、とりあえずすべきことは部屋の内装と小物、そして監視カメラや盗聴器の有無
鏡花の微弱ながらの同調を利用し物質構造理解と同時に異物を捜し出す
数十分の捜索の末、どうやらこの部屋にはそういった類の物はないであろうことがわかる
「よし、なら出しても大丈夫だな」
静希の合図とともにスペードの3とQが宙に浮き悪魔メフィストフェレスと神格邪薙原山尊が姿を現す
「あらシズキ、旅行中だってのにいいのかしら?」
「別に出さずとも私たちはよかったが」
「せっかく来たんだ、表に出せなくても雰囲気を味わうくらいいいだろ?部屋の中だけなのが申し訳ないけどな」
あらそう、と呟いてメフィは宙を回転しながら明利に抱きついてベッドに飛び乗る
明利は黄色い悲鳴を上げながらメフィの餌食になっていた
「あいつはいつもどおりね、邪薙は普段どうしてるの?」
「どうもしない、神棚の中でシズキを守るべく精神統一を・・・撫でられるのは気恥ずかしいのだが・・・」
鏡花はすっかり邪薙の毛並みが気に入った様子だ、満面の笑みで撫でまわしている




