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J/53  作者: 池金啓太
一話 「引き出し」
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研鑽の結果

「幹原さん、私が壁を作って時間を稼いで道を作るから、走って!」


「う、うん、わかった!」


集中とともに地面を強打すると炎を遮るように巨大な壁が傾斜をつけて顕現する。コンクリートの時よりも硬度は劣るが、今回はそれだけではない


構造変換、土と岩の混合物の壁を硬く強いセラミックに変換する


それと同時にナナカマドの若木を地面ごと押しのけて道を作る


「これで少しは・・・」


「さぁて今回はスペシャルサービス!頑張っている清水鏡花さんに向けておくりまぁす!」


向こう側から聞こえてくるのは陽太の声だ、かなり大声で叫びながら壁を叩いているのがわかる


そんなことをやっている間に、壁を維持しながら徐々に後退する


「気体水素五百グラムによる、とっておきのキャンドルサービス入りまぁす!」


「着火は私ぃ、炎のイノシシが担当いたしまァす!」


静希のその言葉が聞こえた瞬間鏡花はぎょっとする


水素を五百グラムも爆発させたらどうなるか、水素は最も軽い元素でありながら起爆物質だ、兵器としても流用されている、そんなものをこの至近距離で爆発されたら


すぐに踵を返して走り出そうとした時にはもう遅かった


背後から轟音が聞こえ、衝撃で鏡花は数メートル吹き飛ばされる


セラミックの盾は変形し、支えていた地面が耐えられずに地面ごとえぐれて十数メートル先に重々しく落下した


だが爆心地にいた陽太はほぼ無傷、何せ炎系統のダメージなのだ、それさえも自分の力にできるというのだから厄介極まりない


鏡花のダメージもほぼなし、鏡花よりさらに後方にいた明利に至っては完全に無傷だ、多少大きな音に驚いているようではある


「詰めが甘いわね、さっさと逃げさせてもら」


「そうは問屋がおろさないぜ?」


能力を発動して再度壁を作るか、地面をコンクリにするか、どちらかをして体勢を立て直そうとした瞬間、鏡花の首元にナイフが添えられる


訳がわからなかった、何がどういう状況なのかまったく理解できない


「あ、あんた、響と一緒にいたはず・・・なんで」


「はっはっは、さすがに騙されたか、お前陽太に対して壁に頼り過ぎなんだよ」


あの一瞬、爆発する刹那、静希が叫んですぐに陽太は自分の腕に静希を乗せ、上空にぶん投げた、そして静希は能力を使用してトランプの中に入っている水素を開放、爆発とその後わずかに生じた隙に背後をとり接近、そして今に至る


「清水さん」


「幹原さん逃げて、今ならあなたがまだ動ける」


「ならこうしよう」


静希が指をならすと明利の周りにクローバーのトランプが回転しながら飛翔し始める


「あの中にはナイフが入ってる、こういう風に出てくる特製のナイフだ」


クローバー一枚を操って近くの木にナイフを射出する


高速で射出されたナイフは深々と木に突き刺さりその威力を物語っている、人に当たっても同じかそれ以上の結果を残すだろう


「どうする?俺はまだ続けてもいいぞ、だけどできるなら賢く降参してほしいね」


「・・・」


鏡花は目の前の燃え盛る陽太とのど元に突きつけられたナイフ、明利を取り囲むトランプを視界に入れる


「・・・はぁ、無理ね、降参よ」


「そう言ってくれると思ったよ、あーしんど」


ブザーが鳴ると同時に静希はトランプをしまい、陽太も能力を解除した


「にしても騙されたわ、そのトランプ、あんたの能力で作ったものだったのね?てっきり市販のものと思ってた」


「そう見せかけるのが目的だからな、懐から出せば明らかに市販っぽいだろ?」


「あの時の変な飛んでるものも、ナイフも全部そのせいか・・・あぁぁああ騙されたぁ」


収納系能力者は二種類いる、自身で収納する媒介を作り出すタイプと、既存の物質や物に収納の力を持たせる能力、後者は付与能力とよく誤解されることがある


静希は前者、ただ普段からトランプを懐から出す癖をつけて後者であるように見せかけているだけである


前者の利点はいつでもどこでも媒介を取り出せ、操ることができる、その代わり平均的に収納の能力は低くなりがちである、逆に後者は多少の不便さに目をつむれば非常に多い収納容量を持つのが特徴である


「これでわかっただろ?能力は使いよう、足りない能力はコンビネーションで補える」


「うぅ、でも響なんにもしてないじゃない!」


確かにはたから見れば正面から突っ込んだだけに終始していたようにも見える


「ばかたれ、陽太が突っ込んでくれなきゃプレッシャーかけられないしお前の集中を乱すこともできなかったんだぞ?お前の集中崩さなきゃ勝ち目なかったしな」


「・・・わかってたの?私の弱点」


疲労からか座り込む鏡花は静希から視線を外さない


「最初におかしいって思ったのは、あたり一面コンクリにした時だ、あの状態ならすぐにでも俺たちにとどめをさせるはずなのにお前そうしなかったろ?その後脱出してからお前の歩いてたところが舗装されてることに気づいて、ある程度集中してないと複数同時に変換できないんじゃないかって思った」


「・・・正解よ、高い集中を維持してないと複数同時の変換はできない、構造変換は高い集中でも一つのものしかできないわ、最大でも二つか三つ」


「そこは賭けだったな、だから正面は陽太、後ろに俺、とどめに少し離れたところに明利を人質にして同時に操らなきゃいけないのを三か所にして、それでもだめなら陽太に突っ込んでもらう予定だった」


高い集中を持って三か所以上同時に変換が行えるのであれば正面に壁を作ると同時に静希のナイフを破壊し明利を守ることもできたかもしれない、だがその能力は鏡花にはなかった


「にしても怪我した状態でよく構造変換できたよな」


「血を見てテンションあがってたのかもね・・・」


自分の弱点を看破されていたことに驚きながらも、それじゃあ負けてもしょうがないかと鏡花は足を伸ばしてその場に倒れ込む


「あぁもう、負けよ負け、久しぶりに負けたわ」


「おう、そういえば脚大丈夫か?比較的短いナイフで刺したはずだけど」


本当に今更な心配に鏡花は眉間にしわを寄せながらふんぞり返っている


「幹原さんに治してもらったわよ、ったく乙女のやわ肌を傷つけるなんて」


「そうだよ静希君、一歩間違えたら・・・」


「まぁそこは明利を信用してたってことで」


明利の回復技術ならば跡が残らないように回復することも容易だ


きちんと相手の能力を理解していなければできないことである


試合後の談笑をしていると木陰から監査員の先生が音もなく現れる


「勝敗は決した、清水、能力発動の後始末をしておけ、さすがにあれは看過できん」


「あ・・・すいません・・・」


コンクリートの海、セラミックの防壁に荒れまくった地面、さすがにこの状況ではこの森を維持できないかもわからない


「あ、あの、私の木は・・・?」


「あれほどであれば問題ない、響が大半燃やしたが、いい肥料になるだろう」


その言葉に明利はほっと安堵の息をつく


たしかにあれほど密集して本来ない木を育てれば周囲への影響もあるだろうが、陽太の突撃がいい意味で損傷を増やしたということだ


「班分けの結果は後々わかるだろう、今日はここまでとする、全員演習場を出てクールダウンしておけ」


全ての工程を終え、鏡花もさすがに疲れたのか、思い切り足を伸ばしてへたり込んでいた


あれだけの量の体積を元の材質の土に変換するのだ、それはもう多大な疲労だろう


身体的な疲労ではなく精神的な疲労の方が大きいだろうが


「にしてもあんたの能力、あれだけ多様性があるのに何で基礎能力値も応用能力値も最低評価なわけ?十分使い勝手いいじゃない」


森を出て後は他の班の試合を待つだけとなった四人は森の近くに腰をおろし雑談を始めていた


「しょうがないんだよ、俺の入れることのできる容量が五百グラムなんだ、最低評価もうなずけるよ」


「え!?五百グラム?五百キロじゃなくて?」


「あぁ、カード一枚に対して五百グラムだよ、これでも増えた方なんだ、昔は一枚五十グラムだったし、初めて入れるものはカードに触れながら直接対象にカードを当てないといけないし、不便極まりないよ」


その代わり一度入れてしまえば出し入れ遠隔操作自由だけどなと付け足すが、鏡花の反応は変わらなかった


「はぁ、あんたが引き出しって言われる意味がわかったわ」


さすがにここまで少ないのは予想外だったらしい、収納系統能力者の平均収納容量は約五百キログラム、そのことは鏡花も知っていた、だからこそあれだけの多様性を見せていることに驚きを隠せなかった


「まって、でもなんで応用値最低なの?あれだけ色々できるのに」


「色々できるって言ったって、結局は入れて出してるだけ、能力自体の応用性が高いわけじゃない、一つの能力を使って何をしてるかってだけ。それじゃ能力の応用にはならんだろ」


明利のもつ慈愛の種のように、同調と強化を調整して人を癒したり植物を急激に成長させたりなどの多様な方法、陽太の藍炎鬼炎のように炎の発現位置を変えて腕だけ炎で強化したり、鏡花のようにあらゆる物質をあらゆる条件下で変換したりといったことが静希にはできない、ただ、出して入れるだけなのである、逆にいえば本当に事前の準備がなければ静希は何もできないのである


「静希君の家すごいんだよ、いろんな機材とかがあって、なんでも準備できるの」


「何でもは無理だ、調合できるものなら大概はできるけどな」


「あぁ、もしかしてさっきの水素も自分で?」


先ほどセラミックの盾を地面ごと吹き飛ばしたあの光景を思い出し、鏡花は顔をひきつらせる


「あぁ、色々あってあの一枚しか用意できなかったから一発勝負だったけど、上手くいって何よりだ」


「今度からは透過できる盾を考えておかなくちゃね」


目の前に巨大な盾を作るのもメリットとデメリットがある、大きな攻撃を防ぐことはできるが、その反面盾の向こう側を見ることができなくなってしまう、陽太に対してはそれをうまく利用できたが、先の戦いではそれを逆に利用された形だ


「そう考えると、本当に響は突っ込むしか能がないのね」


「あぁそうだよ、悪いか?」


「もうちょっと能力の幅ができればいいのにね、イノシシのままじゃこの先辛いわよ?」


「余計な御世話だ、俺はこの方がいい」


また口げんかが始まってしまった、実はこの二人は仲がいいんじゃないかと思いながら静希は頭を抱える


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