策士 静えもん
静希が携帯をポケットにしまうと陽太の様子がおかしいことに気付く
頭を大きく揺らし、瞼がとろんとしてきている
「ちょっと陽太どうしたわけ?」
「んあ・・・あ・・・んん・・・」
明らかに生返事な陽太に鏡花があわて始める
陽太は首に力が入らないのか、そして意識を保つことができないのか頭を揺らしながら何度も瞬きを繰り返す
そしてその様子を見て上手くいったと呟きながらカバンの中から一つの小瓶を取り出す
「たらりらったら~、睡眠薬~(ダミ声)」
「・・・は?」
妙な効果音と共にとりだしたのは何の変哲もない小瓶
手のひら大の透明な小瓶を取り出した静希は得意げに笑う
「これさえあれば任意の相手をぐっすりさせることができるんだ~(ダミ声)」
一体誰のものまねをしているのかはさておいて、静希が取り出した小瓶には白い粉が約半分ほど入っている
それだけだと見る人が見たら手ひどい誤解をしそうだ
「いや睡眠薬はいいけどあんたいつの間に陽太に仕込んだのよ」
「さっき陽太君がお茶頂戴って言った時にお茶に入れておいたんだよ、上手くいったみたいだね、うふふふ~(ダミ声)」
「その声やめなさい」
「個人的には昔の声の方が好きだったけど・・・まぁそのことはいいや、効果時間は個人差あるけど大体二時間ちょっと、その間は強制的に眠り続ける、起きるかどうかは本人の眠りの深さ次第だな」
そんな説明をしている間に陽太は寝息を立てながら大口開けて眠りに落ちたようだ
すでにかなりの騒音の中にいるのにもかかわらずしっかりと眠っている、眠りは深そうだ
「ていうかなんでそんなもん持ってるのよ」
「いや実は前にうちの居候どもが夜中に口喧嘩しだした時があってな、うるさくて寝られなくて、ちょっと処方してもらったんだ、即効性のある奴」
「はぁ・・・で二人ともなんで喧嘩なんてしたの?」
さすがに悪魔と神の喧嘩なんてそうそう見られるものじゃないだろう
下手すれば一帯が火の海になりかねなかった一件だ
だがそこは渦中にいた静希だ、明利の疑問に答えるのもやぶさかではないのだが
「食後のデザートを和菓子か洋菓子かでもめてな、結局喧嘩した罰で二人ともデザート抜きにしてやった、その腹いせか深夜まで責任の押し付け合いだ」
その様子を想像したのか鏡花と明利は苦笑しながらも意外そうな顔をしている
「あ、あの二人そんなことで喧嘩するのね・・・」
「それに、食後にデザートなんて、静希君今までそんなのなかったよね?」
「あぁ、あの二人が来てから強制的に増えたうちのルールだよ」
メフィはこの世界の食事、特に甘露に目がなくあらゆるものを味見したがる
対して邪薙は甘いものが好みでお供えは洋菓子でなければへそを曲げる
二人とも甘いものが好きなだけに結託して静希を説き伏せてきたときにはさすがに殺意を覚えたのは内緒である
「まったく、メフィ夫君と邪薙ャイアンには困ったものだよ(ダミ声)」
「だからやめなさいそれ、気にいったの?」
思いのほか気に入ったらしく何度かダミ声の練習を繰り返す
メフィと邪薙の諍いがあったのはほんの数日前
メフィは和菓子を要求し邪薙は洋菓子を要求
お互いに自分の主張が入り混じり殺気立つ中、さすがに声をあげていがみ合っていた二人に対し静希の鉄槌、ならぬ罰が下った
二人とも食後のデザートなし
互いに甘さを求めていたという意味では同じ
静希の出した罰は的確にそして壮絶に悪魔と神にダメージを与えたのだった
そして本当にデザートを抜きにされたことでメフィも邪薙も相手が悪いのだと静希を説得しようとするが静希は聞く耳持たずに就寝
そして二人の口げんかが始まる
そのせいで寝不足になったのはいうまでもない
「でもそんなに好きなら一人一つずつとかあげれば・・・」
「明利、甘い、甘いぞ、砂糖菓子より甘い、躾は早いうちからだ」
「躾ってあんたあの二人の保護者か何か?」
もはや静希はあの悪魔と神格に対して覚えていた恐怖も敬意もかなり薄れてしまっている
もちろん根本的な限度や節度は守っているが何もかもイエスを通していれば相手がつけ上がるのは道理
ならばしめるところはきっちりしめなくてはならない
「それに別なものを与えると俺の食う量が増えるだけなんだよ、あいつらが食うこと=俺が食うことなんだから」
「あ、そうか、そうだったね」
明利はメフィと邪薙の食事?の仕方を知っているだけに納得が早い
あの二人は妙な表現だが味を堪能しているだけだ
メフィは静希が食べないと味を知ることができないし、邪薙は食感や食べ物本体を食しているわけではないために静希が食べない限り結局原本が余る
甘いものがそんなに好きではない静希にとって一番の解決策は邪薙にお供えしたものを静希が食べる際にメフィに味わうようにさせる
こうすることで一つの菓子で三人が満足するということになるのだ