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J/53  作者: 池金啓太
一話 「引き出し」
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森と万華鏡

「本当に真っ正面から来るなんて、飛んで火にいる何とやらね」


用意しておいた罠を能力で作動させ、一m近くの岩をいくつも陽太に向けて投石する


木によって阻まれることも多いが、それでも数の暴力、陽太の進撃を確実に阻害していた


「五十嵐の姿が見えないわね、響だけ先行してきたのかしら?」


「あ、あの状態の陽太君じゃ静希君も追いつけないから、後で合流するつもりなのかも」


「なるほどね、なら今のうちにいたぶっちゃいましょうか!」


鏡花の目の前から岩の腕が形成され、まるで意識があるかのように接近してくる陽太に向けて襲いかかる


腕の行動は地面にたたきつけるか殴りつけるの二つしかなかったが投石に加え、直接攻撃してくる敵まで現れ、これ以上接近することができないようだった


「あとは落とし穴に追い込むわ、五十嵐が来る前に決着付けて」


「待って!」


意気揚々と前進しようとした鏡花を明利が引きとめた瞬間、鏡花の足元を何かが通過、そして二人の間、周囲に何かが高速で飛び交っているのが明利と鏡花の目に映っていた


「何これ!?なに!?」


高速で移動を繰り返すそれは鏡花の動体視力ではとらえきれるものではなかった


ただ、何か速いものが攻撃の意志を以て動きまわっているということだけ


それが生き物なのかも怪しい


「幹原さん、感知できる?」


「えと、速すぎて・・・でも大きくない、小さな、物」


神経を集中して察知に努める明利をよそに、あたりを飛び交う謎の物体に気をとられたのか、集中力が途切れ、投石と岩石の腕の動きが鈍った一瞬を突き、陽太が眼前にそびえる腕を粉砕し急接近する


「まずいわね、幹原さん、いったん退くわよ!」


「え、えぇ!?」


急ごしらえで岩の腕を作り、跳びかかってくる陽太に向けて強打、上空に弾き飛ばすことに成功するや否や全力でその場から離れようとするが、脚に違和感を覚え次の瞬間痛みが走り、その場に横転してしまっていた


「った、なに?!」


気がつくと鏡花の脚部、太ももの部分に小さなナイフが刺さっているのが見える、そのナイフの柄の部分には細いピアノ線のようなものも結び付けられていた


「血・・・血が・・・」


「おいおい、ナイフが刺さったくらいでおたおたすんなよエリートさん」


嬉しそうな声をあげて森の奥から現れたのは陽太の相棒、静希だった


ナイフの刺さった太ももからは血が漏れるように流れ、力を入れると僅かな痛みが鏡花を襲った


「それほど痛みはないだろ?ナイフに麻酔を塗り込んでるから、ある程度は感覚を麻痺させてくれるはずだ、もっともある程度までだけど」


その笑いは明らかに鏡花の現在の状況を理解したうえでしている笑みだった


力を入れるたびに痛みが走るが、確かに何もしなければ痛みはほとんど感じられない、それどころか徐々に感覚がなくなってきている


「さて、片方は足を負傷、こちらは二人とも健全で攻撃態勢万全、決着ついたか?」


不安そうに見上げる明利に目配せをして、それでも鏡花を見つめるが、鏡花は不敵に笑って見せる


「冗談、あたしをあまりなめないでくれるかしら!?」


勢いよく地面に手を突いた瞬間、静希と陽太の足元の周囲一帯の地面が変質する


ただの形状変換ではなく、二人の足元の物体がただの土から流体状のコンクリートに変質していた


「いい!?まじかよ!?」


「形勢逆転ね、幹原さん、肩を貸して、ここから離れるわよ、長くは持たないわ」


ゆっくりとその場から離れていくと男子二人の足元だけではなく、周囲半径十メートル以内の全てをコンクリートに変換し、その場から去っていく


構造変換、変換系統の最上位に当たる技で、形を変える『形状変換』、個体液体などの状態を変換する『状態変換』に対し、構造変換はその物質の構造を変える、つまり、どんな物質にも変換できるのである、石を金に変換することも、銅を鋼に変換することもできる


過去、変換能力者が錬金術師と言われた最たる理由がこの能力であると言われている


「くそ!こんなんありか!?」


静希はクローバーのトランプからワイヤー付きのナイフを高速で射出した


先ほど鏡花達を惑わせたのもこの能力である


静希の能力、歪む切札は五百グラム以下のものを保存する、だが保存するのはなにも物質だけではない、入れる際に発生していた運動エネルギーも一緒に保存されるのだ


入れる瞬間に五十キロの速度があったのなら同じく五十キロの速度で射出される


静希の保持するナイフは全て強化状態の陽太の手によって投げられたため、はたから見ても百五十キロ以上は出ている、高校球児でもなかなか出せないほどの速度である


高速でナイフを射出、そしてその先にトランプを配置しておき、再度回収


それを繰り返すことでほぼ無限に攻撃ができるのである


静希はトランプを自分の意のままに動かすことができる


このトランプ自体も静希の能力の一部であり、思うがままに操れるのである


射出、移動、回収、その動きを細かく制御することでまるで敵を何人もいるかのように錯覚させることもできる


先ほどは高速移動するナイフで明利達の意識を撹乱しながら鏡花の足元を狙ったのだ


ワイヤーを伝って何とかコンクリの海から這い出た静希はナイフを陽太に向けて投げ、同じく救出する


「びびった、まさかこんなことができるなんてな」


木の上に登って避難する陽太は能力を解除して身体についたコンクリを少しずつ落としている


静希も同様で、コンクリートの海と化した周囲を驚きと畏怖の目で見回している


「形状、状態、しかも構造変換まで使えるなんてな、能力評価Sもらえるわけだよ、おっかないねえ」


よもや変換系統能力者の使用できる全ての能力を使えるとは思わなかった、万華鏡の名に偽りなしと言ったところだろう


「でもどうするんだよ、こんだけのことができるってことはあまり悠長にしてられないぞ?本気出したら俺ら一瞬じゃんか」


「そうだ、一瞬なのに何でさっきコンクリに変換してすぐに俺達を拘束しなかったんだ?」


先ほどコンクリに沈みかけていたあの隙を鏡花が見逃すとは思えなかった


静希は考える、何かあったのではないかと


ふと考えをまとめようとしていると、ある一定の場所、先ほど女子二人が立っていた場所だけ、通った場所だけ舗装され、固体状になっているのに目をつける、歩きやすいようにきっちりとならされているようだった


「もしかして・・・」


今までの鏡花の能力発動を思い出しながら、静希はある仮説を作り出す


「にしてもどうやって二人を追う?どっか行っちまったし」


「手掛かりは残ってるよ、ほれ」


静希が手にとっているのはピアノ線、先ほど鏡花に刺さったナイフの柄部分に結びついていたものである


ナイフ自体を抜くと出血が激しくなるために移動中は抜けない、仮に抜いたなら血の跡で追跡できる、しかもナイフの麻酔が効いているのと歩いている時の痛みのせいで糸が作り出す動きと痛みを知覚できない


「さっさと追おう、コンクリの海に沈むなんて俺は御免だ」


「まったくだ、んじゃいくぞ、つかまってろよ!」


部分的に藍炎鬼炎を発動して静希が燃えないように気を使いながら木から木へと飛び移りピアノ線をたどっていく


「大丈夫?清水さん」


「大丈夫かなぁ、歩くと結構痛くて」


脚をわずかに引きずりながら歩く明利と鏡花


静希達をコンクリートに沈めてからかなり歩いて距離を稼いでいるものの、陽太の前にはあまりないようなものである、何とかして脚の治療だけでもしたいものだが、この森の視界は十分すぎるほどに開けてしまっている、これでは治療中に見つけてくれと言っているようなものだ


「ちょっとまってて」


明利は鏡花を木に寄りかからせ、周囲に向けて懐から取り出した何かを蒔く


そして短い集中をすると地面からゆっくりと木が生えてきて二人の周囲を覆い始める


周囲五mほどを若木で覆い尽くし、視界をゼロにした明利は鏡花に駆け寄る


「すごいわね、こんなこともできるんだ」


「この木なら時間稼ぎもできるよ、ナナカマドだから火にもある程度持ちこたえてくれるし」


明利は体操服の裾を切り、太ももの付け根を軽く縛って止血し、合図をしてナイフを引き抜く


僅かな痛みが鏡花を襲うが、麻酔が効いているのかそれほど強くは傷まなかった


「麻酔までかけてくるなんて、用意周到ね、ありがたいけど」


「うん、そこまでひどくない、ナイフ自体もよく殺菌されてるから雑菌はほとんど入ってない、化膿もしなさそうだね」


短い集中とともに手を当てると血を流していた傷は綺麗になくなり、痕ひとつない、あるのは血が流れていた痕跡だけである


同調と強化を併用した治療、同調で患部の様子を事細かに調べ、強化により自然治癒力を高め治療を施す、治癒系能力の基礎である


「でもごめんね、麻酔は取り除けないの、まだちょっとしびれるかも」


「いいわ、痛みがなくなっただけ十分、すごいのね、こんなに簡単に治せるなんて」


「そ、そんな・・・」


恥ずかしそうにうつむく明利は手元をいじりながら恥ずかしがっている


だが何かに反応したかのようにある方向を向く


「どうしたの?」


「二人が追ってくる、真直ぐこっちに来てるみたい」


「え?嘘、あれを簡単に抜けたってこと?!しかも何で私たちの居場所が?」


慌てふためいていると明利が足元に転がっているナイフがわずかに動いているのを見て手にとると、その柄からピアノ線が延びていることに気づく


「これ、糸がついてる」


「じゃ、じゃあここの位置もわかっちゃうじゃない!早く移動しないと」


「みぃぃぃぃつけたあぁぁぁぁあぁぁ!」


若木の向こう側から熱気と陽太の声が響き渡る


だが周囲五mは火に耐性のあるナナカマドを敷き詰めてある、そのおかげか炎を全開にした強化状態の陽太でも直線でやってくるのは難しいようだ


だが所詮は火に弱い木、もうすでに陽太の炎が眼前に迫るほどに接近してきていた


はよプロローグ代わりの一話を終わらせたいものです


お楽しみいただければ幸い、今回も二話投稿です

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