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J/53  作者: 池金啓太
四話「異国の置き去りの時間」

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人外の時間感覚

「でさシズキ、結局旅行中って私達をどうするつもりなわけ?」


別段静希に意見を聞かずとも最終決定は自分で下すのにそういうことは確実に静希に伺いを立てる、悪魔の癖にそういうところは細かい


「先生が平気って言ってるんだし、連れてくよ、お前らをこの家に放置してると何されるかわからんからな」


「失礼ね、お留守番くらいできるのよ?」


「旅行から帰ってきたらマンションごと消滅してそうだからやだ」


「素直に一緒に行きたいって言えばいいのに」


「さっきまでの会話をどうすればそういう結論にたどり着くんだ?」


自分の存在とどのように見られているのかがさっぱりわかっていないような発言に静希はぞっとする


よもや本気で言っているわけではあるまいが


「にしてもイギリスかぁ、あんまりいい記憶はないわね」


「そもそもお前イギリス行ったことあるのか?」


「あるわよ、日本にもずっと昔だけど来たことあるのよ?」


意外だ、この悪魔出不精だと思っていたが結構行動的である


部屋に帰ってきた途端にソファに身を預けてテレビ見ながらそんなこと言っても全く説得力はないが


「ちなみに日本にはいつ頃来たんだ?」


「んと・・・まだ刀とか使ってた時代の話かな」


想像に反して大昔だった


今になって思いだすがこいつは悪魔なのだ、人間と同じスケールで話してはいけない


「んじゃイギリスにはいつ行ったんだよ、また何百年前の話か?」


「そうよ、五百年くらい前かな、当時は別の呼び名だったみたいだけど場所自体には行ったことがあるわ」


なんとも時間感覚の狂う旅行記だ、聞いてると自分の人生の必要時間が少なすぎるのではないかとさえ思えてくる


「ふうん、そういえばお前って一体今いくつなんだ?」


「さあ?数えたことなんてないわよ、時間の感覚だってほとんどないようなものだし」


「なんで?一年周期で覚えてればいいだけじゃないのか?」


静希は人間だ、自分が生きてきた時間だって十五年と少しの間だけだ


どうしたって年単位で昔のことを思い出すのだって難しい


「・・・シズキ、私がいったいどれだけ生きてきたと思ってるの?」


「いや知らねえけど、邪薙もそうなのか?」


「ふむ、私も自分の年齢などは覚えていないな、そもそも数えていない」


人間が何日、何週間という単位で記憶を刻むのに対し、悪魔や神格は年単位で記憶を刻む


それこそ面白いことがなければ何百年と無為に過ごしていることもある


「私達は目的がなければ時間を連続して経由することなんてないわ、百年単位で繋がりを断つ奴だっているんだから」


「・・・なんかアバウトだな」


「人間は生き死にのサイクルが短すぎるのよ、貴方達だって虫や動物よりずっと長生きだけどいちいち彼らの生活に関わろうとする?気が向いた時だけでしょ?」


そういわれると確かにと静希は納得する


あくまで自分の生活が一番、その他の生き物の観察などは時折気が向いたとき程度にしかしない上に興味も向かない


「私からすればここ数百年の人間の発展が異様な速度で進んでるってのが嫌でもわかるわ、何せちょっと目を離したら移動手段が馬から車になってたのよ?軽いショックを覚えたわ」


「というかお前としては今俺と一緒にいるのはなんでなんだ?元の生活とかは?」


悪魔の生活、どうにもイメージしにくいがこの悪魔にも召喚される前の日常があっただろう、その日常をほっぽり出してまで静希と一緒にいる意味はあるのだろうか


「ん・・・元の生活って言われてもね、ただぶらぶらしてただけだし、好きなことを好きな時にやってただけ、貴方達から言わせれば堕落した生活ってやつ?」


「あぁ・・・確かにイメージできるよ」


荷物をすぐに出せるようにセットしなおしながら静希はいつの間にかソファに横になっているメフィに目をやる


堕落


この悪魔に最も似合う言葉だ


「だから今は貴方と一緒にいる方が楽しいわ、貴方が死ぬまでは一緒にいるつもりよ?」


「なんかプロポーズみたいだな、人生初のプロポーズが悪魔からとは・・・」


「ふふ、死が二人を別つまで・・・離さないわよ?」


「うっへ、なんか死刑宣告された気分だ、邪薙何とかしてくれよ」


「ふむ、マロンケーキで手を打とう」


「お前まだ食い足りないのか」


どうやらチーズケーキだけでは満足できないのか、追加の供物を要求し始める神格にため息をつきながら静希は神棚のチーズケーキを手にとって口に放り込む


「んん、甘くておいしいわね」


「お前また味覚に同調してんのかよ」


「だって一人で食べるより二人で食べた方がおいしいでしょ?」


「それ意味合い違うからな」


もはやこの人ではない存在との生活が静希の日常となり果てていた


いい意味でも悪い意味でもにぎやかであり、そして退屈しないのだ


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